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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1988/05/03 朝日新聞朝刊
国際化時代の日本国憲法(社説)
 
 大日本帝国憲法が発布されて、来年の2月で100年になる。この旧憲法を読むたびに、いまの憲法にかえてよかったと、改めて思う。
 たとえば表現の自由である。
 現憲法が「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」としているのに対し、旧憲法は「日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス」だった。
 一見ほとんど同じだが、「法律ノ範囲内ニ於テ」という9文字があるかないかで事情はがらりと変わる。旧憲法下でのさまざまな法律が、表現の自由を空文化した。
 いまは違う。表現の自由を制限しようとする動きが一部にあるが、現憲法が定めた大河の流れは変えられまい。われわれは自由に伴う責任を痛感しつつ、そう信じている。
 
○2つの「常識」の間で
 もうひとつ、いま鮮明に迫ってくるのは、この憲法の国際的な先見性である。
 昨年9月、米国憲法200年記念の講演会が日本各地で開かれた。講師の1人、米ラファイエット大学のビア教授は日本の憲法を高く評価し、とくに戦争放棄をうたった第9条は「世界の憲法的伝統に対する唯一の、きわだった貢献だ」と述べた。
 憲法は前文で国際協調を訴え、第9条で戦争放棄を確約した。この宣言と決意は、だれもが国際化を口にするようになった今日、一段と重みをましてきたように思う。
 長い間われわれは、その線に沿って軍事力を抑制し、武器輸出を自粛してきた。軍事型でない産業構造は、わが国に飛躍的な経済発展をもたらした。この成功は一方で、経済的に軍事的に弱体の国々に、大きな自信をあたえた。立派な国際的貢献である。
 とはいえ、憲法への高い評価が国際社会全体に定着しているわけではない。それどころか、「日本は憲法を口実にして経済大国に見合う役割をはたしていない」との批判が、このところ急激に高まっている。
 たしかに集団的自衛権を否定する国は少ないし、防衛費に天井を設けようとする国もめずらしかろう。国家秘密法のようなものを持つ国は多いし、秘密特許制度にいたっては、それのない先進国を捜すのに苦労するほどだ、といわれている。
 平和主義・民生重視・自由公開を柱とするわが国の憲法体制からすれば当然と思われることが、軍事力を国力の主要な柱とする国々には手前勝手なものに映る。
 もちろん日本国憲法に非があるのではない。軍事に資源を浪費する側の「常識」こそ非難されるべきで、わが憲法はむしろその先見性を誇っていい。
 しかし一方で、日本のやり方を自己中心の経済至上主義だと見る国が多い現実に無とんちゃくだと、わが国は孤立し外交の土台が危うくなる心配がある。ここまで国際的な視線を浴びるようになると、「おれの国の憲法だ、ほっておいてくれ」ではすまない。
 
○必要な長期的視点
 では、どうするか。2つの道がある。
 1、一部主要国の「常識」を受け入れ、これまでの路線を変更する。
 2、憲法の先見性を信じ、その方向に沿って国際協調路線を強化する。
 第1の道を選んだ場合、経済力を背景に防衛力はもっと増強されるだろう。集団的自衛権が容認され、日米の防衛協力態勢はさらに強化されるだろう。国家秘密法の必要性が一段と強調され、秘密特許制度も実現するだろう。米国との防衛摩擦などは、これでいくぶん緩和されるに違いない。
 しかし、長い目で見て、それはプラスといえるのか。プラスだと言いきるためには、一部主要国の「常識」が5年後も10年後も通用している、という前提が必要だが、その前提自体に疑問はないのだろうか。
 中距離核戦力(INF)全廃条約の調印をもって、米ソ両大国が蜜月(みつげつ)の時代に入ったと言うつもりはない。だが、いくら検証のためとはいえ、軍関係者がお互いの領土に常駐しあうということは、これまでほとんど想像もできなかった。
 経済力競争では、秘密・独占型の軍事主導経済が、公開・交流型の平和主導経済に負けた。この勝敗はだれの目にも明らかだ。その反省もあって、米ソとも軍事優先路線に修正をくわえはじめている。
 当面のことに限っても問題がある。たとえばわが国の防衛力増強は、すでに近隣諸国を不安にしており、最近では米国内にすら心配の声を招いている。まして武器輸出解禁となると、市場をめぐって米国などとの間に新しい摩擦が生じ、かえって緊張が高まろう。やはり第1の道は危険である。
 
○思想の競争で勝てるか
 となると、第2の道、つまり憲法の先見性を信じ、それが国際的に是認されるところまで高める努力を続ける以外にない。
 だが、これは第1の道以上に苦痛の選択かもしれない。相当な覚悟がいるからだ。
 米国の著名な裁判官ホームズは、かつて次のように述べている。
 「ある考えが真理かどうかの最良の試験方法は、それが市場での競争で受け入れられる思想上の力を持つかどうかにある」
 これは日本の憲法についても、あてはまるのではないか。その理念を世界に広めるには、一部主要国の「常識」と競争し、それに勝つだけの思想上の力が必要だ。国際化時代の憲法は、そこに住む国民だけでなく、世界から審判を受けることになったのである。
 そうなると、「平和憲法があるから軍事大国にはならない」とか「平和憲法さえあれば大丈夫」という論法は通用しない。国内的スローガンにはなりえても、国際的にはなんら説得性を持たないからだ。問われているのは国際社会での行動である。
 憲法は前文で「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と述べている。今の貿易摩擦が他国への配慮を欠いた結果であることは否定できない。憲法の理念に照らして見直されなければなるまい。
 こういうことをきちんと是正して対日不信の根を除去し、途上国援助などの国際協力をさらに積極的に進めるならば、軽武装や研究・技術の公開を基本に据えた日本の憲法体制が、ホームズのいう「思想の自由競争」に敗れるとは思われない。
 
○真の友人を持とう
 憲法が世界的な広がりを持つためには、日本を理解してくれる友人が要る。
 友人はいるか。西側の一員ではないか、米国をはじめ友人はたくさんいるだろう、と答えたいところだ。だが、西独のシュミット前首相のように「日本は真の友人を持たない」と断言する人が少なくない。
 シュミット氏は「日本は米国一辺倒にすぎると思う」と言う。外からそう見えるほどの関係でありながら、日本を信頼できる友邦と見ている米国人は5割にみたない。
 政治学者の京極純一さんは「異質の他者と相互に共存すること、これが政治の原点だが、日米はこれに弱い」と書いている。米ソ2極型から相互依存の多極型へ移行しようとしている現在、異質の他者とのつきあい方がますます大切になってくる。
 経済大国は必ず軍事大国になるといわれてきた。日本はいまこの定説に挑戦している。米国のフルブライト前上院議員の言う「世界史上初の大実験」だ。
 実験の成否はすべてわれわれの努力にかかっているが、同時に他国の信頼が不可欠だ。真の友人が必要な理由である。


 
 
 
 
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