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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/11/02 朝日新聞朝刊
生きた憲法論を交わす時 衆院調査会の中間報告(社説)
 
 設置から2年半の折り返し点をすぎた衆院の憲法調査会が、中間報告を公表した。報告とはいっても、憲法問題の行方を具体的にさし示したものではない。委員を務めた議員や参考人の発言を分野別に並べた、いわば論点整理集である。
 制定から56年がたち、世界も日本も大きく変わった。21世紀の日本にふさわしい憲法とはどういうものかという問題意識から、調査会は出発した。
 委員の意見を改憲と護憲に色分けすれば、改憲論が多数派だ。野党の民主党や、かつては慎重だった公明党にも改憲支持が広がっているためだ。
 では議論は改憲に向けて収斂(しゅうれん)しつつあるのだろうか。そうはいえまい。
 
◆拡散する改正論
 改憲論といっても、内容は多岐にわたる。9条問題をはじめ、首相公選制や国民投票制、環境権やプライバシー権の明記、憲法裁判所の設置等々、論点も比重の置きどころも論者ごとに異なる。報告が論点整理に終わった理由の一つもそこにある。
 憲法9条の第1項は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」の放棄をうたっている。これを削除または改めようという議論はほとんどなかった。
 問題にされるのは「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とした第2項だ。
 「そもそも自衛隊存在の論拠を読みとりにくい」「自衛隊が国連平和維持活動(PKO)や対米協力のために海外で活動するまでになったいま、もはや憲法の拡大解釈では取り繕えない」などの主張である。
 だが、どう改めるかとなると、単に「2項を削除する」から「2項のなかに自衛隊による国際貢献を明記するか、3項として追加する」や「文民統制や徴兵制禁止を明文化する」、さらに「集団的自衛権の行使を盛り込む」まで、実に多種多様だ。
 
◆9条問題の難しさ
 9条は、侵略戦争をした過去をもつ日本が戦後の世界でどう生きるかを規定した基本の枠組みである。改正は日本の大きな政策変更につながりかねない。国際社会に影響を与え、それが日本の利害に跳ね返る。
 条文を改めればすむわけではないところに、9条問題の本質的な難しさがある。
 今年5月の調査会で、集団的自衛権の行使を認めるべきだという民主党議員の質問に、寺島実郎・三井物産戦略研究所長はこう反論した。「米国のフィルターでしか判断できないいまの日本が、主体的に有事を認定できるだろうか。米軍の軍事行動にほぼ自動的に巻き込まれざるを得ない」
 寺島氏は、解釈改憲の積み重ねに反対する2項改正論者である。その彼が改憲と併せて説いたのは「日米安保の再設計」だ。在日米軍基地の段階的縮小などを通じ、米国とより対等な同盟を築き、アジアに多国間の安保フォーラムをつくる。それが「軽武装・経済国家」の道だという。
 現実を客観的に見据えたうえで、日本とアジアの平和を構想しようとする寺島氏をはじめ、従来とは異なる発想の9条改正論が出てきたことは確かだ。
 しかし、総じて、9条改正論にはなお不安や疑問がつきまとう。結果として米軍との一体化が進み、海外での軍事行動に道を開くことにならないか。9条を日本が再び侵略戦争をしない証しと受け止めてきた中国やアジアの国々に疑念を抱かせ、軍事緊張をあおりはしないか。
 日本の政治が、まず対米協調ありきの体質から抜けきれない。改憲派のなかには視野の狭いナショナリズムの流れも根強い。そうした懸念をぬぐい去るような議論の発展はなかった。
 憲法改正への賛成が反対を上回る近年の世論調査でも、9条改正となると反対が7割以上を占める(01年4月の朝日新聞調査)。軍事的役割の際限のない拡大に対する歯止めとして、国民の多くは依然9条を高く評価しているということだろう。
 
◆世代が変わるなかで
 五十嵐敬喜・法政大教授は、若い社会人たちと「市民の憲法案」作りを進めている。国会主導の改憲論議に不安を感じる一方、公共事業の見直し運動を通じて国民主権の形骸(けいがい)化を痛感してきたからだ。国民投票制や環境権などについて意見を募り、国政の場に提案したいという。
 身近な問題を憲法とのかかわりで考えようという動きが広がりつつある。若い人々が自分たちの手で憲法を考え直してみたいと考えるのは、悪いことではない。調査会が首相公選制や環境権などを取り上げたのも、時代の空気の反映といえる。
 だが、調査会に注がれる国民の視線はさめている。調査会の存在を知っている人が3割しかいないという調査もあった。
 多くの国民の関心は、明日の生活や日本経済の行方に向かっている。いま差し迫って憲法を論じなければならないと感じている人は多くあるまい。
 政治家への不信も深いものがある。「公選制導入で首相の指導力強化を」と説く議員が、抵抗勢力として公然と小泉首相の足を引っ張る。参院の憲法調査会長だった村上正邦被告は、実は金にまつわるスキャンダルまみれの政治家だった。
 調査会の議論はさらに2年余り続く。
 ときあたかも、世界は相次ぐテロやイラク攻撃をめぐって大揺れし、日朝関係は核や拉致問題で緊張のさなかにある。いずれも、憲法と重ね合わせながら日本の姿勢を考えなければならない深刻な課題だ。
 国民の前で生きた憲法論を戦わせるよい機会ではなかろうか。


 
 
 
 
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