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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/05/20 朝日新聞朝刊
日本国憲法という羅生門 早野透(ポリティカにっぽん)
 
 5月1日のメーデーは五月晴れだった。東京・代々木公園での連合の集会は不況を反映して「雇用をつくれ」「仕事をよこせ」といったスローガンが躍っていた。
 民主党の菅直人代表があいさつに立って「野党協力で小泉政権をうち倒さなければならない」と叫んだ。社民党の土井たか子党首は「連休明けには有事法制がとりざたされている。戦争のできる国にしてはいけない」と語った。自由党の藤井裕久幹事長は「経済めちゃくちゃ。(イラク)戦争わっしょいだ」と小泉首相を痛烈に批判した。
 この時点、3党はそれぞれ3党らしい主張をしていた。まあ、こんなところだろうと私も屋台のたこ焼きをほおばって楽しんだ。
 
 3日の憲法記念日。東京・日比谷公会堂で、こんどは共産党の志位和夫委員長と社民党の土井党首が参加して憲法集会が開かれた。2人は、平和憲法を守れ、有事法制反対と熱心に説いた。
 集会で聴衆の心に響いたのは、翻訳家の池田香代子さんの話だった。「ソフィーの世界」を訳し「世界がもし100人の村だったら」「やさしいことばで日本国憲法」を書いた人である。
 「芥川龍之介の小説に『羅生門』がありますね。昔の日本人は、長安をまねて平安京をつくった。しかし城壁はつくらなかった。城壁の代わりに門をつくった。門には鬼が住んで都を守る。精神性が都を守る。日本には昔から丸腰の思想があるのです」
 「日本の憲法は日本人がつくっていない、GHQの占領軍がつくったといわれて違和感もある。だが、戦争が終わったばかりで死者をたくさん見送った当時の人々が、日本人もGHQも、人間として死者の思いに突き動かされてつくったのではないか」
 物語や昔話を研究する池田さんは、物語は死者の思いを映す「物の怪(け)」であると続ける。なるほど日本国憲法という物語は水漬くかばね、草むすかばねの物の怪なのか。池田さんはこう結ぶ。
 「死者の思いはこうもあったろうかと、死者の声に耳をすますべきではないか」
 そして15日。長い間もめたのにいざとなると案外あっさり通るものだな、有事法制関連3法案が衆院を通過した。自民と民主の間で「基本的人権の尊重」などの修正が施され、自公保の与党3党に民主と自由の両党を加え、なんと9割の賛成である。共産と社民が反対に回った。
 小泉首相は「戦後50年間、有事というものを議論することさえタブー視されてきた。与党と野党第一党が合意をみることは、日本の政治史にとっても画期的なことだ」と語った。これは慶賀すべきことなのか、それとも憂うべき大政翼賛会なのか。
 「有事」を語ることはタブーだったのか。何か触れるべきことを触れないですますというタブーだったわけではあるまい。冷戦の現実の中で国の防備ということに気を使いながらも、身の回りにたくさんの死者を出したあんな戦争を再び繰り返したくないという日本国民の思いの深さがあって、「有事」という事態を考えるのをためらっていたということだったろう。そのことは決して否定的にとらえるべきものではない。
 
 だが、ともあれわが国会は9割の賛成をもって「有事法制」に踏み出すのである。これは、かつて社会党にいた民主党の幹部の話。
 「社会党の村山首相が自衛隊を認めた以上は、緊急事態のときにそれがどう動くか考えることになるのは論理的には必然でしょう。この問題はかつての自民党と社会党の間で議論し続けてきた。それをひきずっていると、民主党の進路が不自由になる。これからの党を担う若い人たちのために、このあたりでケリをつけておきたかった」
 ただ、忘れないでほしいのは日本国憲法という羅生門のことである。「有事法制」の国権と人権とのバランスを細心に気配りしつつ、そもそも「有事」を起こさせない腰のすわった平和主義の志を新たにしてほしい。
 芥川の「羅生門」では、都がさびれ門は荒れ果て、盗人が住み、引き取り手のない死体が捨てられている。そんなことにさせないように、民主党は重い責任がある。
(本社コラムニスト column@asahi.com)


 
 
 
 
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