1995/05/09 朝日新聞朝刊
護憲・改憲鮮明に 全国47紙の5・3紙面 戦後50年 (メディア)
戦後五十年を迎えた今年の憲法記念日、多くの新聞社が社説、主張、論説、時評の各欄で「日本国憲法」を取り上げた。全国紙では、憲法改定に反対・慎重な論と、積極的な論の二つに分かれた。朝日と読売が、それぞれの立場から「提言」を発表したのも特徴だ。ブロック紙、地方紙はおおむね、改憲には慎重な立場から論じている。全国のおもな四十七の新聞が五月三日、どう論じたかを調べてみた。(山川富士夫)
○1面に「提言」掲げる 全国紙
全国紙では読売が昨年十一月三日に発表した「憲法改正試案」を前提に、一面トップに読売新聞社の提言として「今後の日本の安全保障を考えるための『総合安全保障政策大綱』」を載せ、国の防衛と自衛隊、緊急事態、国連平和維持活動(PKO)などについてまとめた。
「試案」では憲法九条(戦争放棄など)の改定などを盛り込み、「自衛のための組織」として自衛隊を明確に位置付けた。大綱で自衛隊の国連平和維持活動(PKO)参加について、現行PKO協力法にはない「警護」を加え、平和維持軍(PKF)参加凍結の解除を打ち出した。また、首相が緊急事態を宣言、基本権を一部制限できる、などとした。社説は、この提言について論じ、「戦争や大災害、テロなどあらゆる事態に備えることは、国の最低限の責任だ」などと書いた。
読売新聞広報部によると、「憲法改正試案」のときに比べ、提言についての反響はまだ少ない。しかし「わかりやすい提言」など評価する声が多く、賛否相半ばだった改憲試案のときとは異なっている、という。
朝日は昨年十一月二十三日の社説で「改憲試案まで提示した読売新聞社と同じ道を歩むことはない、ということを明確にしておきたい」と書いた。三日は社説を一面トップにすえ、その立場を明確にした。さらに三ページにわたる「社説特集」も掲載した。
「国際協力と憲法」「戦後50年 朝日新聞は提言します」の社説は「『非軍事』こそ共生の道」の見出しで(1)憲法九条は改定しない(2)自衛隊とは別組織で従来型PKOに参加する(3)自衛隊の装備と人員削減――などを打ち出した。
「(憲法)改定には益よりもはるかに害が多く、反対」「日本は非軍事に徹する」とし、「あえて比ゆ的に言うならば良心的兵役拒否国家、そんな国をめざそうというのである」と論じた。
朝日新聞読者広報室によると、提言への反響は三日午後だけで十三件だった。「論旨に共感する」などのほか、「偽善に感じる」などの意見だった、という。
ほかに産経は一面に掲載した主張欄で「真の『自立』へ改憲を」と、打ち出した。「仮に憲法第九条を改定し、日本が国軍を保有したとしても、決して好戦的な国家にはならぬ自信と覚悟を国民はすでに身につけているとわたしたちは確信する」と書く。
○全体に改憲には慎重 地方紙
地方紙は、改憲や自衛隊の海外派遣に慎重な論調が目立つ。
「現実に寄り添うのではなく、自衛隊の縮小など現実を憲法理念に引き戻す方向を求めるのが先ではないか」(東奥日報=青森県)
「日本では、国際貢献というと、自衛隊の海外派遣の是非ばかりが論議されてきた。これからは非軍事的な分野での貢献にこそ力を注ぐべきだろう」(新潟日報)
「今すぐ現行憲法の改正作業に入らなければならない必要性はあるのだろうか。国民の側から改憲論議が高まっているとは見えない」(北日本=富山県)
「今、わが国に求められるのは、憲法九条の理念を改めて高く掲げ、不戦を訴え、核廃絶を叫び続けることではないのか。憲法を見直してまで自衛隊の海外派兵や武力行使を可能にすることではないはずだ」(京都)
「『第九条』は世界に説得力のある存在である。性急な改憲よりも、平和憲法を次代に引き継いでいく責務を自覚するときではないか」(山陽=岡山県)
「今、国民の多くが自衛隊を支持している。ただ、軍隊としてではない。災害時の献身的な働き、つまり憲法に触れない機能を国民は評価し、歓迎してきた。平和憲法を世界に掲げながら国土と国民を守っていく方策はあるはずだ」(南日本=鹿児島県)
「戦争放棄をうたった九条をはじめ憲法の理念は、時代を先取りしていて、この混迷な時代にこそ光り、輝きを増していくものと信じている」(琉球新報=沖縄県)
○大震災被災や被爆の視点で 神戸新聞・中国新聞
東京(中日)は一日から五日連続で「憲法記念日に考える」というテーマで社説を掲げた。三日は「憲法特集」を組み、前文と一〇三条の憲法全文を三ページ使って掲載、憲法をめぐる戦後五十年の動きなども取り上げた。
特集について酒向安武・東京新聞編集局次長は「最近、憲法は『時代遅れである』とか『押しつけられたもの』とか、ないがしろにする動きがある。憲法に対しての意見はさまざまだが、もう少し大事にしていいのではないか。きちんと読み返し、そのうえで議論しても良いのではないか。戦後五十年を機に、そんなつもりで載せた」と話す。
一方、五千五百二人が亡くなった阪神大震災の被災地の地元紙で、社屋が壊滅的な打撃を受けた神戸。社説は「大震災の中、憲法記念日を迎えて、特筆大書したい憲法の章文がある。第八章『地方自治』である」で始まる。
明治憲法以来の縦割りの中央集権制度による財源確保、事務手続きの煩雑さ、多くの規制が、いかに県や市町村の震災復興のカベになっているかを指摘、「地方自治の本旨」について「政治的決定や事務処理が地域住民の意思に基づいて行われること」だと強調した。そのうえで、「震災と復興が、明治からの断絶を実現する契機になってほしい」と訴えた。
三木康弘・論説委員長は「例年は憲法九条や自衛隊などの問題を取り上げてきたが、今年は、あれだけの大震災の被災地の地元紙として、例年通りというわけにはいかない。被災地の視点で震災と憲法の接点を考えてみた」と言う。
被爆地・広島の中国は「形がい化の恐れがある非核三原則の国是を確固とした政策に高め、世界に示すことが急がれる」と書く。そして「いじめ、銃、テロ、核兵器…足元から人間の尊厳と平和を損なう要因を一つずつ除く道である。そこからヒロシマと憲法を人類が共有する明かりが見えてくるだろう」と結んでいる。
(引用した社説などの記事はいずれも抜粋)
●5月3日の社説・主張・論説・時評欄のおもな見出し
朝日 |
国際協力と憲法−「非軍事」こそ共生の道 |
毎日 |
いま、憲法は−「あいまいな日本」の傷口 |
読売 |
建設的安保論議へ転換のとき−戦後50年を超えて |
日本経済 |
低くなった国境が迫る憲法の課題 |
東京(中日) |
政治、三つの空洞化−憲法記念日に考える |
産経 |
憲法を考える−真の「自立」へ改憲を |
北海道 |
アジア安保の構想描く時−自衛隊は専守防衛を基本に |
東奥日報 |
マルタ体制下の憲法−平和の理念をもっと高く |
陸奥新報 |
身の回りの憲法を考えよう |
デーリー東北 |
不戦決議論争と平和憲法 |
岩手日報 |
憲法の原点忘れまい |
河北新報 |
憲法論議を一層深めよう−時代に合った姿を模索して |
秋田魁新報 |
今、戦後50年と憲法を読み返す |
山形 |
戦後50年、憲法考える日に/ボランティア先進県の輪 |
福島民報 |
「家庭憲法」制定してみては |
福島民友 |
憲法の心をどう生かすか |
茨城 |
憲法をもう一度読み返そう |
下野 |
憲法を読み返してみよう |
上毛 |
憲法もう一度読み返そう |
神奈川 |
今こそ憲法の理念に立ち戻れ |
新潟日報 |
平和憲法の理念を世界に |
北日本 |
憲法を考える−理念に近づく努力こそ大事 |
北國 |
国を愛する気持ちは確かか−日本人の資質考える憲法記念日 |
福井 |
サリン法と化学兵器禁止条約 |
山梨日日 |
憲法をもう一度読み返す |
信濃毎日 |
憲法精神を生かそう−「押し付け」論を超えて |
岐阜 |
現在の繁栄支えた憲法−基本的精神をどう生かすか |
京都 |
日本国憲法は色あせていない |
神戸 |
憲法「第八章」を軽く見るな/震災に負けぬ/平和賞の受賞に |
日本海 |
憲法をもう一度読み返そう |
山陰中央新報 |
今読み返すべき日本国憲法 |
山陽 |
「改憲」はじっくり冷静論議を |
中国 |
憲法を生活の中に生かそう |
山口 |
憲法記念日に寄せて−初心を見直す必要 |
徳島 |
憲法に「名誉ある地位」を |
四国 |
憲法をもう一度読もう |
愛媛 |
戦後50年憲法を読み返そう |
高知 |
戦後50年の憲法状況を見直そう |
西日本 |
憲法は「床の間の天井」ではない |
佐賀 |
国の規範について考えよう−戦後半世紀の憲法記念日 |
長崎 |
憲法を今一度読み返そう |
熊本日日 |
憲法記念日−平和主義の理念どう生かす |
大分合同 |
憲法をもう一度読み返そう |
宮崎日日 |
憲法を読み返してみよう |
南日本 |
世界に掲げたい平和憲法の精神 |
沖縄タイムス |
憲法の検証−私たち自身の努力で埋める |
琉球新報 |
時代先取りしている九条−憲法、日本の平和に貢献 |
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(共同通信は秋山民雄・論説委員長の署名で、「憲法をもう一度読み返そう」という論説資料を契約社に配信した)
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