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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1991/05/03 朝日新聞朝刊
平和憲法と国際的貢献(社説)
 
 「私たちは本来、決して不作法な国民ではないし、第2次大戦後は、外国に対して腕力を秘めて行動するなどということは、およそしてこなかった。日本が平和憲法の下で身につけた“村役場の書記”のような頼りなさ。それは、世界に対する謙虚さとして、きちんと評価されていいことです」
 世界の新しい枠組みづくりに日本が貢献する道を探ろうという本社の「21世紀の日本」委員会発足にあたって、作家の司馬遼太郎さんから寄せられた言葉だ。
 
○転換期の厳しい試練
 今世紀も余すところ10年、世界が冷戦後の新秩序への模索を続ける中で、44回目の憲法記念日を迎えた。湾岸危機の発生から戦争を経たこの9カ月、われわれは戦争と平和の問題、また、日本国憲法の平和主義路線と国際的貢献をどう調和させるのかを、鋭く内外から問いかけられた。
 イラクは、歴史の転換期の虚をつくように隣国に侵略した。世界が受けた衝撃は大きかったが、中でも、憲法9条で世界に先駆けて「国権の発動たる戦争」の放棄と「国際紛争を解決する手段」としての武力の不行使をうたったわが国の平和主義路線は、厳しい試練にさらされた。
 米国を中心とする約30カ国は多国籍軍を形成してイラクを包囲した。経済制裁で時間をかけるより、国連安保理決議を背景に武力行使することを選択し、クウェート解放を実現した。その渦中で、日本は湾岸地域の原油に最も大きく依存しているにもかかわらず「姿が見えない」、カネを出すほか国力にふさわしい貢献をしていない、という批判を突き付けられたのである。
 「理念を口で唱えているだけでは、平和は実現しない」「一国平和主義では世界の孤児になる」。国内でもこうした主張が高まり、憲法前文の「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」という一節が自衛隊派遣との文脈で語られた。
 しかし、湾岸で問われたのは自衛隊派遣による軍事的な貢献がなされていない、という点ではない。難民救済の医療活動や人道援助など平和主義の基本路線のもとでもなしうる国際貢献は多いのに、財政支援以外にみるべき実績がなく、人的貢献を増やすための態勢づくりも進んでいない現状が告発されたのだ。
 一番厳しく「目に見える貢献を」と迫った米国も、ブッシュ大統領が「憲法の制約」に言及したのをはじめ、「日本に軍事的役割は求めない」ことを明言している。
 
○基本理念の発信を
 今回浮き彫りになったのは、日本の政治・外交が平和主義の基本理念を積極的に発信し、世界に浸透させる努力を十分重ねておらず、むしろ憲法理念を「制約」として自らの怠慢の言い訳にしか使ってこなかった、という事実ではないだろうか。
 いま、この瞬間にもクウェートでは油井が炎を噴き上げている。谷あいに群れるクルド人難民の悲惨は目を覆うばかりだ。
 湾岸戦争は、開戦の瞬間からハイテク兵器の破壊力や難民の悲惨、自然破壊のすさまじさなど、生々しい映像をリアルタイムで世界に送り続けた最初の戦争でもあった。映像は、たとえ侵略阻止という「正義の戦い」であっても、戦争という手段はあまりにも多くを破壊し、犠牲にするために、目的だったはずの正義をあいまいなものにしてしまうことを如実に示した。
 湾岸の惨状を見るにつけ、戦中派はかつての自分の姿とダブらせつつ、また、戦後派は平和な社会に育った幸運をかみしめつつ、紛争解決に武力を用いることへの根本的疑問を再確認し、期待される国際的貢献は、なんとしても平和憲法の理念と両立させる形で拡充しなければならない、との思いを新たにしたのではないだろうか。
 ドイツ統一が実現した欧州では昨秋、全欧安保協力会議(CSCE)が開かれ、1つの欧州に向けた歴史的な一歩を踏み出した。冷戦時代を象徴する北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の22カ国首脳は「不戦宣言」に署名し、武力不行使と「戦争を防止し、効果的な防衛に必要な軍事力しか保持しない」ことを表明した。相互に戦争を繰り返してきた欧州各国が日本国憲法の理念に追い付き、域内を再び戦場にしないことを誓ったのである。
 欧州ほど全体を覆ううねりとはなっていないが、アジアでも、新秩序への胎動は着実に始まっている。
 
○先行ランナーの覚悟
 だが、「非戦」の理念を高く掲げ続けるためには、先行ランナーとしての覚悟と人一倍の努力がいる。その覚悟と努力を欠いた結果、平和路線を逆戻りさせるようなことがあってはならない。
 われわれ国民ひとりひとりが、湾岸問題を通して「平和主義だからなにもできない」ではなく、「平和主義だからこそ、軍事面以外では他国に倍する貢献をしなければならない」ことを学んだ。
 折しも今年は、満州事変から60年、太平洋戦争へ突入した真珠湾攻撃から50年目にあたる。戦後の足取りを確認し、これからの目標を見定めるのにふさわしい節目でもある。
 わが国は、いつの間にか世界有数の軍事費大国になってしまったが、それでも自衛隊の位置付けに過敏なほど神経を使ってきたことが、周辺国の緊張を和らげ、直接間接にアジアの繁栄に寄与してもきた。
 質量ともになお改善の必要はあるが、政府開発援助(ODA)を含め量的には世界一の援助国である。アジアからソ連や東欧、中東、中南米とわが国の経済、技術協力に対する期待はますます高まっている。
 1国で国民総生産(GNP)が世界の15%、アジア・太平洋地域全体の60%以上を占めるわが国が、持てる経済力、技術力を使って軍拡に狂奔することを戒めてきた事実は、胸を張っていい。
 「はじめに自衛隊ありき」という発想がのぞいた国連平和協力法案や難民移送のための自衛隊機派遣が実現しなかったのも、国民の血となり肉となった「非戦」意識、バランス感覚が反映した結果であろう。
 
○安定と平和の正念場
 いま、海上自衛隊の掃海艇がペルシャ湾へ向かっている。
 政府が事前に、これを自衛隊海外派遣への突破口にしないための明確な歯止め措置を講じなかったのは残念だが、今からでも遅くはない。復権の兆しが見える国連の機能強化への本格的な取り組みや、国連平和維持活動(PKO)へのわが国の協力組織作りを急ぐ中で、専守防衛のための自衛隊と国際貢献の枠組みを広げる組織との間にはっきりした一線を引くことは可能だ。また、そうしなければならない。
 湾岸ひとつとっても、機雷除去以外にクルド人への人道援助やクウェート油井の消火などすぐ手掛けるべき活動がある。軍事活動は終わっても、地域の安定と平和にはむしろこれからが正念場なのだ。
 南の諸国の貧困や人口爆発、地球環境の破壊など、わが国の「目に見える貢献」を待つ課題は山積している。
 国際貢献の実績、行動の裏付けがあれば、平和主義批判にたじろがない思想的たくましさも備わる。われわれはあくまで、紛争解決に武力を使わない先行ランナーであり続けたいと思う。


 
 
 
 
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