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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1995/05/03 朝日新聞朝刊
国際協力と憲法 「非軍事」こそ共生の道(社説)
 
◆戦後50年 朝日新聞は提言します
 (1)国際協力法を制定し援助の充実を
 (2)平和支援隊で従来型PKOに参加
 (3)理想先取りの九条は改定の要なし
 (4)自衛隊は国土防衛的な組織に改造
 (5)冷戦型から地域安保型重視へ転換
 (6)国連健全化をめざし改革の先頭に
 人類と地球を守るために日本は何をすべきか――敗戦五十年という節目の年を迎えるにあたって、朝日新聞はこの五年間、全社規模で討議を重ねてきた。憲法記念日のきょう、その成果を踏まえて執筆した社説と特集「国際協力と憲法」を掲げ、読者とともに考える素材としたい。
 
○益より害が大きい改憲
 私たちの結論は次の二点に集約される。(1)現憲法は依然としてその光を失っていない。改定には益よりもはるかに害が多く、反対である(2)日本は非軍事に徹する。国際協力にあたっては、軍事以外の分野で、各国に率先して積極的に取り組む。
 つまり非軍事・積極活動国家だ。国と個人の違いを承知のうえで、あえて比ゆ的に言うならば良心的兵役拒否国家、そんな国をめざそうというのである。
 個人の良心的兵役拒否は、米英仏などの先進諸国ですでに法的に認められている。徴兵制をとっているドイツも、基本法(憲法)で「何人も、その良心に反して、武器をもってする軍務を強制されてはならない」と定めている。こういう考え方を国家にあてはめてみてはどうだろうか。
 血を流すことが国際協力だと言う人は、これを利己的すぎると非難するだろう。個人の良心的兵役拒否も、長い間、批判され圧迫を受けてきた。だが、個人であれ国であれ、「殺すな」という信条を貫こうとすれば、これしか方法はあるまい。
 しかも、これを貫くには強い意志と忍耐力が要る。というのは、ほとんどの国で、良心的兵役拒否者は代わりの仕事を義務づけられているからだ。医療や福祉など、ときには兵役以上に過酷な条件のもとで、彼らは働いている。国の場合も当然、これに準じることになる。
 そういう非軍事・積極活動国家、あるいは良心的兵役拒否国家への道標として、私たちは「六つの提言」をまとめた。
 提言にあたっては、西暦二〇一〇年ぐらいまでを視野においた。もちろん、激動する時代である。朝日新聞は世界の変化に対応して、今後とも提言の見直しを怠らず、論説委員室を中心にその作業を続けるつもりである。
 
○敏速に動く平和支援隊
 提言の第一は、非軍事の国際協力で世界の先頭に立つ日本が進むべき、具体的な道筋とそのあり方である。
 二〇一〇年の世界を想像してみよう。人口の激増と生活環境の悪化で、貧困と格差をめぐる対立が一段と先鋭化しているだろう。ほうっておけば地域紛争はますます増え、難民も急増しかねない。
 それを予防するためには、いまのうちに手をうつ必要がある。具体的には、平和と人権を世界に広げる日本国民の決意をうたいあげた「国際協力法」を制定するのだ。政府の途上国援助(ODA)の質的改革を求めるとともに、非政府組織(NGO)とあわせて車の両輪としたい。
 第二の提言は「平和支援隊」の創設だ。将来に向けた「予防」策とともに、いま、現に、紛争や災害で人間的な暮らしを送れない人びとをどうするか。自衛隊とは別組織の平和支援隊は、そういう人道的救援や災害救助のために敏速に動く。
 平和支援隊は同時に、非軍事の枠内に限って、国連の平和維持活動(PKO)にも積極的に参加する。隊員の一部は護身用の小火器をもつが、平和支援隊は戦闘集団ではないから、その活動も正規の軍隊とはまったく違う。平和執行軍や多国籍軍に参加することもありえない。
 第三の提言で私たちは、自衛権に基づく自衛組織の保有を憲法は禁じていないとの立場を明確にしたうえで、現憲法、とくに九条の改定に強く反対する。
 戦争や武力行使を放棄した九条は、人類の願いを率先してうたいあげた理想主義的な規範である。九条がつくった戦後日本の枠組み、なかでも「軍事が他に優先する」ことを否定した鉄則は、かけがえのないものだ。改憲で失ってはならない。
 
○軍縮で高まる国の安全
 それでは、合憲の自衛組織とはどういうものか。その基準と限界を提言の第四で明示しよう。いわゆる専守防衛型の装備と編成に徹し、海外派兵は許されない。現在の自衛隊は、すでに許される自衛力の範囲を逸脱している疑いが濃いので、まず装備と隊員を削減し、あわせて目的、組織、編成など全面的に改造する。
 世界の戦略環境から見て、少なくとも来世紀初頭までは、日本が直接の侵略対象になる可能性は低い。中国や朝鮮半島など、不透明な要素は否定しきれないが、ソ連脅威論をもとに増強された冷戦型の現自衛力は大きすぎる。たとえば陸上自衛隊を段階的に半減したとしても、国の安全が直ちに損なわれることはない。むしろ、それが周辺国の軍縮の呼び水になれば、それだけ日本の安全度は高まろう。
 第五の提言は、アジアの平和のための組織づくりと日本の役割である。日米両国は冷戦型の安全保障体制を見直すこと、とくに在日米軍基地を撤去・縮小すること、そのうえで、予防外交や軍備管理の機能をもつ欧州安保協力機構(OSCE)型組織が今世紀中にアジアでも発足できるよう、協力することが大事である。
 最後に、日本は国連改革の先頭に立て、ということを具体的に提言したい。安保理事会の拒否権については段階的廃止を提唱し、また新常任理事国問題では、日独両国だけを論議の対象とするのではなく、アフリカ、アジア、中南米の地域代表三カ国もその対象とすべきであろう。
 私たちがいま、こうした提言を試みるのは、冷戦後と湾岸戦争後という「二つの戦後」が、今後ますます世界を激変させる、と確信するからである。
 冷戦の終結でソ連圏は解体し、市場経済化の波は新旧社会主義国や南の国にまで及んだ。停滞した社会が活性化した半面、貧富の格差拡大、難民、環境破壊などを招いた。一方で、止まらぬドル安に象徴されるように米国経済の比重は低下し、基軸通貨国の地位すら失いつつある。
 こうして世界が不安定になり、カネとモノの流れが滞るようになった場合、いちばん困るのは海外依存度の高い日本である。途上国の経済や環境の悪化をくい止め、貿易不均衡の是正に努めることは、世界の平和に役立つだけでなく、日本自身の利益に直結していることに、もっと目を向ける必要があるだろう。
 
○口先ではない「護憲」を
 一方、湾岸戦争は、一時的ながら国際協力を「軍事貢献」一色にした。だが、あれからわずか数年、軍事主導の手法では解決できない事例が増えている。紛争の根源に目を向けないかぎり事態の改善はないことがはっきりした。
 さらに、世界戦争の危機が遠のいたこともあって、安全保障の対象が軍事以外にまで広がってきた。国民にとって、震災などの自然災害や爆発などの人為的災害への対処が、ますます大事になっている。
 こうした潮流が明白になったにもかかわらず、一部には依然、軍事力に寄りかかる方向での改憲論がある。過去の教訓に学ばず、将来の展望を欠いた態度だと思う。
 憲法を守り、その精神と直結する良心的兵役拒否国家の一員たらんとするならば、各人が「殺すな」という強い信念をもち、ときには苦役をもいとわない相当な覚悟が要る。それ抜きでは「護憲」は単なるスローガンに終わる恐れがある。
 たとえば、先の大戦の責任をあいまいにしたままで戦争放棄の憲法を受け入れたため、いまも「戦争」についての認識に欠けるところはないだろうか。世界には紛争が絶えないにもかかわらず、そうした厳しい現実から目をそらし、かかわりあいを極端に避けてきたのではないか。
 また、たとえば、多くの日本人は戦後の繁栄に酔ったあまり、進んで他を顧みるとか、相互に助けあうといった、当然の国際的気配りに欠けるところはなかったか。飢餓、貧困、人権侵害など、他民族の人びとが直面している過酷な運命に、無関心過ぎた面はなかったか。
 こうした点をいま一度問いなおしたい。幸い、阪神大震災の際に発揮された人びとのボランティア活動は、私たちに大きな希望をあたえてくれた。「ほどこし」とか「貢献」といった発想から脱した国際協力が実現したとき、憲法もまた、これまで以上に光を増すことだろう。


 
 
 
 
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