経済界は、日米安全保障条約を中心とした同盟関係が強化されたことについて「アジア太平洋地域の平和と安定に日米両国が協力することで合意したことを大いに評価したい」(稲葉興作日本商工会議所会頭)と一様に歓迎している。経済同友会が集団的自衛権の行使を禁止している政府見解の見直しを求める提言をまとめたばかりであり、経済界では、安全保障の強化によって投資リスクを軽減したい、という思惑が強く打ち出され始めている。
牛尾治朗・経済同友会代表幹事は「台湾海峡の軍事演習などで緊張があるのだから、極東有事に対する研究をするのは当然だ」と、集団的自衛権の問題に踏み込む研究の開始を日米安保共同宣言に明記したことを評価する。根本二郎・日経連会長も「憲法改正となると、中国やアジア諸国の反発もある」としながらも「憲法の範囲内で後方支援をどうするか、などを考えていくべきだ」と述べた。
こうした経済界の反響の背景には、アジア、とくに高い経済成長を続けている中国が企業の生産、投資面で欠かせない存在となりつつあることがある。日本の対中国投資は、年々増えており、一九九五年には七十六億ドル(中国側統計)に上り、米国を上回った。今月には、経団連が十九年ぶりの訪中団を派遣し、長江総合開発や北京―上海高速鉄道への協力を表明した。個別企業の進出も活発化している。
牛尾代表幹事は「現状では、カントリーリスクをすべて企業がかぶっている。特に中国へは進出が増えており、日米安保の強化はぜひ必要だった」と説明、対中国対策が今回の大きなテーマと分析する。しかし、「中国と米国は経済的には密接な関係を結んでいる。米国との友好は大切だが、日本も自らのスタンスを明確にしないと、日本を抜きにして米中で頭越しにものごとが決まる恐れがある」(寺島実郎・米国三井物産ワシントン事務所長)と手放しで評価はできない、との見方もある。
実質的な先送りとなった経済問題については、大勢は両国間の話し合い決着を求めているものの「二国間ではなく、世界貿易機関(WTO)での解決が望ましい」(根本日経連会長)と多国間ベースでの解決を求める見解も出されている。
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