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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/02/12 朝日新聞朝刊
一からわかる首相公選論
 
 有権者が首相を直接選ぶ「首相公選」の論議が盛んだ。官僚主導の政策決定を改めるには、首相公選によって「究極の政治家主導」を実現すべきだというわけだ。しかし、公選はいまの議院内閣制と相いれない。多くの案では憲法改正が必要で、実現は容易ではない。政治家に見識や指導力が欠けているのに、制度を変えれば政治が良くなるわけではない。首相公選が政治の万能薬ではないのだ。
(編集委員・星浩)
 
 Q:首相公選どんな仕組み
 A:大統領的首相を直接選ぶ。多くの案では憲法改正を伴う。
 
 首相公選の仕組みについては、さまざまな提案がある。公選を戦後早くから唱えてきた中曽根康弘元首相の案は、(1)直接の国民投票で過半数を得た候補を天皇が首相に任命する(2)立候補には国会議員三十人ないし五十人の推薦か、有権者五十万人ないし百万人の推薦署名を必要とする(3)任期は四年で二期まで(4)首相は国会を通過した予算案や法案に対する拒否権を持つ、などの内容だ。
 最近では、自民党の山本一太、民主党の浅尾慶一郎の両参院議員が公選の手続きを共同で発表。(1)推薦人は国会議員七十人か有権者百万人とする(2)衆院の三分の二以上の賛成で内閣を総辞職に追い込むことができる、などの内容だ。斉藤斗志二防衛庁長官が二年前に発表した案は、衆院選から国会での首相指名までの間に国民投票を行い、その結果に従って国会が首相を指名するという仕組みになっている。
 斉藤氏の案以外では、公選実現には憲法改正が必要だ。「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」(六十七条)などが対象となる。国会を「国権の最高機関」と定めている四十一条の改正が必要だという意見もある。
 日本の元首がだれかについては論議があるが、自由党の小沢一郎党首は「天皇が元首だ」とする立場から「首相公選は大統領制であり、大統領制になったら、天皇陛下は要らなくなる。元首ができちゃうんだから」として、首相公選に反対している。
 世界で首相公選を採用しているのはイスラエルだけだ。一九九六年から実施され、大統領とは別に有権者が直接選ぶ。この六日にも投票が行われ、シャロン元国防相が現職のバラク氏を破って新首相に選ばれた。立候補するには、十人以上の国会議員か五万人以上の有権者の推薦署名が必要だ。
 
 Q:公選論が出ている背景は
 A:議院内閣制では政治主導にならないという判断がある。
 
 一月六日からの中央省庁再編では、首相官邸のスタッフを強化したほか副大臣・政務官制度なども導入され、「官僚主導に代わる政治主導の政策決定」が叫ばれている。一層の政治主導を実現するには首相公選しかないという意見は、与野党を問わずに広がっている。
 学者や経済人らのグループ「新しい日本をつくる国民会議」(二十一世紀臨調、亀井正夫会長)が昨秋に実施した国会議員アンケート(衆参両院議員のうち四八・三%が回答=表)では、全体の五四・一%が首相公選を「前向きに検討すべきだ」と答え、「現時点では必要はない」の三〇%を大きく上回った。自民党では「前向き」が四二・六%にとどまったが、民主党では七三・六%にのぼっている。
 衆参両院に憲法調査会が設けられ、憲法論議が活発に交わされるようになった。それも憲法改正を伴う首相公選論議を盛んにしている。
 さらに、東京都の石原慎太郎知事が歯切れ良く新しい政策を次々と打ち出していることも、「石原知事は、都民の直接投票を背景にしているから思い切ったことができる」(中曽根元首相)といった評価を受けている。石原氏自身も衆院の憲法調査会で参考人として出席した際、首相公選について「行政のトップに立つ内閣総理大臣を国民が選ぶというのは、現代ではごくごく妥当な方法だ」と述べている。
 石原氏以外でも、長野県の田中康夫知事や高知県の橋本大二郎知事らが「大統領的政治家」のイメージを広げていることも首相公選論にはずみをつけているようだ。
 民間でも昨年十一月に市民グループが「首相公選の会」(小田全宏代表)を設立。討論会などを開く一方、国民の一割に当たる約千二百万人の署名集めを進めている。ホームページでの意見交換も活発に続けられている。
 
 Q:実現の見通しは
 A:憲法改正には反対論も多く簡単ではない。
 
 自民党の中では中曽根氏に加え山崎拓、加藤紘一、小泉純一郎各氏の「YKK」が首相公選論を唱えてきた。小泉氏は一月の講演で「憲法を改正して十年後には首相公選を導入すべきだ」と発言。若手議員にも賛成論が広がっている。
 民主党では鳩山由紀夫代表が熱心な公選論者で、改憲の大きな理由として公選をあげている。菅直人幹事長も最近、前向きに検討すべきだという考えを示した。公明党の支持母体である創価学会の池田大作名誉会長も二年前、機関紙「聖教新聞」で「首相公選制や大統領制まで視野に入れて論議する段階に来ている」と述べている。
 これに対して、代表的な公選反対論者は小沢一郎氏だ。元首との関係で否定的なだけでなく、最近の雑誌インタビューでは政治家の指導力とも絡めて「首相公選は大統領制だから支持されない。大統領制にしなきゃ政治のリーダーシップはできないのか。どうしてサッチャー(元英国首相)は、あれだけのリーダーシップを発揮できたんだ」と語っている。
 共産党はもともと首相公選に反対で、「独裁的な強権政治の基盤になる危険がある」(九四年の党見解)との立場をとっている。社民党も最近まとめた政策集で「議院内閣制を形がい化し、行政優位の官僚制や危機管理対策をますます強めることになる」と、反対している。共産、社民両党には、公選論で憲法改正問題が動き出し、九条改正に道を開くのではないかという警戒感もある。
 自民、民主両党内にも反対論があり、首相公選問題が本格的な政治テーマになれば党内の意見集約は簡単ではない。自民党の改憲派の中でも、憲法改正では首相公選よりも九条の見直しを優先すべきだという意見が強い。憲法改正は、衆参両院で三分の二以上の賛成で発議され、さらに国民投票で過半数の賛成がなければできない。小泉氏の言うように「十年後の実現」も、実際には難しい。
 
 Q:政治は変わるか
 A:制度を変えても政治の質がよくなるとは限らない。
 
 国民から直接選ばれた首相の力は一見、強まるように思える。しかし、米国でも大統領が議会との対立やスキャンダルなどで指導力を発揮できなかった例は少なくない。小沢氏が指摘するように、議院内閣制の英国でもチャーチルやサッチャーは、首相として強いリーダーシップを示した。米国では草の根を巻き込んで繰り広げられる激しい大統領選が、英国では伝統のある二大政党制が、それぞれ政治指導者を鍛えてきたという背景がある。そうした政治風土を抜きにして、「首相公選制を導入すれば政治が活性化する」といった論議は説得力がない。
 日本の政治は、リクルート事件など相次いだ政治スキャンダルを受けてこの十年余り、選挙制度や政治資金制度の改革に取り組んできた。「衆院に小選挙区制を導入すれば、政治主導の政策決定が実現できて政治の質も向上する」といった見通しも語られてきた。だが、現状ではケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)事件に見られるように、政治とカネをめぐるスキャンダルは絶えず、小選挙区制の導入で政治の質が高まっているようにも見えない。首相公選論もまた、「制度を変えれば政治が変わる」といった幻想を振りまきかねない。
 いまの議院内閣制は、戦争の反省を踏まえて、特定の人物や機関に権力を集中させてはいけないという判断から導入された。内閣が国会を代行して行政を進め、与党の政策も内閣に結集するという議院内閣制本来の形はいまだに整っていない。内閣は各省庁の寄せ集めで、首相が行政を束ねる段階に至っていない。政策決定は内閣とは別に自民党政務調査会などで進められている。首相公選を論ずる前に、議院内閣制を鍛え直すことが先決ではないか。
 
◆首相公選論は検討すべきか
 (1)前向きに検討すべきである(2)現時点で、その必要はない(3)どちらともいえない(4)不明
 
  (1) (2) (3) (4)
国会議員全体 54.1 30.0 15.3 0.6
自民党 42.6 38.5 18.9  
民社党 73.6 12.4 12.4 1.6
公明党 65.5 13.8 20.7  
共産党 88.9 11.1    
社民党 33.3 44.4 22.2  
自由党 14.3 71.4 14.3  
保守党 50.0 50.0    
(学者らで作る「21世紀臨調」の国会議員アンケート結果)


 
 
 
 
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