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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1995/05/22 朝日新聞朝刊
やはり非軍事が潮流だ 再論「国際協力と憲法」(社説)
 
 「最近に至って、もう一つ改正のための議論が出てきております。それは、国連協力のために日本が自衛軍を持つことが急務であるとして、第九条の改正を唱える人がだんだん増えていることであります」
 「日本が国連第一主義を唱える立場から、国連平和軍あるいは国連警察軍に日本から軍隊を出して、協力の実をあげないのは不都合であるという見解であります。海外派兵を禁止されているような自衛隊では国際的義務の遂行ができないから、海外にもどしどし派兵できるような軍隊を持つべきであると、こういうものであります」
 ここ数年の憲法と政治の状況を説明しているかのようにみえるこの発言は、実は三十年以上も昔、一九六二年九月のものだ。政府の憲法調査会が東京で行った中央公聴会に公述人として出席した、当時の朝日新聞論説主幹、笠信太郎(りゅう・しんたろう)が述べた言葉である。
 
○世界連邦の夢は遠いが
 国際貢献にとって、憲法九条が障害になっているのではないか――。九〇年八月のイラクによるクウェート侵攻で始まった湾岸危機・戦争と戦後処理が契機となって、日本国内にこう主張する大きな政治的潮流が生まれたことは記憶に新しい。
 しかし、笠発言に明らかなように、国際協力とからませた憲法論争も、実は特段新しい問題提起ではなく、繰り返し起きている改憲運動の一つの流れの中にある。
 二十一世紀の日本の針路を考えるうえで、古くて新しいこの問題にどう取り組めばいいのか。私たちが、五月三日付でお届けした社説特集「国際協力と憲法」は、そうした課題に、多面的な角度から一つの答えを出してみようとした試みだった。
 笠は憲法が描く理想を「世界連邦」だとし、その運動に力を注いだ人物である。公聴会で、笠は「海外派兵を禁ずるところにいまの自衛隊の根本規定があり、その平和的な性格を表す誇りも光栄もあると思う」と述べ、非軍事の協力を強調。九条の改定に反対している。
 国家主権を否定し、人類の共同体をめざす世界連邦は、当時も今も遠い夢である。しかし、冷戦が終結し、世界平和構築への岩盤が見えはじめた今、その理想をさらに遠ざけてしまうような道を選択するのは、時代の流れに背く。国家主権の下で軍事的貢献への道を探る潮流とは一線を画し、「非軍事・積極活動国家」を掲げた私たちの方向は、これからの「地球史」にかなうものだ、と改めて思う。
 
○やめよ軍拡いたちごっこ
 この社説特集に対して、多数の読者の方々から、手紙やファクスをいただいた。多くは、共感と励ましのお便りであり、私たちも大変勇気づけられた。しかし、厳しい反論や疑問の声も寄せられた。そのいくつかにお答えしつつ、私たちの考え方を補足しておきたい。
 第一は、自衛隊を国土防衛隊に縮小するなどとした提言に対し、「それで本当に大丈夫か。中国や朝鮮半島の動向もにらみつつ、不測の事態に備えるのが国家の責任ではないか」と、安全保障政策面からの疑念を示した批判である。
 中国の軍事力増強、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑とミサイル能力の向上、ロシアの国家主義の復活など、日本周辺には、確かに先行き不透明な要素があり、注意深く見守らなければならない。
 しかし、客観的にみて、これらの国々に日本を侵略するような誘因や動機があるとは考えられない。対立や緊張は起きうるだろうが、それが軍事的侵攻につながるとする見方は現実的ではあるまい。
 「脅威」を言いたて、「不測の事態に備えよ」との論理を重ねていけば、核武装せねば、さらには核大国にと、とめどもなくなってしまう。冷戦型の軍事思想に基盤をおく今の自衛隊を、根本から見直すような政策に踏み出してこそ、軍拡が軍拡を呼ぶいたちごっこを抜け出すことができる、と私たちは考えた。
 第二は、国連平和維持活動(PKO)への参加や人道的救援、災害救助のために「平和支援隊」を創設する、と提言したことに対し、「第二自衛隊ではないか」「なぜ自衛隊ではいけないのか」などの批判が寄せられた点である。
 私たちの認識では、自衛隊は「専ら国土防衛にあたる組織」として憲法適合性が認められるのであり、安易に流用されるべきではない。自衛隊員たちも、海外でそうした任務にあたることを了承して応募してはいないのだ。
 一般隊はPKOの「軍事部門」と分類される分野で活動することもある。しかし、平和支援隊が参加する従来型PKOは自衛の場合を除いて武器を使わない。だから、戦車や航空機など、各種の兵器を総動員した軍事演習などは一切必要がない。
 湾岸戦争のような多国籍軍に加われといわれても、その能力がないから、おのずと参加できる範囲に限界が生じる。小火器を携行するが、「第二自衛隊」ではない。
 
○大人の合、違憲論争を
 最後に、「許される自衛力の限度があいまいで、自衛隊の合憲、違憲の境界が不明確だ」という批判にも触れておきたい。
 合憲か、違憲かという論争は、もともと自衛隊問題に限らず、一つの政治的主張の表明であって、その境界はふつう、だれにとっても一義的に明確なものではない。
 無論、最高裁が合憲、違憲の基準を示して明確な判断を示せば、それが一応の結論となるが、その後でも、判断を変えよと主張することは可能だし、意味もある。つまり、国民の間に憲法論争があり、それが裁判所の判断や政策形成に反映されていくこと自体に価値があるのだ。
 さらに、わが国では、合憲、違憲の問題がとかく「認める」「認めない」といった不毛な対立にすりかえられる傾向がある。自衛隊に関して「合憲」といわないのは非現実的だ、といわんばかりの言説もはびこっている。政府の解釈に立ったところで、「必要最小限度」の「自衛力」を超えれば違憲になるはずなのに、である。
 つい最近、東京都議会で「自衛隊は違憲だと考える」と答弁した青島幸男新知事が、自民、新進の議員らに「違憲といいながら、災害の時は助けてくれでは、虫のいい話じゃないか」と追及された。
 現実の行政や社会の仕組みは個々の法律で動いていることを無視した、おとなげない議論である。国の道しるべである憲法をめぐる議会の論争が、いやがらせのレベルにとどまっているのは何とも情けない。
 上滑りを避け、現実を見据えた憲法論争を。今回の社説特集で私たちはそう考え、国際協力に生かす方策を探った。今後も折にふれ、検討を重ねるつもりである。


 
 
 
 
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