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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1987/05/05 朝日新聞朝刊
唯日史観 無意識に多民族排除(不惑の憲法:4)
 
 日本鋼管京浜製鉄所の煙突が間近に見える川崎市川崎区の桜本商店街から20メートルばかり入った住宅地の真ん中に取り残されたように、雑草が生い茂る空き地がある。
 市の計画によると、3月末には、この約860平方メートルの市有地に、地域の児童の学習と遊びの場「こども文化センター(児童館)」と、地域の在日韓国・朝鮮人と日本人の交流の場「ふれあい館」がいっしょに完成しているはずだった。
 
○根強く生きる偏見
 ところが、市がこの計画を発表したとたん、地元から激しい反対運動が巻き起こった。空き地のすぐそばにある川崎教会(李仁夏牧師)で保育園などを経営する社会福祉法人青丘社(金鴻植理事長)が、市の委託を受けて2つの施設の運営にあたることになっていたからだ。
 「運営が在日韓国人の青丘社まかせでは、運営が韓国人中心に片寄るおそれがある。少なくとも児童館は市の直営にせよ」(若星子ども会育成会長山口良春さん)というのが住民側の主張。「児童館が川崎教会と同じように指紋押捺(おうなつ)拒否運動など民族運動の拠点になるんじゃないか。朝鮮会館じゃあ、日本人は行かなくなるよ」という声も公然と出た。市は「青丘社に市役所側から日本人理事を送り込む」「地域の日本人住民の代表を加えた運営委員会を設置する」などの妥協案を示したが、反対派住民は納得せず、にらみ合いは続いたままだ。
 在日韓国・朝鮮人に対するいわれのない偏見から生まれるトラブルは、もちろん川崎に限ったことではない。
 在日2世の康誠凱さん(38)らは昨年秋「在日コリアン69万人のための専門誌」と銘打った「コリア就職情報」を創刊した。在日の若者たちが「ちゃんとした大学を出ても、日本の企業に受け入れてもらえない」と悩むのを見て約1700万円を借り、赤字覚悟で始めた雑誌だ。
 「われわれは日本社会で生きていかねばならない。民族差別批判も原則的には大事なことだが、日本の企業社会にどう定着していくかを現実の課題にしよう」。そう意気込んだ康さんたちだったが、「在日韓国・朝鮮人の採用実績がある大手・中堅企業」314社のリストを載せた第1号が町に出たとたん、いやがらせの電話が事務所にかかってきた。「おまえらは国際産業スパイか。日本の企業に朝鮮人を入れて、企業秘密を韓国に流すんだろう」
 電通が発表した「生活大予言――1987」は今年を「『意識開国』の年」としている。「明治以降、近代化120年を経て、意識の鎖国が解除される」「日常感覚の構造変化によって、真の国際化が始まろうとしている」年だ、という。そうだろうか。
 カンボジア古代文化専攻の石沢良昭上智大教授は長年、東南アジアを旅行する若者たちを見てきた。その石沢さんは「意識の開国なんて、とても無理」と断言する。
 タイへ行った学生が、くみ取り式便所を見て「ウワァーッ、タイってずいぶん下等な国ね」と平気で口にする。ビルマでは技術者が「いつになったらこの国は日本の経済レベルに達するのか」と政府要人に無邪気な質問をして怒らせる。
 「日本人は外国、外国人を経済の尺度でしか推しはからなくなっているんです。カネやモノ以外に別の価値があることが分からない。経済発展をとげた欧米には顔を向けても、アジアはカネでどうにでもなると思っている。だから、彼らの歴史や文化を知ろうとも思っていないんじゃないですか」
 「追いつき、追い越せ」と明治維新以来、日本は欧米なみを目指して頑張ってきた。その結果、日本は経済的に成功をおさめた。日本は立派な国だ――そんな自己満足が、いつの間にか唯「日本」史観とでもいうべきものを生み、無意識のうちに日本人以外のもの、とくにアジアの人たちを差別、排除する感覚を強めてきているのではないか、というのだ。
 
○「前文」精神どこへ
 思いあたることは多い。東南アジアからの出稼ぎ労働者は締め出す一方で、農家の嫁のなり手が少ないとなればフィリピンまで「嫁捜しツアー」に行く。誘拐された三井物産の若王子マニラ支店長の救出に歓声をあげながら、現地の住民がそれをどんな目で見ているかには思いが至らない――。
 40年前、憲法の前文で「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と高らかに宣言した。その精神の内容と、いま世界、とりわけアジアの人びとが日本について抱くイメージの落差は、決して小さくはないだろう。(山下靖典記者)


 
 
 
 
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