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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/10/05 朝日新聞朝刊
新世紀へ意義再考、現実と理念の「差」が論点に(憲法を考える)
 
 総選挙で中断していた国会の憲法調査会が、論議を再開した。衆院はテーマを、これまでの制定過程論から「二十一世紀の日本のあるべき姿」に移し、年内は各界の有識者との意見交換を進める。世紀の節目に立って、日本の自画像を改めて描き直そうという作業で、憲法九条の問題だけでなく、憲法と政治機構、国際貢献、新しい人権など論点は多岐にわたる。「憲法を考える」は、読者とともに憲法を考えるページ。衆参両院の調査会議論や参考人意見のポイントを紹介するほか、改憲・護憲の立場にこだわらず各界のオピニオンリーダーに憲法や国への思いを語ってもらう。
 衆院の憲法調査会(中山太郎会長)では、これまでの調査を通じて「現実と憲法のかい離」などの共通認識が広がった。半面、改憲(自民、自由、保守)、論憲(民主、公明)、護憲(共産、社民)という立場の違いはそのまま残った。総選挙後、新メンバーを加えて再開した論議では「改憲ライン」のキャスチングボートを握る民主、公明両党の対応が焦点となりそうだ。
 再開後の八月三日の調査会では、議論の進め方について各会派が意見を表明。年内に有識者計十四人と意見交換をすることになり、九月二十八日に東大教授の田中明彦氏と作家の小田実氏を国会に招いた。
 「現実と憲法のかい離」を各国がどう埋めてきたかを調べるため、調査会のメンバー九人が九月十一日から十八日にかけて、ドイツ、スイス、イタリア、フランスを視察。憲法裁判所や議会の関係者に実情を聴いた。
 参院憲法調査会(村上正邦会長)も再開の準備を進めている。
 
○九条めぐり、際だつ「すれ違い」(国会調査会から)
 阿部知子氏(社民):日本が発信すべき世界平和のメッセージとは何か。私たちは、憲法前文に書かれている平和的生存権と、核廃絶に向けた世界への発信を子どもたちに残す財産にしたい。
 田中明彦・東大教授:平和のメッセージを伝えることは大事だが、平和への道には万能薬はない。核廃絶は重要なメッセージだが、核廃絶すれば戦争がなくなるとはいえない。
 九月二十八日の衆院調査会。自民党推薦の参考人として招かれた田中教授は、核廃絶を絶対視しない見方を示した。
 「核兵器がなかった時代の方が戦争の数は多かった。核兵器のなかった第一次大戦の戦死者、戦傷者の悲惨さも、とてつもなかった。武力廃絶のために、ある種、武力に頼らざるをえないという側面は人間にとっての現実だ。そこを強調しないメッセージはかえって無責任になる」
 この考え方は「武力による抑止」や「正義の戦争」を認めるもので、九条堅持という社民党の主張とはぶつかる。阿部氏は、それ以上は反論しなかった。
 田中教授は、現行憲法が国連の平和活動参加を制限していると読むべきではないと述べる一方で、最小限の改定で済ませることを条件に「九条二項(戦力不保持)の削除」も提案した。「これによって集団的自衛権も行使できるし、国連活動にも積極的に参加できる」と述べた。
 ただ、議論がいま一つ深まらない場面も目立つ。
 この日、続けて社民党推薦の参考人として座った作家の小田実氏は「九条を足がかりに良心的軍事拒否国家をめざせ」との考えを示した。高市早苗氏(自民)や細野豪志氏(民主)は、小田氏が発想の基礎にした欧米の兵役拒否制度は通常の兵役制度や自国を守る防衛力があってこそ成立するのではないか、と疑問を投げかけた。
 小田氏が日本国憲法前文を「世界平和宣言」と高く評価したのに対し、高市氏が「まっさきに変えたい、おめでたい一文」とはねつけた。雑誌に掲載された小田氏の論文について話題を移そうとしたが、小田氏は「そんな問題を話しにきたのではない」と反発した。中山太郎会長が「答える答えないは小田参考人自身の意思に従わねばならない」と諭すと、高市氏はぶぜんとして持ち時間を残して質問をやめる一幕もあった。
 調査会のテーマは衣替えしても、参考人と委員のやりとりには、思惑のすれ違いが散見される。
 
◆語録
<護憲固執は怠慢?>
 この調査会は新世紀にふさわしい国の形を定める憲法の調査をしている。護憲に固執されることは本旨にもとるのではないか。日本国憲法は、確か世界で十六番目に古い憲法。後にできたドイツ基本法は既に四十数回、改正をしている。一度も改正を見ていないことは国会の怠慢とでも言うべきものではないか。(山崎拓氏=自民、8月3日)
 
<改革なら改憲に>
 いま日本はあらゆる改革をしなければ生き残れないという。あらゆる改革なら、基本法である憲法に議論が進まなければおかしい。独立国らしい議論をし、独立国にふさわしい憲法を作り上げたらいい。(奥野誠亮氏=自民、8月3日)
 
<憲法のおかげ>
 生まれたときから日本国憲法があり、それが当然のこととして生きてきた。二十五歳の女性の私がこの場で話ができるのも憲法のおかげ。戦争の悲劇を体験することなく生きてこられたのも憲法のおかげ。私たちに根づいた憲法が変えられるようなら、その変えられた憲法こそ国民にとって押しつけられた憲法だ。(原陽子氏=社民、8月3日)
 
<おめでたい前文>
 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という、この非常におめでたい前文を、改憲の機会があれば真っ先に変えようと思っている。日本がそういう努力をしたとしても、五十年後、万が一の事態が起きても、国の主権と国民の命を守りうる体制をつくることが政治家としての責務だ。(高市早苗氏=自民、9月28日)
 
◆憲法への主な政党の姿勢
<自民>
 現行憲法の自主的改正をはかり、国情に即して改廃を行う(1955年結党時の政綱)/国会に設置される憲法調査会をはじめ、あらゆる場を通じて、21世紀の新時代にふさわしい憲法のあり方を国民とともに真剣に議論していく(2000年党運動方針)
 
<民主>
 平和主義は重要で、維持されるべきだ。憲法問題を議論することは重要だ。憲法の文言と現実にかい離が生じた場合には、憲法解釈の安易な変更を行わず必要に応じて憲法改正をすることが、成熟した民主主義国家の取るべき道だ(99年党安全保障基本政策)
 
<公明>
 主権在民、平和主義、基本的人権の尊重の三原則は不変と確認のうえ、10年をめどに国民的議論を展開する(99年党運動方針)/国会の憲法調査会は5年間で結論を出すので、議論を速めねばならないかなとも思う(99年党大会で、当時の坂口力政審会長)
 
<自由>
 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という現憲法の三原則を発展させつつ、その指針に沿って21世紀を担う新しい憲法をつくる。それに基づき、政治、行政、地方自治、司法、経済などのシステムを抜本的に改革する(2000年総選挙での党公約)
 
<共産>
 全条項を最も厳格に守る立場を貫く。憲法の諸原則は20世紀の世界史の進歩的流れを発展させたもので、21世紀の国づくりの羅針盤になりうる。改憲の入り口に「新しい人権」を利用し九条を出口とする議論は全く道理がない(2000年党大会決議案)
 
<社民>
 憲法の掲げる主権在民、恒久平和、基本的人権、国際協調の理念を創造的に発展させる(ホームページの党基本政策)/九条の改悪を許さない。また、国の基本が問われているときに「論憲」というのは極めて無責任な態度だ(2000年総選挙での声明)
 
<保守>
 国民の生命と財産、国家の尊厳、社会の秩序、家族のきずなを守るために大胆な改革をいとわない。保守の心を実現するため早期に新憲法を作る(党ホームページ)/21世紀の早い時期に新憲法を作るべきだ(2000年の衆院憲法調査会で、野田毅幹事長)
 
◆今後の議論の焦点
◇国際貢献と九条 PKO・ガイドライン課題に
 「東ティモールのPKO(国連平和維持活動)に日本は自衛隊を派遣できなかった。『世界から信用される国家を』と息巻いたところで、世界でだれが聞く耳を持つか」
 九月二十五日の衆院本会議。代表質問で民主党の鳩山由紀夫代表は「初めに憲法ありきの考え方にとどまる限り、時代の変化に適応できない」と続けた。
 一九九〇年の湾岸危機を機に本格化した日本の国際貢献論議。多国籍軍への百三十億ドルの支援は逆に「カネしか出さない」と批判され、九二年のPKO協力法成立につながる。その際、停戦合意の存在▽紛争当事者による受け入れ同意▽武器使用は自衛的な場合に限定などの参加五原則を決めた。軍事的色彩の強い平和維持軍(PKF)本体業務への参加も凍結している。
 昨年、インドネシアからの独立をめぐって武力衝突が起きた東ティモールの場合、停戦合意や受け入れの同意がなかった。民主党は九月から、五原則の見直しに着手。与党三党もPKF凍結解除に乗り出す。ここで問題になるのが憲法九条との整合性だ。
 難民や他国の部隊が襲撃されても、いまの武器使用基準では応戦できない。だが、自衛以外で武器を使えば九条一項で禁じている武力行使や、政府解釈で認めていない集団的自衛権の行使にもなりうる。
 朝鮮半島や台湾海峡の紛争など新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が想定する「周辺事態」も、憲法との関連が問題になる。
 日本領域や公海上での米軍への輸送・補給など後方支援について、政府は(1)前線と後方は区別できる(2)後方は安全(3)だから武力行使に至らず、憲法違反にならない、と説明してきた。だが、ミサイルが発達した現代の戦争には前線も後方もなく、戦闘地域も刻々と変化するなどの理由から、公海上でも自衛隊が戦闘に巻き込まれかねないとの指摘は根強い。
 
◇政治制度と憲法 欠けた「めざす国づくり」論
 「外国人に参政権を認めることには、憲法上、疑義がある」(村上正邦・参院自民党議員会長)
 臨時国会の焦点である永住外国人地方選挙権付与法案をめぐり、憲法論議がかまびすしい。ときに、改憲論者が「憲法違反」を声高に叫ぶ、ねじれた構図も。
 反対派の論拠は「公務員を選定及びこれを罷免することは、国民固有の権利」とする憲法一五条。一方の推進派は、地方の首長、議員は「地方公共団体の住民が、直接選挙する」と定めた九三条と、最高裁判所が一九九五年に下した永住外国人に地方選挙権をあたえることは「憲法上禁止されていない」との判断がよりどころだ。
 地方選挙権の門戸を広げるかどうかは、どんな国づくりを目指すのかという問題に直結する。賛成、反対両派の主張の隔たりは、そうした視点から憲法を肉付けする努力を怠ってきたツケかもしれない。
 政治の閉そく状況も、憲法論議を加速させている。九月二十五日の衆院予算委員会。
 菅直人民主党幹事長「米大統領選でゴア、ブッシュ両候補の間で大議論になっている。我が国では、密室の談合で総理が誕生した。議院内閣制ではなく首相公選制の方が、より力のある人を選べるという考えが強まっている」
 森喜朗首相「国の根幹にかかわる問題。大いに憲法調査会で議論いただくのが適切ではないか」
 「官僚主権の憲法の運用を本来の国民主権の運用に改めれば、首相は強いリーダーシップを発揮できる」が持論の菅氏だが、最近は「首相公選制から憲法改正議論を始めてもいい」と軸足を移しつつある。
 世紀の節目に当たり、憲法の精神、運用の実態、そして政治の現実の三者がきしみをあげている。この国の政治のありようそのものが憲法論議の大きなテーマといえる。
 
◇新しい人権 権利保障へ実定法の整備も
 改憲派、論憲派の委員からは知る権利、プライバシー権、環境権などの「新しい人権」を憲法の中に盛り込むべきだとの主張が出されている。
 「知る権利」は、歴史的には米国で独立革命などの伝統を継承した憲法起草者たちが培った「自明の権利」とされてきた。後に最高裁判事となったジェームズ・ウィルソンは憲法起草会議で、憲法に明示がなくても政府を監視する権利こそが知る権利であるとした。
 日本国憲法は、言論、出版その他一切の表現の自由を保障している(二一条)。いかなる意見表明も判断のための十分な情報の獲得が前提で、「知る権利」は現憲法に保障されているというのが学界の通説だ。
 だが、情報を受けるだけでなく国や自治体に情報公開を求める積極的な権利については「法律の制定を待って具体化される」という説も有力だ。
 来春施行される情報公開法や多くの都道府県条例には「知る権利」が明記されていない。官僚や保守政党が反対したためだが、法に明記がなくても「憲法の体系に基づき、市民生活や裁判で実践できる権利はたくさんある」と奥平康弘・東大名誉教授は言う。
 「プライバシー権」も憲法一三条の生命・自由及び個人の幸福追求権に基礎づけられ、判例上も権利として認められつつある。具体的な個人情報の管理については、大綱案づくりが進む「個人情報保護基本法」などで具体化されるとみられる。
 「環境権」については、憲法の基本的人権、生存権、幸福追求権などを根拠にした裁判が一九七〇年代から提起されてきたが、判決の多くは「実定法上の根拠がなく、恩恵を受ける範囲を限定しがたい」との趣旨だった。
 憲法で環境権を明文化すべきだとの意見も根強い一方、憲法体系に明示、黙示された権利を具体的、手続き的に保障する実定法の整備の必要性も指摘されている。
 
○民族という虚構に依存する愚かしさ(聞く)
杉本良夫・豪ラトローブ大教授(60)
 ――衆院憲法調査会は今後、「国のあるべき姿」を議論するそうですが。
 カネもモノもヒトも国境を越えて急速に移動する時代の中で、国家のたがは緩んできている。国のかたちが溶解しつつあるといってもいい。一つの国家に帰属意識を持つよりも、二つ以上の社会や文化の不確実性の中で生きる「越境人間」が世界各地に現れている。
 国家という装置を動かす指導者や国会議員、官僚たちは、こうした流れの中で国家の弱体化に危機意識をもつだろう。
 五輪の情緒的な応援などを見ると、まだまだ国家の単位で戦っているようだったが、シドニーでは変化があった。少数民族アボリジニーの代表を聖火の最終走者にして、オーストラリアが多民族社会であることを宣言した。
 日本で言えば、国際祭典のシンボルにアイヌや在日コリアンを選んだようなもの。一元的な価値をめざしがちな国民国家(注)にとっては大きな矛盾であり、ジレンマだ。だが、国民国家に対して市民社会がふくれあがっていく世界的潮流は止めようがない。
 
 ――そんな中で憲法を議論する意味は。
 憲法とは国家を定義する声明文。日本国憲法は言論の自由やさまざまな個人の権利を保障し、国民国家よりは「市民社会としての日本」に比重を置いた先進的文書だ。しかも、国家装置の最大の要素である「軍隊」については非常に制限的な叙述をしている。
 調査会の中で「民族のDNAに合った憲法を」などという議論が出て驚いたが、日本人は近代化の過程で、単一国家=単一民族=単一文化という虚構の等式を刷り込まれてきた。
 かつては人種が生物学的定義で、民族が文化的定義とされたが、いまやどちらも科学的根拠が疑問視されている。黄色人種などの分類にしても、たくさんの差異の中で肌の色だけに着目することの主観性が指摘されている。
 日本には若者や老人の文化、海外の影響を受けた地域など、多様な文化がある。そんな違いを捨象した「日本文化論」が語られ、日本人を一民族としてとらえる国家イデオロギーが行き渡っている。
 しかし、もはや外国人労働者に依存しなければ日本経済が立ち行かないように、多様化、多元化していかなければ日本社会自体が成り立たなくなっている。
 植民地支配に抵抗する場合や強者に対抗するとき、民族主義を掲げて闘うのは分かるが、弱小国家でもない日本が民族という虚構に依存するのは愚かしい。
 
 ――九条が国際貢献の足かせになっているとの改憲論をどう思いますか。
 「普通の国」は軍隊をもっているからわが国も、とか、国際社会が正義のために戦うのだから、との論は俗耳に入りやすい。いずれも「正義の戦争」を認めることが前提だが、何が正義かは圧倒的軍事力をもつ米国が決めているのが現実だ。その中で、正義のために血を流すことが医療や食糧支援よりも崇高なことなのだろうか。
 国会の議論に欠けているのは、軍のもつ特質や戦争の現実感(リアリティー)だ。人を傷つけ、人を殺すことを、市民の日常感覚から考え直す必要がある。自衛隊を軍隊にすることや九条を改変することが、国際社会などにもたらす問題についても考えるべきだ。
 国家間紛争に際しては、日本は非戦援助に徹する「赤十字国家」として進むことが、冷戦の崩壊や地球化の進展にも見合う道筋ではないか。日の丸が非戦援助のシンボルという積極的な意味をもって翻るようになれば日本は新たな信頼を獲得できるのではないか。
 
<国民国家>nation−state
 近代ヨーロッパに典型的に現れた中央集権国家で、国民を一つの民族としてまとめ、単一性、統一性をめざす。
 
 すぎもと・よしお
 兵庫県生まれ。京大法学部卒業後、毎日新聞記者を経て米ピッツバーグ大で社会学博士。一九七三年から豪メルボルンのラトローブ大で教壇に立ち、社会科学部長などを務める。著書に「オーストラリア−多文化社会の選択」など。
 
○政治家も有権者も脱イデオロギーへ(聞く)
蒲島郁夫・東大教授(53)
 ――一月以降の憲法調査会の論議をどう見ますか。
 共産、社民両党を除くと、共通認識が形成されつつあるように思う。まず、占領軍による押しつけ憲法だから改憲すべきだ、という議論よりも、これからの日本にとってどんな憲法が必要かという前向きの議論になりつつある。また、調査会が現状と憲法のかい離がどこにあるかに着目しようとしている。比較憲法学的な視点も出てきた。公的な視察団が外国を訪れ、改憲の実際をみてきた。国内で厳しいイデオロギー対立がある憲法論議を相対化する試みだ。
 自民党にとって、譲れないのは九条(戦争の放棄、戦力・交戦権の否認)の問題だろう。だが、九条問題はイデオロギー的な色彩が強く、他党と合意できない。とすれば、九条以外の部分で妥協できないと、国会で憲法改正に必要な三分の二に達しない。
 自民党の核となる改憲グループには「きばを抜かれた改憲論議」と映るだろう。退潮気味の自民党が改正に向かうなら、民主党や公明党が賛成し得る憲法論議にならざるを得ない。
 有権者の脱イデオロギー化も進み、護憲の人も、憲法の問題点を認めるようになった。逆に改憲の人も九条を伴わない改憲を議論できるようになってきた。小選挙区から選ばれる代議士は多様な有権者の利益を代表しなくてはならない。政治家、有権者とも脱イデオロギー化は進むだろう。
 先の総選挙では民主党の躍進とともに世代交代が目についた。民主党でも若い世代ほど改憲に寛容だ。
 かつては、再軍備や天皇の元首化など自民党が進める改憲の動きを、社会党など革新勢力が阻止してきた。若い人は、そういう歴史的な対立を体験しておらず、都合が悪ければ改めれば良いという感覚だ。改憲、護憲のイデオロギー対立に、もう一つの軸ができてきた。憲法が現実からかい離しているなら、直してもよいという実利主義的な視点だ。
 
 ――国民の間でも憲法改正への抵抗がなくなってきているようです。
 ただ、国民の間でいま憲法が重要な争点になっているかというと、永田町で言われるほどではない。現憲法で発展を享受してきたわけで、それを変える生活上の切実さがない。平和主義や国民主権といった憲法の理念が受容されてきたということだろう。次期参院選や総選挙で憲法が争点になるという見方があるが、選挙結果にこの問題が影響することはあり得ない。憲法と現実のかい離が明確になれば国民の憲法観も変わるかも知れないが、逆に現状が憲法に届いていないという面もある。
 憲法改正があるとすれば三つの条件が満たされることが必要だ。第一は調査会が現実と憲法とのかい離を説得力をもって示すこと。第二に、イデオロギー的な改憲論議から脱却し、異なる政党や、多数の有権者に受け入れられる合意争点としての憲法論議を展開すること。三番目は政党への信頼回復だ。信頼されていない政党がいかに良い憲法だと言っても、有権者は納得しない。
 
 ――憲法調査会の議論は「国のかたち」論に移ろうとしています。
 自由党の小沢一郎党首らは「改憲で普通の国に」というが、日本が軍事力をもった「普通の国」になったからといって国際的に「名誉ある地位」を占められるとは思わない。湾岸戦争当時、日本が血を流さないといって批判を浴びたが、あの時、日本が軍事的に貢献したとしても、日本への長期的な評価に結びついただろうか。むしろ、日本は基本的には平和主義と基本的人権を貫徹する「個性的」で品格のある国になるべきで、みんな同じ普通の国になったらつまらない。
 
 かばしま・いくお
 熊本県生まれ。高校卒業後、地元農協に就職。米ネブラスカ大農学部で学び、ハーバード大大学院で政治経済学の博士号。有権者の政治意識や投票行動の分析など、現実の政治に密着した研究で知られる。著書に「政治参加」「政権交代と有権者の態度変容」など。
 
◆衆院憲法調査会委員
 (50人、○は幹事、敬称略=4日現在)
 
【自民党】(24人)
 中山太郎(会長)、○石川要三、○高市早苗、○中川昭一、○葉梨信行、太田誠一、奥野誠亮、久間章生、新藤義孝、杉浦正健、田中真紀子、中曽根康弘、中山正暉、額賀福志郎、根本匠、鳩山邦夫、平沢勝栄、保利耕輔、三塚博、水野賢一、宮下創平、森山真弓、柳沢伯夫、山崎拓
 
【民主党・無所属クラブ】(14人)
 ○鹿野道彦、○島聡、○仙谷由人、五十嵐文彦、石毛えい子、枝野幸男、大出彰、中野寛成、藤村修、細野豪志、前原誠司、牧野聖修、山花郁夫、横路孝弘
 
【公明党】(3人)
 ○赤松正雄、太田昭宏、斉藤鉄夫
 
【自由党】(3人)
 ○塩田晋、武山百合子、藤島正之
 
【共産党】(2人)
 春名なお章、山口富男
 
【社民党・市民連合】(2人)
 辻元清美、土井たか子
 
【21世紀クラブ】(1人)
 近藤基彦
 
【保守党】(1人)
 野田毅
 
◆参院憲法調査会委員
 (45人、○は幹事、敬称略=4日現在)
 
【自民党・保守党】(21人)
 村上正邦(会長)、○亀谷博昭、○小山孝雄、○鴻池祥肇、○武見敬三、阿南一成、岩井国臣、岩城光英、海老原義彦、扇千景、片山虎之助、木村仁、北岡秀二、久世公尭、陣内孝雄、世耕弘成、谷川秀善、中島真人、野間赳、服部三男雄、松田岩夫
 
【民主党・新緑風会】(11人)
 ○江田五月、○吉田之久、小川敏夫、川橋幸子、北沢俊美、久保亘、菅川健二、寺崎昭久、直嶋正行、堀利和、簗瀬進
 
【公明党】(4人)
 ○魚住裕一郎、大森礼子、高野博師、福本潤一
 
【共産党】(4人)
 ○小泉親司、橋本敦、吉岡吉典、吉川春子
 
【社民党・護憲連合】(2人)
 ○大脇雅子、福島瑞穂
 
【無所属の会】(1人)
 水野誠一
 
【自由党】(1人)
 平野貞夫
 
【二院クラブ・自由連合】(1人)
 佐藤道夫
 
◆ご意見をお寄せ下さい
 衆参両院につくられた憲法調査会で今年初めから憲法論議が始まりました。護憲、改憲、そして憲法を論じるという「論憲」なる言葉も生まれ、それぞれの立場から意見を述べた本が続々と出版されています。
 第二次世界大戦の国民の悲惨な体験を経て、今の憲法は生まれました。文部省が著した「あたらしい憲法のはなし」には、「これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戦力の放棄といいます。(略)日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです」とあります。
 戦争放棄をうたい、国民主権と基本的人権の尊重を柱にした憲法は誕生以来、経験したことのない大きな渦の中にあります。
 これから、読者の方々と、憲法の様々なテーマについて考えていきたいと思います。(1)憲法九条と国際貢献(2)首相公選制(3)象徴天皇制の未来。まず、この三つの中から、ご意見を八百字以内でお寄せ下さい。あて先は〒104・8011 朝日新聞憲法取材班(社会部内)まで。FAXは03・5550・7699、E−メールはsyakai2@ed.asahi.com
 
 この特集は、朝日新聞憲法問題取材班(政治部・木之本敬介、栗原健太郎、駒木明義、藤田直央、社会部・本田雅和、豊秀一)が担当しました。次回は今月中旬以降に掲載します。


 
 
 
 
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