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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1994/08/10 朝日新聞朝刊
(論壇)憲法論議の新たな地平
飯尾潤
 
 社会党が長年掲げてきた自衛隊違憲論を村山首相が撤回したことは、唐突な決定もあって、一般には困惑を持って迎えられたというのが正直なところであろう。
 だがこれは意外なことではない。近年どれだけの人が自衛隊違憲論を言葉通りに実行されるものとして受け取っていただろうか。野党の社会党が違憲論を唱えることで、与党自民党の軍備拡大志向に歯止めをかけるというのが、おおかたの了解であり、自衛隊の廃止を具体的な課題として受けとめていた社会党の政治家は少なかったはずである。
 社会党の違憲論は、与野党の固定を前提とし、社会党の役割分担として主張されていたのだから、与野党関係が変化した現在、それが転換されるのも当然といえよう。
 問題は転換の説明がいかにも間に合わせで、今後の真剣な議論の基礎にならないことである。選挙制度改革を考慮すれば、自社連立のもとで、社会党が有力な政治勢力として中期的に生き残る可能性は大変低い。その意味で社会党は自民党に吸収されていくわけであるから、政策転換自体は不可避であって、問題とするに足りないともいえる。
 もちろんこれほど急激に立場が変えられるのなら、旧連立与党との政策協議で妥協点が発見でき、生き残れたはずだとも言えよう。だが、政局に独自の力学があり、その中で自社政権を作った以上、自己の信念を政党の壁に優先させる政治家が出るのは別として、自社の枠組みは維持せざるをえないであろう。
 このとき社会党の政治家が、過去を忘れ、一自民党員として再出発するというのならともかく、支持者に責任を感じるならば、政策転換の論理的な説明を提示すべきである。なぜなら安全保障の選択肢がなくなったのではなく、議論は次元を変えて新たに始まるからである。
 これからの対立軸を考えると、旧連立各党は、アメリカを中心とする国際秩序を前提としながら、日本の国際的な活動を広げる形で平和を確保するという積極的な安全保障論を展開するものと見られる。
 これに対する自社の政策は「護憲リベラル」といったスローガンにとどまっている。これは防衛というと、すぐに抽象的な憲法論議が入り込み「護憲」といえば安全が確保されるような思いこみが邪魔して、平和や安全保障について具体的な政策が議論できなかったためである。
 しかしこれからは、自衛隊の編成をどうするのか、アメリカからの軍事的役割拡大要求にどう対処するのか、非軍事の貢献としては何ができるのか、といった具体的レベルで政策を練ってゆく必要が出てくる。
 それは、おおむね日本の歴史的な立場を強調する独自路線となると思われるが、「憲法があるから」という言い訳ではなく、有権者とともに、海外の諸国をも納得させる政策の枠組みづくりが切実に求められているのであり、「平和」を掲げてきた社会党の政治家には、これに積極的に参加する義務がある。
 また憲法論議に新たな地平が開かれた、という大きな変化を指摘しなければならない。これまで憲法改正といえば、直ちに第九条の問題となってしまい、議論に幅がなかった。社会党が自衛隊を合憲としたことで、日本国憲法は、その根本的な性格についての対立から解放された。
 第九条ぐらい解釈の幅があれば、現実の問題として改正の必要は薄れてしまい、今後憲法九条の改正問題は課題としては小さくなるだろう。
 そこで、これまで隠れていたほかの条項の検討問題が出てきても不思議はない。たとえば、いわゆる「新しい権利」の追加の問題、二院制の問題、地方分権に関する具体的規定の必要性など、日本国憲法の正統性を前提に、その手直しを議論することが可能になったと考えられる。
 九条をめぐって、違憲・合憲が争われている間は、憲法そのものの定着が問われているので「護憲」が問題となるが、それが定着するとなると、「憲法の精神を生かすために改正を考える」という正常な状況が日本にも生まれる。大げさにいえば日本国憲法は、ようやく「日本人の憲法」として、そのあり方を自由に議論できる段階に達したのである。この状況を生かした新たな憲法論の登場が求められているといえよう。
(埼玉大学助教授・政治学)
 
◇飯尾 潤(いいお じゅん)
1962年生まれ。
東京大学大学院修了。
埼玉大学大学院助教授、ハーバード大学客員研究員を経て、現在、政策研究大学院大教授。


 
 
 
 
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