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1993/01/26 産経新聞朝刊
【水平垂直】矛盾?不備?―憲法と実情本文
 
【戦争放棄】
 政府・自民党では、渡辺副総理や三塚政調会長らが、現行の九条では十分な国際貢献を行うことはできないと主張。集団安全保障の概念を明確化し、自衛隊を国連平和維持活動(PKO)に派遣する際、憲法上の疑義が生じないように、九条の例外規定を置く必要性などを説いている。
 昭和五十七年、自民党憲法調査会の総括小委員会がまとめた現行憲法についての中間報告の中で、九条の「改正試案」が打ち出されている。これによると、戦力を保持せず、国の交戦権は認めないとした九条二項を削除し、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、自衛隊をおく」と明記。さらに(1)首相が内閣を代表して自衛隊の最高指揮監督権を有する(2)首相は国会の承認を経て防衛状態を宣言する−などを加えることを提案している。
 その一方で、中間報告をめぐる論議の中では、すでに九条が国民の間に定着していることや、近隣諸国に警戒感を抱かせるなどの理由から改正は不要との意見も出され、結局、九条改正については「なお総合的判断にまたなければならない」と結論づけられた。
 
【私学助成】
 私立学校などに「公金その他の財産」を支出することを禁じた八九条に対して、憲法見直し派は「私立学校への国家助成は違憲の疑いが強い」(自主憲法期成同盟)と、疑いを無くすための改正を主張している。
 三塚政調会長も代表質問の中で、大学生の約八割が私大で学び、今年度の私学助成が三千八百億円にのぼっている現状や、教育の機会均等などの観点から「無理な条文の解釈を続けるより、各党の合意を得て改正を真剣に検討すべきだ」と指摘した。
 政府は現在、私学振興財団を設け、ここに助成金を支出した後、各私立学校に、配分する形を取っている。判例や学説などには、現行制度は私学の自主性を保っている上、監査も行われ、公金を浪費していないので、現在の私学助成制度は合憲との見方もある。
 
【国民投票制度】
 三塚政調会長は昨年末以来、国論を二分した国連平和維持活動(PKO)協力法など重要案件について、国民投票によって決する制度を導入すべきだと主張している。公明党も議論の対象として国民投票制度を挙げている。
 しかし、国民投票にはその時の感情やムードに流される恐れがあることや、政府側が投票結果に拘束され、柔軟な政策運営に支障を来すことを危ぐする意見もある。また、現在の議員代議員制度による間接民主主義との整合性の問題もある。
 九六条の憲法改正規定では国民投票が行われることになっているが、具体的に国民投票をどのような方法で行うかが定められておらず、この問題も含めた国民投票制度の議論が必要となりそうだ。
 
【地方自治】
 地方分権を推進するため、地方自治について明確に規定すべきだというのが憲法見直し派の主張で、改正意見の中には、国政と地方自治を区別せずに、国と地方公共団体との協力を強調することを求めるものもある。
 自民党憲法調査会の過去の論議では、九二条がいう「地方自治の本旨」の意味合いが不明確なことや、地方公共団体の範囲をどこまでにするかなどが指摘された。また、首長の多選禁止規定を置くことや、地方公共団体として自主的な課税権を明確化すべきとの意見が出された。
 
【首相公選制度】
 中曽根元首相らの持論。最近では、山崎前建設相を会長とする「首相公選制を考える会」が発足し、導入の機運が高まった。
 これに対して、小沢元幹事長らは「国民の直接選挙により選出された首相は元首になる」などとして、議院内閣制や天皇制との関係を理由に、導入に否定的な見方を示しているほか、「公選制は人気投票に陥る恐れがある」といった批判もある。
 自民党憲法調査会はかつて、「第五章内閣」についての論議の結果、「全体的にみて議院内閣制度を骨子とする本条章は基本的に改正する必要はない」と結論づけている。
 
【権利義務】
 現行憲法制定からかなり時間を経て確立したプライバシー権、知る権利、環境権などについて、憲法の中でどのように位置づけるかが今日的課題となっている。一方、自民党内の過去の論議では、「公共の福祉」という権利の一般的制約の解釈や、土地など財産権に対する一定の制約の必要性などがテーマとなった。
 
【その他】
 三塚政調会長は「核兵器の廃絶」「地球環境の保全」といった日本が国際社会に対して積極的に主張していくべき課題や、時代に対応した新しい理念、制度を憲法の中に明文化することを提唱した。
 このほか、前文に網羅すべき事項として、(1)現行憲法が日本国民自身の手で作られたことの確認(2)平和主義と国際協調主義(3)世界平和の確立に寄与する信念−などを明確化すべきとの主張は多い。


 
 
 
 
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