2003/08/27 朝日新聞朝刊
めざすは保安官助手か 憲法改正(社説)
自民党の結党50年にあたる再来年11月までに、党の憲法改正案をまとめるよう、小泉首相が山崎幹事長に指示した。
自民党は結党以来、自主憲法制定をその「政綱」に掲げてきた。改憲を持ち出すことで総裁選での求心力をいっそう強めたい。総選挙をにらみ、憲法問題で内部対立を抱える民主党にくさびを打ち込む。そんな政治的な計算もうかがわれる。
しかしだからといって、小泉氏の意図は、ただ漠然と憲法をめぐる国民的な議論を起こせればいい、というものではあるまい。首相自身の過去の発言や最近の自民党の動きを見れば、主眼が9条の改正に置かれていることがはっきり見える。
首相は2年前の就任以来、「自衛隊が軍隊でないという部分は不自然だ」と9条を批判し続けてきた。また、自衛隊をインド洋に派遣するためのテロ特措法と憲法との間に「すき間」があるとして、集団的自衛権の行使を違憲とする現在の憲法解釈の見直しに積極的な考えも示した。
響き合うように、党の憲法調査会のチームが先月、集団的自衛権の行使を可能とする「憲法改正要綱案」を公表した。
衆参両院の憲法調査会の報告が来年末までにはまとまる。改憲論をタブー視する空気はなくなった。しかも、小泉氏自身の人気は依然高い。こうした状況を読んだうえで、9条改正への流れを一押ししてみようというのが今回の意図だろう。
9・11テロ。北朝鮮の核とミサイルの開発。世界の保安官を気取るブッシュ米政権の単独行動主義。どれもが日本を取り巻く環境を劇的に変えた。
憲法9条と日米安保体制を組み合わせて自国の平和と地域の安定を両立させることが、長く日本の基本政策だった。それがいま、米国の戦争への後方支援やミサイル防衛で、一層強力な自衛隊の行動を伴う協力を求められるようになった。憲法と安保の矛盾がこれほど際立った時代は初めてだ。
しかし、イラク戦争で日本は、もちろん戦闘行為に参加しなかった。そればかりか治安状況の悪化から、イラク復興を掲げた自衛隊派遣も先送りしている。
一方、米政権の軍事政策に影響力を持つパール元国防次官補は、先ごろのテレビ朝日の番組で「日本は憲法を改正し、保安官の助手になるべきだ」と語った。アーミテージ国務副長官はかねて、日米関係のモデルは英米同盟だというのが持論だ。
首相や自民党の主張する憲法9条改正が実現し、集団的自衛権の行使が可能になれば、それは、自衛隊がイラク戦争のような軍事行動に加わることに道を開く。
6割近い国民が今回のイラク派遣にさえ反対していることを忘れてはならない。世界が大きく変わりつつある時だからこそ、指導者には腰をすえて国の針路を考えてもらいたい。憲法をめぐる論議は大いに歓迎だが、首相の姿勢は余りに軽い。
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