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1997/08/09 読売新聞朝刊
[内閣法制局・実像と虚像](8)法解釈、現実とズレも(連載)
 
◆「整合性」徹底するあまり… 問われる判断適否
 
■権限強い仏
 内閣法制局のような機関は他の国にはない。欧米諸国と比べ、日本の特色、問題点はどこにあるのだろうか。
 内閣法制局が一八八五年に発足した際、フランスのコンセイユ・デタ(国務院)を模範とした。法制局が戦前、「大蔵、内務、法制局」と並び称されたように、国務院も財務監察局、会計検査院と並んで「三つの偉大な組織」と称され、エリート養成校の国立行政学院(ENA)のトップクラスが集まる高級官僚の牙城(がじょう)だ。内閣法制局と裁判所の一部を兼ね備えた性格を持ち、国務院の承認なしには法律はもちろん大統領令も発効しない。必要な立法、行政改革などについて、毎年、政府に報告書を提出する形で意見具申も行う。
 権限の幅広さ、強さの点で、国務院は戦前の法制局に近いが、現在の日本の法制局とは大きな違いがある。
 政府提出の法案を大臣会議にかける前に国務院の意見を聞かなければならないこと(憲法三九条二項)など、その権限と役割が憲法で明確に定められている点だ。
 法制局の場合、職務、権限は憲法ではなく内閣法制局設置法で定められているにすぎない。しかも、法案審査と、法律問題について「意見を述べること」が、法制局の「事務」とされているだけで、法制局の「意見」が政府を拘束するわけではない。
 
■英国は助言だけ
 議院内閣制の本家・英国には、政府提出法案について法律的なアドバイスを行う「パーラメンタリー・カウンシル」という機関がある。英国では、法案が政府から議会に提出された段階では、日本のように詰めた内容になっていない。議会の論戦の中で完全なものに仕上げていくのが通例で、カウンシルもあくまで技術的な助言をするだけだ。
 
■法制局がない米国
 アメリカと比較すると、日本の法制局の独特の在り方が一層鮮明になる。
 厳格な三権分立をとり、議員立法が原則の米国には内閣法制局に当たる機関はない。議会と委員会の多数の立法担当スタッフが、実際の法案作りをする。
 会期中に出される法律案は一万件以上に上るが、成立率は五―六%程度だ。しかも、法案成立後に訴訟が頻発し、成立後に司法によって憲法違反とされる例も少なくない。
 例えば、最近では、米連邦最高裁は六月下旬、インターネットの倫理規制を強める「通信品位法」や銃販売を規制するブレイディ法の一部を違憲とする判決を下した。
 日本では、法律そのものに対する違憲判決はごく少なく、政府が提出して成立した法律で違憲とされた例はない。
 
■法体系の違い
 背景には、日本は他の法律との整合性を重んじる大陸法系に属し、法体系としての整合性より、法律の間に重複などがあっても、最終的には裁判で決着をつけ、法律を直していけばいいという英米法系の国とは異なるという事情がある。
 内閣法制局幹部は、「事前に混乱を防ぐか、混乱が起きた後に裁判で処理するか。社会的コストは前者のほうが安くつく」と、法制局が事前の法案審査で憲法などとの整合性を徹底的にチェックする日本の仕組みのメリットを強調する。
 
■憲法解釈の権威に
 法律や規制によって問題が起きないようにする「事前規制」は日本の行政システムの一つの特徴だ。
 飯尾潤・埼玉大助教授は、「法制局も同じだ。憲法や他の法令と抵触しないよう安全係数をどんどん高くし、大丈夫そうでもダメと言っているうちに、社会の実態とずれ、限界が現れてきている」と指摘する。
 大統領制と議院内閣制、英米法系と大陸法系などという基本的な違いがあるにもかかわらず、日本でも、アメリカ流の考えに立って、最高裁に違憲立法審査権が与えられ、憲法上は、最高裁が最終的な憲法解釈を行うことになっている。が、実際には、最高裁は、高度の政治判断が必要な事柄は、「統治行為」として判断を避けているため、憲法裁判所のような役割を果たす機関がない。
 これが、法制局を「第一次憲法裁判所」(五十嵐敬喜・法政大教授)と言われるほど、憲法解釈に権威を持つ機関にした。
 飯尾氏は、「法制局の法律判断の適否が問われなければならない。それは政治の役割だが……」と言う。
 
《各国の立法審査・助言機関/憲法判断・解釈機関》
 
  政府の立法審査・助言機関 違憲立法審査機関
英国 パーラメンタリー・カウンシル
*技術的な助言のみ
最高司法府
米国 なし
*法律提出権は議員にしか認められていない
連邦最高裁
ドイツ 連邦宰相府
*首相の政治方針に合致するかを審査
連邦憲法裁判所
フランス コンセイユ・デタ
*憲法の規定に基づき、政府提出法案について議会提出前に審査
憲法会議
日本 内閣法制局
*政府提出法案のすべてを審査。政府の憲法解釈も行う
最高裁


 
 
 
 
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