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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1993/11/20 産経新聞朝刊
【沈黙の大国】(210)憲法への視角(5)混乱教育界
 
 違憲か合憲かでいまだに論争が続いているのが、教科書の検定だ。「家永教科書裁判」はすでに三十年近くにも及んでいる。教育の分野で、こうした“もめごと”が延々と展開されていていいとはいえまい。この問題も憲法見直しに欠かせないテーマだろう。
 
◆見直し件数2万2千
 「教科書の執筆者が、公正な立場で、間違いがなくバランスの取れた記述に努めさえすれば、本来、検定などいらないんです。しかし、現状はそれにはほど遠いのです」
 昭和六十年まで十三年にわたって文部省の教科書調査官をつとめた時野谷滋・関東短期大学長は、こう指摘する。
 教科書検定とは、教科書会社が著作・編集した図書が、教科書として適切かどうか審査し、これに合格すれば教科書としての使用を認めるものだ。審査は、(1)学習指導要領に示された事項を不足なく取り上げる(2)政治や宗教の問題は公正に扱う(3)一面的な見解を取り上げない―などの検定基準に基づいて行われる。
 教科書検定が、教育を受ける権利を定めた憲法二六条、表現の自由を保障し検閲を禁じた二一条などに違反するのかどうかをめぐって争われているのが「家永教科書裁判」だ。だが、そうした憲法論争の一方で、教科書会社が文部省に提出する申請本には、事実関係の誤りや不正確な記述があまりにも多いという現実を見逃すわけにはいかない。
 ことし七月に発表された高校教科書の検定では、十三教科で四百三十五点の申請があった(うち合格は四百二十点)が、記述の見直しを求める検定意見は計約二万二千件に達した。一冊あたり五十件以上だ。その中身たるや、何とも首をかしげたくなる誤りが多いのである。
 A社の世界史の教科書には、『アメリカの草案をもとに、国民主権、戦争の放棄と恒久平和をうたった日本国憲法が制定された』とあり、憲法の基本三原則のひとつである「基本的人権の尊重」が抜け落ちていた。
 B社の現代社会は『(国際連盟は)一九三〇年代の日本やイタリアの侵略行動に有効に対応できず、ついには第二次世界大戦が勃発してしまった』として、ドイツの侵略を見落としていた。
 C社の政治・経済では、広島に投下された原子爆弾の写真説明に『核兵器の誕生は人類史上画期的な意味をもつ』とあった。「画期的という表現は適切ではない」と検定意見がつき、『きわめて深刻な意味をもつ』と修正された。
 こうした検定意見とは別に、教科書会社は申請後に自主訂正を文部省に提出する。誤記・誤植の訂正や表現の変更、表記の統一などだが、その数は一冊平均三百カ所にものぼる。ことしの発表分では、数学で一ページに二十カ所近い訂正を出した教科書会社もあったという。
 あまりのミスの多さから、「教科書会社は、文部省の教科書調査官に校閲の仕事までさせている」とまでいわれる。
 児童、生徒には、教科書を選ぶ自由はないし、そのための批判能力もない。それだけに教科書は公正、妥当なものでなければならず、事実関係の誤りや偏った意見をそのまま押し付けるべきでないことは当然でもあろう。
 だが、その当然のことをめぐって日本の教育界は長い間、論議を続けてきたのである。
 ことし三月の第一次家永訴訟の最高裁判決では、「検定で不合格となっても、一般図書としては自由に発表でき、思想の自由市場に登場させることは何ら妨げられず、検閲に当たらない」などとして、検定制度を合憲とした。その後、十月の第三次家永訴訟の控訴審判決でも最高裁判決を踏襲し、合憲であることを確認した。
 
◆魅力ある教科書とは
 検定は憲法に違反しないという判例は定着しつつあるともいえる。だが、憲法学者のなかには、これ以上の教育界の混乱を放置しておくのはよくないとして、「検閲を禁じた憲法二一条に『初等中等教育で使用される教科書の検定は検閲にあたらない』という一文を挿入すべきだ」とする意見もある。
 検定問題というと、「南京大虐殺」や「日本軍の残虐行為」などばかりが焦点となりがちだが、近・現代史の記述は通説・定説に基づくべきであるという裁判所の判断が妥当なところだろう。何よりも、そうした問題以前に、検定の実態をみれば、教科書づくりに携わる筆者、出版社など関係者のレベルが問われているともいえそうだ。
 教科書問題に詳しい明星大学の高橋史朗教授(元臨教審専門委員)は「日本の教科書は、多様性という点で米国などと比べて遅れている。魅力ある教科書をつくるにはどうすればいいのか。法の論理でなく、教育の論理で教科書を考えるべき時期にきているのではないでしょうか」と指摘する。
 
<教科書検定の流れ>
 出版社が文部省に提出した申請本は、学識経験者らで構成する「教科用図書検定調査審議会」が教科書として適切かどうか審査する。修正が必要と判断した場合は、合否の決定を留保し、文部省の教科書調査官を通じて「検定意見」を出版社に通知する。その後、出版社は検定意見に従って修正した内容を「修正表」として提出し、審議会の再審査を受ける。この検定で合格したものだけが教科書として提出される。従来の検定システムには“密室検定”などの批判が出たため、平成三年度から、申請本と検定後の見本本の公開などが行われるようになった。
 
<日本国憲法>
〈第三章 国民の権利及び義務〉
第一九条【思想及び良心の自由】
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二一条【集会・結社・表現の自由、通信の秘密】
 (1)集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 (2)検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二三条【学問の自由】
 学問の自由は、これを保障する。
第二六条【教育を受ける権利、教育の義務】
 (1)すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 (2)すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。


 
 
 
 
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