日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1987/05/09 朝日新聞朝刊
2つの予防法 人権より社会を優先(不惑の憲法:7)
 
 東大医学部の医師グループらでつくる「患者の権利検討委員会」が呼びかけ先月20日、同学部図書館で今国会に提出されたエイズ予防法案をめぐるシンポジウムが開かれた。作家の野坂昭如さんが「エイズなんかにかかわるな、という内容の手紙が5通もきた。この社会の奥にひそむいやな部分が、露呈している」と証言。1月に死亡した神戸の女性患者の遺族が、遺影を掲載した出版社を人権侵害で告訴したい、と言っていたが、途中で、これ以上傷口を広げたくない、と断念した話も報告された。
 日本でエイズに過敏な連鎖反応が起きたのは「神戸」以後だ。高知では元店員の1人が「感染妊婦」と、うわさされ、スナックが閉店に追い込まれた。交通事故を起こしたエイズ感染者を運んだ救急隊員が「エイズ」と聞いて搬送した時に着ていた衣服を焼き捨てた。県保健環境部には「なぜ産むのをやめさせないんだ」と抗議の電話も。
 「全国ヘモフィリア(血友病)友の会」副会長の石田吉明さん(41)に深夜、電話がかかり、会員が切羽詰まった声で訴えることがある。「急に腹痛になった。救急車を呼んでも大丈夫だろうか」。高知で起きた救急隊員らの反応を知っている石田さんは「できる限り身内の手で」と助言する。月3万円台だった事務局の電話代は「神戸」以後、こうした電話の応対で6万8000円にはね上がった。
 
○行政、死ぬまで管理
 全国約5000人の血友病患者のうち国が認可した輸入血液製剤で約3割がエイズウイルスに感染してしまったといわれる。血友病患者の治療に当たる広島大学病院原医研助手の高田昇さん(38)は、エイズが発病したとたん、通院していた病院から入院を拒否された感染者がいる、という話を聞いて一瞬、耳を疑った。関西では、近所の作業所で働こうとした血友病患者が、福祉事務所の職員からエイズの抗体検査の結果を提出するよう求められた例さえある。高田さんは3月中旬、地元紙に「もしエイズ患者が発生すれば、差別なく治療に専念することが私たちの責務である」と書いた。
 エイズ予防法が成立し施行されると、医師は、患者の意向とは関係なく、検査結果を本人に告知し、年齢、性別などを知事に報告しなければならない。知事には医師とは別に、感染者やその保護者に質問し、生活指導できる予防措置権が与えられる。「感染を確認されたら生涯、行政指導から逃れられない。子どもだと保育、就学、結婚・出産と一生、管理されてしまう」と「友の会」副会長で弁護士の保田行雄さん(35)は「医者と患者の信頼関係の根本を揺るがす非情な立法だ」と批判する。法律がない現在でも、血友病患者の親に検査を勧告したり(京都)、患者本人の健康状態を尋ねる(東京)“熱心な”保健所の職員がいる。
 「今回のエイズ騒ぎは、どこか、昔と似ているところがある」。瀬戸内海に浮かぶ岡山県・邑久(おく)町の長島にあるハンセン病患者の国立療養所「長島愛生園」で、入園者自治会長の光沢和幸さん(66)は、戦前「不治の病」とされた患者が「無らい県運動」などによって地域から締め出された歴史を振り返る。
 
○「復帰」に偏見の壁
 3月初め、島にあった全国でただ1つのハンセン病患者の高校が閉校した。ハンセン病は戦後、特効薬の普及で「治る病気」となり、新生患者も激減。全国13療養所にいる約7500人の8割以上が「治癒」した人たちだ。社会復帰が進まないのは、後遺症や高齢化の問題もあるが、何よりの壁は世間に今も残る「偏見」だ。
 らい予防法は明治40年(1907)の制定以来、何度か改正されたが、菌の感染力は極めて弱く、外部との交流も自由になった実情に即さない「強制収容、外出制限」などの規定は今も残る。先月下旬、沖縄で会議を開いた光沢さんら全国13療養所の自治会長らは「人間らしく死にたい」と、再び現行法の改正運動に取り組むことを決めた。
 「恩恵」から「権利」へ。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条)の保障によって、社会保障の制度は充実した。だが「社会的弱者」と呼ばれる人たちにとって、その内容が真に心のこもったものになっているかどうかは別問題だ。
 患者の人権より、社会を感染から守ることを優先させがちな点で、2つの予防法の底に流れる意識は80年前も今も変わっていないのではないか。(白石憲二記者)


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
25位
(28,756成果物中)

成果物アクセス数
271,687

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年4月29日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から