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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1993/05/03 毎日新聞朝刊
[社説]憲法 冷戦後こそ真価を発揮――行動が伴う平和主義に
 
 「地球より重い命を何にささげたのか。一人ひとりが考えることが、何より大切でしょう」「制度や法律の不備を非難ばかりしていてよいのか、そうではないと思います」
 国連ボランティアとしてカンボジアで亡くなった中田厚仁さんの父が四月、本紙の単独取材に応じ、無念さを乗り越えて語った言葉に、多くの人は心にズシンとくるものを感じさせられたのではないか。
 だが、政界からは「民間人が危険な所にいて、自衛隊が安全な所で作業していていいのか」といった言葉も飛び出しているという。なんと貧しき発想かな、と思う。
 冷戦の終結や湾岸戦争以後、日本社会は閉塞(へいそく)感に襲われている、といっていい。
 それは、冷戦終結とともに続発する地域紛争、民族紛争などを目前にして、国際貢献とは何なのか、その座標軸を定めきれずにいるもどかしさ、国際社会での日本の役割は大きく変化しているのに、それに対応すべき政治が力量不足、という情けなさに起因する。
 
◇国際貢献に悩む世論
 こんな中、現行憲法下で平和と繁栄を享受してきた日本に、最も欠けていた要素の一つ「傑出した、大きな志をもった貢献」の実像が中田さんの死にオーバーラップする。
 だが、だれにでもできる貢献ではないが故のうしろめたさ、かといって、軍事的な貢献にのめり込むことにはためらいが伴う感情が複雑に絡まるのが実情ではないか。
 毎日新聞社がこの四月上旬に行った世論調査にも、身をよじって悩む世論の姿が映し出されている。
 「憲法を改正する方がよい」が十一年前より十二ポイント増えて四四%を示したが、それが緊急の課題だとする意見は少数だ。平和と繁栄に果たしてきた現行憲法の役割を高く評価し、九条を改正して、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)や国連による軍事的行動に協力できるようにすることは、二五%にとどまった。
 「時代の変化に応じて」憲法の見直しは必要だが、国際貢献との関係などは性急な判断を保留し、じっくりとした論議と合意形成を求める、という対応であろう。
 日本を見つめる国際社会の目もまた、揺れている。例えば、昨年十二月、米ニューヨーク・タイムズ紙は、ソマリア救済のためドイツは連邦軍を派兵する方針だが、日本は一億ドルは拠出したものの、憲法上自衛隊は派遣できないとしている、と日本を非難する記事を載せた。
 ところが、同紙は今度は今年二月、日本が憲法を改正してでも、平和執行部隊に参加してほしいとの期待を表明したガリ国連事務総長発言をめぐって「日本の一層の国際貢献は望ましいが、軍事力の行使についての歯止めを緩める必要はない」「日本の有権者が憲法を改正するのは自由だ。しかし、見識ある外国人で、憲法改正を声高に要求する人は、ほとんどいないことを知っておくとよい」とする社説を展開する。
 
◇新時代へ、磨き直しを
 こうした状況下にあって、私たちは、むしろ、冷戦終結後の世界にこそ、日本の憲法が発している平和主義の規範と行動が大きな価値を持ち、その真価を発揮させるべき時なのだ、という大きな流れの方向は間違いないと考える。
 同時に、この憲法の存在だけをもって、日本の目指す道や平和主義を国際社会にアピールし、理解と評価を得るのは、冷戦後は一層不可能なこととなろう。
 冷戦後の紛争が、当事者の一方の側に立った武力行使では、さして解決の役に立たず、結局は平和構築の枠組み作りへの粘り強い外交努力、経済支援などがカギだ、という筋道はこの段階でも十分見通せる。
 問題は、冷戦後の新しい枠組みが確立され、例えば国連が国際的な警察機構のように変身するまでの過渡期に、どう対応するかである。日本として、この辺が実に悩ましい。目の前に紛争が燃え盛るからである。
 国際貢献に対する世論の強い志はようやく姿が見えてきた。もう一つ必要なのは、貢献が必要な際の機敏な行動と、巧みな知恵である。
 いまから五年前、私たちはこの欄で「国際貢献税」といった目的税を創設し、国民総生産(GNP)の一%を国際社会に供託する構想を提言し、先の湾岸戦争後の掃海艇派遣では、特別立法という合意方法を提案もした。
 こうした知恵や工夫はこれからこそ不可欠になる、と確信する。
 他方「憲法は時代の変化に応じて改めた方がよい」という世論の考えも健全なものであろう。
 ただ、今回の調査で「解釈が分かれる条文をはっきりさせた方がよい」との改正論の理由を挙げる率が高まっていることは、注目しなければならない。
 この回答は、二十、三十、四十の各世代と五十代以上とでくっきりと分かれている。前者の率は後者よりはるかに高い。
 これからの世代構成を考えれば、二十一世紀にかけての憲法論議がより複雑にならざるを得ないのは、こうした点であろう。
 それだけに、基本的人権の尊重、法の下の平等、地方自治など、現行憲法のあらゆる部分の国民一人ひとりとのかかわりの検証、現段階で、どの部分が、どう時代にそぐわなくなっているのか、詳細に洗い出す作業や、半世紀近くにも至った憲法状況の世代間の継承と、憲法の不断の磨き直しも問われ始めている。
 拙速は避けながら、国民各層で日常的な憲法論議を進めたいと思う。


 
 
 
 
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