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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/05/03 朝日新聞朝刊
憲法論議を国民の手に 国民主権の55年(社説)
 
 主権は天皇にあり、国民は統治される「臣民」でしかなかった大日本帝国憲法(明治憲法)には、有事に発動される「非常大権」の規定(31条)があった。
 「臣民」は、居住・移転の自由も言論の自由も、「法律の範囲内」で認められるに過ぎず、国民生活は治安維持法など無数の統制立法にしばられた。そのうえ、いざとなれば、「天皇の大権」を根拠に、政府が何でもできる仕組みになっていた。
 その明治憲法は施行55年の1945年、敗戦に続く占領軍の進駐で事実上効力を失った。翌々年の今日、いまの憲法が施行された。数えてみれば今年、旧憲法の寿命と同じ55歳を迎えたことになる。
 
○「臣民」から「国民」へ
 「臣民」は主権を持つ「国民」になった。「日本国民は、(略)政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し・・・」。憲法前文の冒頭の一節はこううたっている。
 小泉政権がその新憲法下で初めて、「有事対応」を内容とする武力攻撃事態法案など三つの法案を国会に提出した。「国民の生命と安全をいかに平時から考えていくか。大事な法案だ」というのが、小泉純一郎首相の説明である。
 起こりうる非常の事態に対し、あらかじめ統治機構の対応や国民の権利義務を整備しておくことの必要性だけをとれば、反対する国民はそう多くはいまい。
 しかし、日米安保協力に基づく周辺事態法からテロ対策特別措置法へと、ひたすら自衛隊の活動領域を広げてきたここ数年の政府と自民党の安保政策の方向性を考えれば、国民が不安を抱くのもまた、当然であろう。
 例えば、仮に台湾海峡で何か不穏な動きが起きたとする。米軍の行動に引きずられ、自衛隊が後方支援を開始する。事態沈静化への十分な努力を欠いたまま、「日本への武力攻撃の恐れがある」と、これらの法律が発動されることはないのか。
 ずるずると、戦争準備から戦争へと突き進んでしまいかねないそうした予測を、果たして「杞憂(きゆう)」といいきれるだろうか。
 そう考えると、問題は、法案の内容そのものというより、この国の政府の行為や判断に対する国民の信頼感の欠如にあることが見えてくる。歴代内閣は「戦争の惨禍が起こらないようにする」努力をどれほどしてきたのか、憲法が保障する自由や人権を本気で守ろうとしてきたか・・・と。
 
○欠いた憲法血肉化の努力
 民主主義の諸制度という「仏」は確かにつくられた。地域に根ざす市民活動の広がりなど、一定の成熟もある。しかしその制度に「魂」がどれだけ込められてきたか、と振り返れば、いまなお心もとない。
 近年、行政改革会議の委員や司法制度改革審議会会長など、政府の統治機構見直し作業の中心人物だった憲法学者、佐藤幸治京大名誉教授は「憲法の考えている姿と実際とが相当乖離(かいり)している」との思いから作業に加わった、と述べている。
 「法典をいじるかどうかの議論が強く、憲法典を現実に血肉化させるための努力をなおざりにしてきた」というのが氏の戦後政治観だが、同感だ。いまの日本に必要なのは憲法改正を、などと考えるより、政治や行政を、民意を真に反映する仕組みへとつくり替えていくことであろう。
 「逆転の発想」めくが、頭の体操として刺激的なのは、憲法改正の国民投票のことである。今の憲法の規定によれば、改憲は衆参両院の各3分の2以上の議員の賛成で発議され、国民の過半数の賛成があれば成立する。しかし、具体的な手続きを決めた法律はまだ制定されていない。
 
○改憲国民投票制度の「爆薬」
 改憲に積極的な「憲法調査推進議員連盟」(中山太郎会長)が先ごろ、その具体化として、「憲法改正国民投票法」など2法案をまとめた。かつての自治庁がつくった案を下敷きにしたとみられ、(1)投票は国会の発議後60日から90日の間に行う(2)投票用紙には改正案を掲載、投票は○×で(3)国民投票に関する運動は基本的に自由、などの内容が盛り込まれている。
 護憲勢力からは「改憲に道を開くものだ」「中身の議論が尽くされていないうちに、手続きを議論するのはどうか」といった反論がすでに起きている。
 法案は、確かに改憲への道筋づくりを企図したものであろう。しかし、改憲論者の多くが嫌う、直接民主主義という「爆薬」を秘めている制度だ。何より、憲法制定権が国民にあり、国民のコンセンサスなしでは実現しないことを改めて確認する意義はとても大きいのではないか。
 国民投票は、日本ではかつて行われたことがない。しかし、ヨーロッパ諸国やオーストラリアなどでは、憲法改正や条約の批准などをめぐって頻繁に行われる。民意と遊離しがちな議会制民主主義を補完し、端的に主権者の意思を実現する手段としての役割を与えられているからだ。
 改憲提案の場合は具体的な改定条項を明示し、賛否を問うことになる。詳細な意味や影響、文言の是非をめぐって、国民の間で激しい運動や論議が起こるだろう。全国民に問題をさらしたうえで、投票者の過半の賛成を得られるかどうかは、時の政権にとっても大変なリスクになる。
 私たちは、当面、憲法改正の必要性があるとは考えていない。しかし例えば、将来、民意を貫徹するための広範な国民投票制度の導入のためにも、この制度をどう設計するか、の議論は大いに役立つ。
 憲法の論議を主権者国民の側に引き寄せる意味からも、まともに考えてみたい。


 
 
 
 
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