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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1987/05/08 朝日新聞朝刊
傾く三権 軽視される違憲判決(不惑の憲法:6)
 
 「いったい何を考えているんだ」。1人の裁判官がつぶやいた。昭和58年6月半ば、最高裁の一室。「1票の重み」に3.94倍の格差があった55年総選挙をめぐる「衆院定数訴訟」の合議が終わり、解散した直後のことだ。
 東京、大阪高裁の「違憲」判決を受け、最高裁はこの年2月から大法廷での審理を始めた。口頭弁論を間近に控えたこの日の合議。「秘密」の壁を通してもれ伝わるところによると、裁判長の寺田治郎長官(当時)が考えを述べた。
 「格差自体は違憲状態にあるが、国会は昭和50年に格差を是正している。選挙はその施行から3年半後。従って、是正のための合理的期間内にあり、定数規定が違憲とまでいえない」
 何人かの裁判官が反論した。
 「改正はしたが、5年前の45年の国勢調査をもとに行われたもので、改正時点で3倍を超えていた。にもかかわらず国会は何ら是正の努力をしていない。国会の怠慢を司法が追認することになる」
 
○2票差の合憲判決
 全裁判官が意見を述べ、7人が寺田氏の考えに同調した。8人対6人(他の1人は訴え却下の意見)の2票差で、判決の大勢は「合憲」と決した。冒頭の裁判官のつぶやきは、この合議後に違憲派の1人がもらしたもので、そこには寺田氏らの多数意見への不満が込められていた。
 だが、このとき、寺田氏にも、それなりの苦悩があったようだ。11月の判決から半年後の憲法記念日の記者会見で、こう語る。
 「法律を違憲としなくても『こう解釈する限りで合憲』との司法判断(限定解釈)を示すことで法の運用に歯止めがかかり、法の改正につながることもある。こうした判決も違憲立法審査権の1つの行使と考える」
 最高裁は48年、刑法の尊属殺重罰規定を違憲とした。だが、国会は「親に孝」はわが国の伝統思想、とまだ改正していない。この定数訴訟では、判決から任期切れまで半年。「違憲」の判決を出してもその規定のまま総選挙が強行されてしまうのは目に見えていた。
 国会による公然とした司法無視と、司法の権威失墜。合憲判決は、三権分立制度の崩壊につながりかねない事態を避ける窮余の策だったことを、寺田氏は暗に示したのである。
 「違憲立法審査権」は、憲法が司法に与えた最も重要な権限だが、これをどう行使するかをめぐっては、最高裁内部でも以前から相克がある。「限定解釈」は実は、司法が国会や、裁判官の任命権を持つ内閣をあまり刺激することなく、自らの役割をそれなりに果たしていく手法として、主流派裁判官に採用されてきた論理だった。
 その基調にあるのは、国民の選んだ国会が作った法律をむやみに違憲とすべきではない、とする伝統的な考え方だ。しかし、長く保守単独政権が続いていることにより、「三権」の中で立法、行政の「二権」の力が圧倒的に優位であることも、背景の1つとしてある。
 
○オーバーラン発言
 中曽根首相は昨年1月、「三権見直し論」を口にし、「司法のオーバーランはないか」と述べた。最高裁が60年7月、4.40倍にまで開いた58年総選挙時の定数規定を違憲と断じたのをきっかけにしてのことだが、最高裁にとってこれは、前回判決で「格差は違憲状態」としたのに、国会がより大きな格差のまま選挙を強行した経緯からやむを得ない判断だった。
 58年の定数判決で、不満を表した裁判官と同様「違憲」を強く主張、ことし1月、最高裁判事のいすを降りた谷口正孝氏は言う。
 「政治にとらわれることなく法律が憲法に違反していないかを判断することが、裁判官の使命だ。司法が他の二権より軽んじられているとすれば、それは自らの消極的姿勢にこそ原因があるのではないか。58年の定数判決でも『違憲』としていれば、国会はその時点で改正せざるを得なかったはずだ」
 現長官の矢口洪一氏は、寺田氏と同様、最高裁の司法行政畑を歩み、違憲審査権のあり方についても同じ考えを持つ、といわれる。
 その矢口大法廷は先月22日の「森林分割訴訟」判決で、「共有林の分割を制限した森林法の規定は、国民の財産権を保障した憲法に違反し、無効だ」といいきった。
 だが、森林法自体が明治時代の立法で、この判決が林野行政に及ぼす影響はいまやほとんどないという。売上税をめぐり混乱していた国会で、判決が話題になることはなかった。(松本正記者)


 
 
 
 
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