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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1994/11/23 朝日新聞朝刊
「とにかく改憲」を排する(社説)
 
 憲法を変えようという提言が、今年に入って相次いでいる。
 四月に関西経済同友会が「日本国憲法を考える」を発表した。六月、中曽根康弘・元首相が会長の世界平和研究所が「日本の総合戦略大綱」を出した。七月には経済同友会が「新しい平和国家をめざして」を公表した。八月、日本経済調査協議会が「国連改革と日本」をまとめた。十一月初め、読売新聞社が「憲法改正試案」を打ち出した。ニュアンスの違いはあるものの、直接あるいは間接的に改憲の方向を打ち出した点で、提言は共通している。
 改憲運動には何回かの高まりがあった。一種の提言ブームの様相を見せている今年の動きにしても、そうした過去の流れと無縁ではない。同時に、今回はこれまでとは異なる、いくつかの特徴がある。
 
○改憲運動に新たな潮流
 まず、背景としては、一九九〇年代初頭の湾岸戦争があった。当時、軍事力の行使を伴わなければ国際貢献とはいえない、とする意見が内外で急速に高まり、それに基づくさまざまな憲法の勉強会が生まれた。その結論が今年になって次々にまとまり、提言ラッシュとなったのだろう。
 特徴としては第一に、内容に濃淡はあるが、改憲提言の口火を切ったのが東西の両有力経済団体だ、ということ。第二に、さまざまな読者によって支えられている大新聞社が提言に加わり、具体的な改憲案を各条文ごとに示したことだ。
 第三に、各提言が、これまでに増して、改憲の対象を広げたとの印象をあたえようとしている点である。
 従来の改憲運動は、マッカーサー憲法からの脱却を、といったスローガンを掲げながらも、実際にはソ連脅威論を念頭に置いた憲法九条改定、つまり憲法で明確に自衛隊を認知させ、「戦力」の保持・充実に焦点を絞ったものが多かった。
 ところが今回は、自衛隊合憲の明確化は当然のこととしたうえで、一部提言は、国際貢献のための自衛隊の海外派遣を憲法で明文化するよう求めている。同時に、どの提言も、人権、環境、地方自治など、最近とみに関心が高まっている問題を取り上げている。
 冷戦後、地球のあらゆるところで変化が起きている。紛争の形態が変わり、処理の仕方が変わった。国境の権威が薄れ、国家が揺るぎだした。国家の権限や人権などの課題にしても、これまでの意識や判断だけでは解決できない問題が増えつつある。だから、こうしたテーマが改憲論議の対象となるのは時代の要請でもある。変化に対応して憲法や法令を見直していくのは、政治の当然の任務であろう。
 
○憲法九条のプラス面を
 しかし、改憲提言の範囲が広がった理由が、そういう前向きのものだけとは思えない。提言のすべてが、変革を正確に先取りし、それに備えて十分に練られたものとは必ずしも言えないからだ。もし、海外派兵の容認など、憲法九条がらみの改憲志向だけを突出させたのでは、国民の反発と不安を招く、との判断からのものだとすれば、姑息(こそく)に過ぎよう。
 憲法についての私たちの立場は、機会あるごとに社説で述べてきた。最近では、今年の憲法記念日の際に三回連続で取り上げた。昨年一月には「憲法論議のあるべき姿」と題して、憲法論議の原則といったものも提示した。私たちは「現憲法は十分に役立っており、改憲を目指すときではない」と考えている。
 なるほど、現憲法には、こうすればもっとよくなると見えるような個所が、いくつかあるだろう。たとえば、人権がさらに守られるよう、憲法の人権条項をさらに充実するほうが、いいだろう。あってはならぬことだが、憲法九条にしても「戦力」が持てるように明記すれば、はっきりし、すっきりするとの見方もあるだろう。
 だが、「すっきりする」プラスの代わりに、もっと大きなマイナスが生じたのではおはなしにならない。
 自衛隊が合憲か違憲か議論は尽きないが、各種の世論調査によれば、「専守防衛に徹し海外派遣のない自衛隊なら合憲」というのが、多くの国民の認識である。こういう大方の合意を基盤に、政治が自衛隊をきちんとコントロールすれば、現憲法で問題はあるまい。
 それを無理して変えてしまうと、軍拡に対する憲法上の制約はますます薄れ、対外関係で新たな波乱要因にもなりかねない。これは大きなマイナスだ。それに昨今の世界は混迷を極めている。いまは九条を堅持しつつ、じっくりと行く末を模索し、国家像を固めるべきときである。
 私たちはまた、国際貢献のための九条改定、つまり自衛隊の海外派遣を容認するための改憲論にもくみしない。私たちは、国際的で広範囲な人道援助・救援活動について、その必要性を早い段階から強調してきたが、しかし、それは北欧諸国と同様、自衛隊とは別組織の国際救援隊を創設してあてるべきだと考えている。
 
○足元を固めるのが先だ
 こういう立場から今回の改憲諸提言を読んだ感想は、次の三つである。
 一、われわれの提言は国民の憲法学習資料として提示したものだ、といわれるならば、それはもっと公平なものでなければならない。護憲、改憲など、可能な限りの資料を国民に示すことから始めてほしい。その点、経済同友会の提言が、たとえば憲法九条の扱いについて、三つの選択肢を示して判断を他にゆだねているのは、評価されていい。
 一、人権、環境など、もはや放置できないのだ、といわれるならば、その意気込みは評価するが、まず足元から固めたらと言いたい。現憲法を誠実に実行するだけで、人権も環境も大いに改善されよう。
 一、たとえば九条改定の具体的文言を示した提言の一つを読むと、これまた、人によってはいかようにもとれる表現になっている。改憲して、新たな解釈改憲が必要にならないとも限らない。
 
○自律こそマスコミの命
 最後に、大新聞による改憲提言の是非について考えてみたい。
 個人であれ団体であれ、あらゆる問題について自由に発言し、提案し、訴える権利を持つ。これは民主社会の鉄則であり、私たちはこれをどこまでも守る決意である。今回、読売新聞社が改憲試案を出したことは同社の自由であり、そのこと自体を批判することは当を得ないと考える。
 だが、その権利は擁護しつつも、私たちは、具体的で逐条的な改憲試案まで提示した読売新聞社と同じ道を歩むことはない、ということを明確にしておきたい。もちろん、憲法問題について提言もせずキャンペーンもしないというのではない。逆に、そうした活動を活発におこなうためには、客観的で公正な報道を貫くべき言論機関として、おのずから律するものが必要だ、と信じるからである。
 憲法論議は、それ自体が国論を二分する最高度に政治的な問題である。それだけに実りある議論のためには、多彩で豊富な資料と活発な対話が欠かせない。心して報道し論ずるつもりである。


 
 
 
 
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