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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/05/03 朝日新聞朝刊
憲法と小泉新政権 「78%」と「3%」の間(社説)
 
 小泉純一郎氏率いる新政権が発足した。「ワイドショー内閣」と名付けて「選挙対策だ」と批判したのは、民主党の鳩山由紀夫代表だが、なるほど、お茶の間になじみの深い面々を閣僚の顔ぶれに加えたこともあって、人気は上々のようだ。
 発足直後に朝日新聞社が実施した世論調査によると、内閣支持率は78%と、細川護煕内閣の74%を上回り、過去最高となった。ひとけたにまで落ちた前政権の支持率からの急上昇は、国民がいかに旧来型の自民党政治にうんざりしていたか、永田町でなく国民に顔を向ける政治家を求めていたか、を如実に物語るものであろう。
 
○現実的課題ではない改憲
 ところで、その小泉新首相が就任後初めての記者会見で「集団的自衛権はあるが行使できないというのが今までの解釈だ。私は憲法改正が望ましいという考えを持っている」と述べ、将来に向けて憲法9条を改正すべきだとの立場を鮮明にした。
 ただ、9条改正をいま政治課題にのせるのは困難だとし、「首相公選制のためだけに憲法の改正をやるなら国民から理解されやすい」と発言した。新首相が「改憲」に言及すること自体異例だが、こうした発言が重大問題化することがなくなったところに、政治状況の変化がみてとれる。
 朝日新聞社が行った憲法をめぐる全国世論調査の結果が昨日付の紙面に詳しく掲載された。方向や関心はさまざまとはいえ、憲法の改正を必要と思う人は47%と、不要という人の36%を上回った。しかし、だからといって、改憲が国民にとって、具体的で切実な課題かといえば、そうではあるまい。
 同じ世論調査の「いま政治家に取り組んでほしいテーマ」の問いで一番多かった答えは、「景気回復」で63%。10のテーマから2つまで選ぶという質問形式だったが、多い順に環境問題、社会保障、教育改革、政治改革、財政再建と続き、憲法改正は下から2番目、わずか3%だった。
 驚くのは、昨年衆参両院に設けられた国会の憲法調査会について、70%の人が「できたことを知らない」と答えたことだ。
 この調査会は、90年代に入って永田町やメディアで強まった「憲法見直しが緊急課題だ」といった、改憲に前のめりの言論を背景に生まれた。しかし、今回の世論調査を見る限り、「一条たりとも」といった強固な護憲論こそ弱まったものの、国民の憲法意識は、驚くほど変化していない。
 憲法9条については74%が「変えないほうがよい」と答え、国際協力については66%が「軍事以外の協力に徹する」と回答した。小泉首相も認めたように、集団的自衛権をめぐる改憲論などは、世論の現実的基盤を欠いていることが改めて明らかになった、といえよう。
 憲法改正は、具体的な条項について真に必要な状況が生じれば、ためらうべきではない。と同時に、現実問題として、そういう状況でなければ実現も困難であろう。
 改憲には衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成に加えて、国民投票での過半数の賛成が必要だ。それも、個々の改正案について、何をどう変えるかという具体的な内容や文言まで含めた広範な合意が前提になる。価値観が多様化したいまの日本で、それは決して容易に整う条件ではない。
 
○首相公選制の現実味
 小泉新首相が「改憲の突破口に」と述べた首相公選制は、国民投票制の導入と並んで、政治にもっと直接的な民意を反映させよう、と考える多くの人々にとって、確かに魅力的である。
 しかし、昭和30年代に広範な憲法の見直しを行った内閣の「憲法調査会」でも反対論が強かったように、現実的な制度として考えた場合、問題がいくつもある。
 何より、議院内閣制との関係が深刻だ。首相の力が国会より強くなれば独裁の危険が生まれるし、国会のコントロールを強くすれば、公選の意味がなくなる。人気とり政治になる懸念もあれば、首相の元首性が強まり天皇制との関係も問題になる。
 民意とのパイプが細った永田町政治のありようこそが問題で、制度の問題ではない――派閥支配に冷水を浴びせた小泉政権誕生の経過からはそんな議論も出てこよう。
 
○失敗した豪の改憲
 とくに、公選首相が一般に国会との対立をはらむことを考えると、議員の大多数の賛成を確保するのは困難だろう。
 この難しさを示したのが、日本と同様に、憲法改正に議会の発議と国民投票の手続きが必要なオーストラリアで行われた、共和制移行をめぐる、99年秋の憲法改正運動のてん末である。
 100年前の植民地時代にできた同国の憲法は、外国人である英国の女王を国家元首にいただく君主制をとっている。しかし、独立国としての歴史を重ねるなかで君主制は事実上形がい化し、国民の間では共和制支持が多数派となってきた。
 そこで政府は、議院内閣制の下での首相と、公選大統領の二重権力による混乱を懸念する議会勢力を背景に、議会が大統領を選ぶ仕組みの改憲案をつくり、通過させた。ところが、大統領をみずから選ぶ公選制を求めた国民は、国民投票でこの改憲案に対し「ノー」を突きつけたのだ。
 憲法が、時代の課題に対処できているか、現実社会に憲法を生かし切れているか、を実際的な立場から幅広く論議し、必要な打開策や将来への選択肢を国民の前に提示するのは、政治の役割である。
 しかし、そうした論議を抜きにして改憲の突破口だけを求めようとするなら、民意と大きくずれてしまうだろう。新首相に考えてもらいたいのはそのことである。


 
 
 
 
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