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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/08/30 読売新聞朝刊
[内閣法制局・実像と虚像](15)「自衛隊」解釈に腐心(連載)
 
◆「改憲必要」43年前に指摘 現実とズレ大きく
 
■次官OBの異論■
 今年五月、「わが国安全保障・危機管理の課題」と題した国政報告の小冊子が出版され、防衛関係者の間でちょっとした話題になった。元防衛事務次官の依田智治参院議員(自民党)が著したこの冊子の中に、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という憲法九条第二項の規定をめぐるこんな一節があったからだ。
 「この憲法の規定を素直に読んで、日本が軍隊を持てると読む人は、余程頭が良いか、余程頭の悪い人だと思う。普通の人が読んだら、日本には軍隊はないと思うでしょう。だから軍隊でなく、自衛隊を保持していると説明されている。
 しかし、二十五万の国の防衛のための人員を常備し、少なからぬ九〇式戦車、多連装ロケット、F15戦闘機、護衛艦、イージス艦、AWACS等の最新鋭の装備を備えた自衛隊は、まぎれもない陸軍であり、海軍であり、空軍です」
 これは事実上の「自衛隊違憲論」で、違憲状態解消のために憲法改正の必要を訴えたものとも言える。
 めざす方向は百八十度違うが、自衛隊の実像と憲法の規定に隠し切れないほどの大きな隔たりがあるという認識では、自衛隊違憲論を唱えてきたかつての社会党と相通じる一面がある。
 依田氏は警察官僚出身で、中曽根内閣で首相秘書官を務めたあと、防衛庁に転じた。現役の官僚時代と政治家では立場が違うとはいうものの、防衛政策の最高責任者だった事務次官OBからこうした指摘が出ることは、この問題を改めて見つめ直す必要があることを示すものと言える。
 
■「戦力」変遷に関与■
 警察予備隊から始まって今日の自衛隊に至る実力組織の保持と、憲法九条の「戦力不保持」の規定とは、どのような憲法解釈で結ばれてきたのだろうか。
 その変遷をたどると、法制局がこの問題にいかに深く関与してきたかが改めて浮き彫りになる。
 憲法制定当時、政府は「憲法九条第二項において、一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄した」(吉田首相)と、自衛権を厳格に解釈し、「戦力」についても「一国の戦闘力を構成することを常の姿としている力」と定義して、「こうした戦力は保持できない」としていた。
 しかし、一九五〇年に朝鮮戦争が勃発(ぼっぱつ)したのを受けて七万五千人の警察予備隊が発足し、五二年にこれが保安隊に再編・強化されると、戦力についての新たな解釈が必要になった。
 法制局は「憲法が保持を禁じている戦力とは、近代戦争遂行に役立つ程度の装備・編成を具(そな)えるものをいう」とし、「保安隊は戦力に該当しない」との新解釈を作成。政府は五二年十一月の閣議でこれを政府の統一見解とすることを決めた。
 ところが、東西冷戦が深まり、五四年に自衛隊が発足すると、この「近代戦遂行能力」論にも限界が見え始めた。
 再び法制局の出番となる。決定の場面は、第一次鳩山内閣がスタートした直後の五四年十二月二十日に国会内で開かれた政府与党の連絡会議。普段は出席しない法制局の林修三長官と高辻正己次長(いずれも当時)が出席し、高辻氏が立案した「自衛のための必要相当な範囲の実力部隊を設けることは違憲ではない」などとする新たな解釈をめぐって激論が交わされた。
 「私の真っ正面にいたのが重光葵外相で、『自衛のための戦力ならいくら持ってもいいじゃないか』という、当時、はやっていた自衛戦力合憲論を勢いよく主張した。これを説得するのに時間がかかった。が、最後は根本竜太郎官房長官らが賛成してくれて、私の説でいこうということになったんです」
 職を賭(と)す覚悟で説明に当たったという高辻氏は生前、こう証言している。
 
■必要最小限度論■
 この高辻案を原型とした「必要最小限度」論といわれる戦力に関する見解は、現在まで四十三年間、政府見解として堅持されてきた。
 かつて「戦力なき軍隊」と言われた自衛隊。
 金額だけで単純に論じることはできないが、発足当初の五五年に千三百四十九億円だった防衛費は、今年度は四兆九千四百十四億円となり、世界有数の水準にある。依田氏が指摘するように、装備にも最新鋭のものが少なくない。
 政府は「自衛隊は通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」(八五年、秦豊参院議員の質問主意書に対する答弁書)としているが、国連平和維持活動(PKO)などで海外に派遣された場合、自衛隊は軍隊の扱いを受けている。
 国会では、九四年六月の村山内閣誕生を機に社会党が自衛隊合憲論に転換し、この問題をめぐる政治的情勢は大きく様変わりした。「戦力」に関する論戦もすっかり下火になった。
 しかし、高辻氏が立案した九条解釈に関する五四年の政府統一見解には、その後あまり言及されることはなかったが、次のような一項目もあった。
 「自衛隊は違憲ではないが、憲法九条については誤解もあるので、機会を見て憲法改正を考えたい」
 この宿題はまだ手つかずに残っている。


 
 
 
 
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