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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/06/17 朝日新聞朝刊
理念・現実、溝埋まらず(国会調査会から 憲法を考える)
 
 衆院憲法調査会は14日、19人の委員が、今後の討議すべき論点や調査会の性格づけなどを訴えた。4日には2回目となる地方公聴会を神戸市で開催。傍聴席などから運営方法などに批判が続出した。参院調査会は6日、内閣法制局の幹部から、統治機構に関する国会論議や憲法解釈の説明を受けた。両院とも、参院選前の調査会は終わり、再開は秋以降になる見通し。(斎賀孝治、本田雅和、豊秀一)
 
○9条への幻想ある・葉梨氏 国民には評価の声・春名氏 衆院
 14日の衆院憲法調査会の自由討議は昨年8月以来。調査会の性格、今後の運営の仕方をめぐって「改憲派」「護憲派」の主張はかみあわないままだった。
 「次期国会の早いうちに、前文をはじめ、タブーなく国民参加の議論を始めてほしい。憲法9条は、戦後の平和が守られたのはこの規定のためとの幻想を国民に抱かせた」
 葉梨信行氏(自民)は、改正に向けて調査会の論議を深める必要があるとの考えをにじませた。
 昨年1月に衆参両院に憲法調査会が設けられて1年半。調査会は議案提出権を持たないことを設置時に確認しているが、回を重ねるに従って、歯車を回し、次の段階に進もうとの意見が出始めている。
 そうした主張を支えるのは憲法制定から50年余がすぎ、制定時は想定しなかった事態が起きているとの認識だ。
 この日の討議でも藤島正之氏(自由)が「情報公開制度やメディアが発達した現在は、国民の知る権利を憲法に明示する必要がある。冷戦後は地域紛争激化など、突発的で不確実な危機が危ぐされる」と強調。「国家の基本法たる憲法も現実への変化の対応を迫られる」と訴えた。
 中川正春氏(民主)も「憲法改正の発議権は国会にある。調査会は勉強会だけでなく、具体的な議論を進めていくべきだ」。中山正暉氏(自民)は「むなしいのは、5年論議しても改正案を作れないことだ」と調査会のあり方に疑問を投げかけた。
 現実に沿うように改憲の流れを加速させようとする動きを真っ向から批判するのが共産党、社民党の委員を中心にした「憲法の理念に現実をあわせるべきだ」との主張だ。
 春名なお章氏(共産)は、仙台市(4月)、神戸市(6月)での地方公聴会で、憲法9条を評価する声が多かったことをふまえて「調査会では憲法改正の素案作りをとの意見があるが、改憲志向と国民意識には大きなかい離がある」と反論した。
 東門美津子氏(社民)は、米軍基地が集中し、米兵による凶悪犯罪や、騒音・環境汚染が今も続いている沖縄の現実をあらためて指摘。「なすべきことは憲法改定ではなく、なぜいまだに差別がなくならないのか、憲法が暮らしの中にいきいきと輝いていないのはなぜかの真剣な調査が行われるべきだ」。調査会の性格が変わりかねないことへの懸念がのぞいた。
 こういった論争からやや距離を置き、21世紀のあるべき日本の姿を論じるよう訴えたのが仙谷由人氏(民主)や太田昭宏氏(公明)だった。
 仙谷氏は調査会の海外視察で調査した欧州連合(EU)の現実を例に、国家主権の国際機構への委譲、分権化の促進という2つの流れに言及しながら「国の形とは人権の形であり、中央と政府、国際機構と日本の関係だ」と問題提起。太田氏も現憲法下で進んだ個人主義、平和主義や、盛り上がりつつあるナショナリズムなどの功罪に触れつつ「国民憲法、環境憲法、人権憲法としての論議が必要だ」と語った。
 現実を優先するか、理念に現実を近づけようとするのか――1年半に及ぶ論議でも両者の溝は埋まらないままになっている。国民からすれば「不毛な論議」とも映りかねない。近藤基彦氏(21世紀クラブ)は「憲法を改正する、しないの前に、国民に憲法をもっと理解し、論議に参加してもらわなければならない」と呼びかけた。
 
○憲法解釈、見解ただす 内閣法制局、幹部が説明 参院
 6日の参院調査会では平野貞夫氏(自由)が、改憲に必要な国民投票制度の手続き法がないことを「立法不作為だ」としたうえで「憲法体系の欠陥と見ていいか」と参考人として呼ばれた内閣法制局にただした。
 阪田雅裕・同局第1部長は「憲法改正を現実の政治課題として取り上げる内閣がこれまでなかったから、その動機がなかったといえる」と答えた。戦後の歴代自民党内閣が、改憲を党是としているにもかかわらず改憲の具体化に手をつけてこなかった事実を指摘した。
 小泉純一郎首相が初めて明確に主張している首相公選制について、阪田部長は72年3月の衆院委員会で出した内閣法制局の見解を説明した。
 当時は、国会議員の首相候補者について国民投票を行い、一定の票を獲得した者について国会で議決するという「改憲をしない首相公選」構想も提案されていた。しかし「議会の多数派政党が内閣を組織して行政権の主体となるという議院内閣制の根本の仕組みを改める」ことになるとして「違憲と言わざるを得ない」と結論づけていた。
 一方、元裁判官の江田五月氏(民主)は「内閣法制局は、過大な役割を果たしてきたのではないか」と述べ、裁判所が具体的な事件の解決の前提としてしか違憲審査ができないことと比べて「最高裁に判断を頼めないから内閣法制局の意見が現実には最終的憲法解釈になる」と追及した。
 「憲法上、司法の内在的制約」と応じる内閣法制局に対し、江田氏は「(具体的事件と関係なく)抽象的な争点について憲法判断する諸外国の憲法裁判所は司法ではないのか」とたたみかけたが、横畠裕介・同局第1部憲法資料調査室長は「その場合、三権分立以外の第4権といわれることもある」とかわした。
 
◇市民から批判続出 神戸の公聴会
 衆院憲法調査会の神戸地方公聴会では、会場から「結論先にありきの芝居のようだ」「改憲への地ならしだ」など批判が続出した。中山太郎会長は「憲法調査会は、広範かつ総合的な調査が目的で、結論を出しておりません」と反論しようとしたが、その声はたびたびヤジにかき消された。
 
 各会派からの質疑終了後、中山会長は「時間があるので傍聴者からの感想を聞きたい」と切り出した。
 神戸市の会社員、井上力さん(51)さんは、父親が予科練の地理の教員で「特攻隊員に死に場所を教えていた。父は戦争の被害者であると同時に加害者だった」と述べ、加害の反省をふまえた憲法の擁護を主張した。震災被災者救済の法的整備も訴え、「(一部の委員は)法律の不備を理由に改憲を、と逆転した主張をしていた。国費を使って調査会を開くなら、まず被災者の現実をよく学んでからにしてほしい」と注文した。
 神戸大学の学生は「市民の声を聞くといいながら、市民の発言にまともに答えない。公聴会はごまかしだ」と不信感を表した。その背景には、各会派の委員が、自分の会派推薦の陳述人とばかり質疑を繰り返していたことがあった。
 また、前回の仙台公聴会の時から問題視されていた(1)多くの人が参加・傍聴できる場所の確保(2)休日の開催など開催時間の再検討、について市民団体から公開質問状も出されていたが、改善がほとんどなかったことへのいらだちもあった。
 公聴会終了後、改憲派の集会が開かれ、葉梨信行(自民)、中川昭一(同)、塩田晋(自由)の各委員が出席した。中川氏は「今日ほど神戸の印象が悪くなったことはない」と話し、護憲派の傍聴者がヤジを飛ばしたり拍手をしたり、垂れ幕を出したりしたことを指摘。「自分たちの権利のみを追求してルールを守らないという、憲法の一番悪いところが出た」などと不快感を表した。
 また、葉梨氏は改憲派の集会で「本日の公聴会でも10人の意見陳述者のほとんどは私どもと気持ちが一緒の方だった」と報告した。
 しかし、公聴会では、護憲の主張や現行憲法の平和主義の理念の実現などを訴えた人が4人、明確に改憲を訴えた人も4人。ほかに自民推薦の貝原俊民・兵庫県知事ははっきりとした姿勢は示さず、公明推薦の笹山幸俊・神戸市長は「憲法の規定と現行制度の間のギャップを埋める議論をしていただきたい」と述べるにとどまっていた。
 仙台公聴会では、護憲派の意見陳述人が多数を占めたため、改憲派の学者らは今回、独自に改憲を唱える市民の応募を呼びかけ、傍聴席にも動員をかけた。ふたを開けてみると、傍聴席の3分の2近くは、やはり護憲派で埋まった。
 自民党は「年内にできるだけ地方公聴会を開きたい」との考えだが、今後も「会場全体のムードづくり」をめぐって護憲・改憲両派の水面下の争いが続きそうだ。
 
<語録>
○誇り持って立ち上がる若者つくろう
 国連は第2国連といわれるほど、NGO(非政府組織)の活動を大事にしている。紛争の間に立って自らの使命で調停、和解をするNGOの姿はあらゆる紛争地で見受けられる。個人の尊厳、人間の誇りを持って立ち上がる若者を一人でも多く作り上げることが、新しい憲法に求められる骨格だ。(谷川和穂氏=自民)
 
○9条を誇りつつ、自衛隊合憲の修正を
 武力の行使の時代は終わり、個別国家としては武力を縮小して最終的な解消をめざす時代の緒についたと考える。憲法9条は究極の理想を記した、世界に冠たる条項だ。改正よりも世界に広げるべきだ。しかし、同時にその理想はまだ実現していないし、めどもついていない。自衛隊は国民の安心感のもとになっている。専守防衛の自衛隊は軍隊として合憲との修正条項を付加すべきだ。自衛権のいろんな論争に終止符を。(筒井信隆氏=民主)
 
 <国の統治に関する内閣法制局などの見解>=要旨(内閣法制局作成資料などによる)
■元首
 明治憲法には「天皇は元首」と明記されていたが、現行憲法には規定がないわけだから、何が元首かは必ずしも憲法論ではないともいえる。(01年6月6日、阪田雅裕・内閣法制局第1部長)
 実質的な国家統治の大権はなくとも、国家のいわゆるヘッドの地位にある者を元首と見るなどの見解もある。この定義によれば天皇は国の象徴であり、さらにごく一部だが外交関係で国を代表する面を持っているわけで、現行憲法のもとにおいてもそうした考え方をもとにして元首であると言っても差し支えない。(88年10月11日、参院内閣委員会で大出峻郎・内閣法制局第1部長)
 
■首相公選制
 憲法改正をしないでも首相公選制の実をあげることができるのではとの議論が一部学者にはある。現在の日本国憲法の基本的な政治原理である議院内閣制の根本の仕組みの一つを改めることになるのではないかということで、現在の憲法のもとではほとんど不可能、あるいは憲法違反と言わざるをえない。国会の多数党が主体となって内閣を組織し、それによって三権分立の行政権を構成するというのが議院内閣制の基本だ。(72年3月24日、衆院予算委で吉国一郎内閣法制次長)
 
■条約と憲法・法令
 条約を国内に直接適用できることは非常にまれ。多くの場合、条約を実施するためには国内法令の整備が必要。憲法上、条約は法律に優先するとされるが、条約と矛盾する法律を放置したままでは条約を実施することはできない。日本は、人種差別的思想の流布や人種差別団体への参加などを犯罪として処罰することを求めた人種差別撤廃条約の4条a、bを留保しているが、表現の自由を定めた憲法21条に抵触するおそれがあるというふうに判断されたからだ。(01年6月6日、阪田・内閣法制局第1部長)
 
■内閣法制局の憲法解釈
 憲法解釈は私どもの大変重要な仕事の一つ。その法令が憲法に適合しているかを検証する。典型的な例をあげると、国連平和協力法(PKO法)や周辺事態安全確保法(ガイドライン法)の内容が憲法に適合したものにするためには、集団的自衛権などもふくめ憲法9条についての一定の解釈が前提になる。解釈のないところには憲法の適合性の確認のしようもない。内閣の憲法解釈は法案審査だけでなく、行政執行を確保するうえでも必要だ。閣僚の靖国神社への公式参拝についても違憲かどうか、それなりの見解をもたねばいけない。内閣として憲法の統一した理解を図り、行政府として憲法の順守義務を果たしていくためだ。内閣法制局の憲法解釈は裁判所はもとより、国会に対しても何らの拘束力をもつものでもない。(01年6月6日、阪田・内閣法制局第1部長)
 最終的な憲法解釈権は、憲法81条により最高裁判所に帰属している。私どもは憲法解釈権を有しているのではないことは重々承知している。他方、政府部内ではいろいろな立場で法律の運用にあたるものは、憲法問題が介在している場合、憲法解釈をする必要がある。(98年4月22日、衆院行革特別委で大森政輔・内閣法制局長官)
 
■違憲立法審査権
 違憲立法審査を抽象的に行う権限は裁判所の枠を超える。もしそのように憲法が考えているのなら、明りょうにそのような抽象的な審査権を有すると規定する。(79年12月11日、衆院法務委で味村治・内閣法制局第1部長)
 
■統治行為論
 直接国家統治の基本に関するようなきわめて高度な政治性のある行為などについては、原則として裁判所の審査の外にあって、その判断は第1次的には主権者たる国民に対して責任を負う政府、国会などの政治部門の判断に従うべきであり、最終的には主権者たる国民の判断にゆだねられるべきである。(81年3月16日、参院予算委で角田礼次郎・内閣法制局長官)
 
■憲法改正原案の提出権
 憲法改正の提案も議案のうちの重要なものだから内閣に提案権はある。(75年5月14日、衆院法務委で三木武夫首相)
 (憲法改正の)発議権が国会に専属していることは(憲法の)規定の上からも明らかだ。ただ、国会でその改正案を審議されるもとになる案を国会に出す権限、つまり発議権と区別すると提案権になるが、そういう提案権は議員が持つことは当然だが、政府もまた持っている。(80年12月18日、参院法務委で角田・内閣法制局長官)


 
 
 
 
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