1993/05/09 朝日新聞朝刊
憲法と国際貢献めぐる社説(読者と新聞 論説委員室から)
新聞はどれも似たりよったりだ、という新聞評があります。
耳の痛いところもありますが、よく読み比べていただくとおわかりのように、新聞は報道の面でもけっして似たりよったりではありません。まして社説に代表される言論の面では、同じどころか、ますます違いが目立ってきています。
とくに湾岸戦争以後、憲法と国際貢献をめぐる論議で鋭い対立が見られ、読売・産経新聞対朝日・毎日新聞という図式を描いて「新聞論調の二極分化」がおこっている、という人さえいるほどです。
国際貢献の必要なことについては、各紙とも異論はないので、対立の焦点は「軍事的な貢献に日本も加わるべきかどうか」という一点に要約されるといってもいいでしょう。
読売新聞などの主張は「経済大国となった日本が、自国だけ平和で豊かであればよいという一国平和主義では、世界の孤児になる。国連の平和維持活動などに軍事面でも協力することは、国際的な責務である」というものです。そして、憲法が時代に合わなくなった以上、憲法の方を改正すべきだとしています。
同紙はそのため社内に憲法問題調査会を設けて検討した結果、昨年末「今世紀中に憲法改正を」という第一次提言をまとめました。 これに対して朝日新聞などは、「日本が果たすべき国際貢献は軍事面以外にいくらでもあるはずだ」と、こう主張しています。
「国際紛争を解決する手段として武力の不行使をうたった平和憲法は、日本の今日を築いた原動力であり、冷戦後のこれから一層、輝きをますにちがいない。この憲法の精神を世界に広げることこそ、日本の最大の国際貢献であり、憲法を改正して安易な自衛隊の海外派遣や集団的自衛権の行使に道を開くようなことはすべきでない」
なぜこうも論調が違ってきたのでしょうか。世間では、右寄り・左寄りといった言葉で解釈しているようですが、これは右とか左とかとは関係ありません。結局、日本の歩んできた道をどう評価するか、歴史観の違いが根底にあるのではないか、と思います。
たとえば、平和憲法が戦後の世界に果たしてきた役割について、朝日新聞はきわめて高く評価するのに対して、読売新聞は違うようです。前記の調査会提言でこう言っています。
「一部に平和憲法の実績を強調する人がいるが、日本が本当に(憲法前文の)理想に忠実であったか、むしろ疑問に思うべきではないだろうか。日本は自ら紛争を起こしはしなかったが、世界の紛争解決に大きな役割を果たしてきたわけではない。平和国家としての日本の実績は、決して誇るべきものではない」
さらに言えば、太平洋戦争への評価の違いにまでさかのぼるのかも知れません。「無謀な戦争で日本はアジアに対する加害者だ。その反省を忘れてはならない」という立場と、「そう自虐的になることはない」という立場の違いです。
それぞれの新聞がその信じるところを読者に訴え、言論を競い合うことは民主社会にとって好ましいことでしょう。朝日新聞はこれからも時流におもねらない骨のある言論機関を目指して努力する決意です。
(柴田鉄治=論説主幹代理)
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