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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1987/04/29 朝日新聞朝刊
4人の「憲」 風化と日常化の間(不惑の憲法:1)
 
 40年前の昭和22年5月1日、戦災のひどかった静岡県浜松市の一軒家の2階で、男の子が生まれた。産湯を2階に運び上げるのに、同居の3家族みんなが手をかした。2600グラム。食糧事情の悪い時代のためか、大きくはなかったが、元気な泣き声をあげた。初めての子に父親は「文憲(ふみのり)」と名付ける。文化国家・平和憲法への思いが託されていた。
 
○新時代、名前に投影
 父・山口文太郎さんは今年75歳。静岡大名誉教授。戦争中は、浜松高等工業学校で化学を教えていた。技術将校を育てるためだが、教え子の多くは戦場で死んだ。「敗戦、そして新しい憲法で日本は生まれ変わったと実感した。過去への反省、新時代の喜びをわが子に伝えたかったのです」
 文憲さんは今、フリーライターになり、東京に住む。卒業した県立浜松北高の同窓会名簿を開くと、同期457人の中に、7人の「憲ちゃん」がいた。憲一、憲治、憲之、正憲、憲男、憲一、そして文憲。
 連絡がとれる限りあたってみると、山口家と同じように、両親の憲法への思いが重ねられていた。各地の同窓会名簿を調べても、22年生まれからしばらくは「憲」の字が目立つ。
 
○熱気あふれた祝典
 文憲さんが生まれた2日後、東京・皇居前広場で新憲法施行式典が行われた。雨の中に立ちつくす約1万人を前に、吉田茂首相らの祝辞に続いて音楽学校生徒による歌声が流れた。「平和のひかり 天に満ち 正義のちから 地にわくや……」。新憲法施行記念国民歌「われらの日本」だ。日比谷公会堂で開かれた記念講演会では「憲法音頭」が栗島すみ子舞踊団で披露された。「おどりおどろかチョンホイナ あの子にこの子 月もまん丸 笑い顔・・・」
 国民歌、音頭とも憲法普及会が作った。衆議院の憲法特別委員長だった芦田均氏(のちに首相)を会長に、21年暮れ発足。文部省に事務局を置く、実質的には官制の憲法広報団体だ。
 「新憲法いろはかるた」も作った。「ち 力にたよれば力まけ」「ほ 封建かたぎははやらない」「す すいた同志の晴れ姿」「あ 愛は勝つ」
 約20分の普及映画「新憲法の成立」は、降伏文書の調印から記念式典までのニュース映画で構成され、ナレーションで「人民による人民のための新しい日本がここに生まれた」と熱い調子で理想をうたい上げた。憲法全文とやさしい解説を加えた小冊子「新しい憲法 明るい生活」も家庭に配った。
 同会は22年末、解散するが、新憲法は生まれてくる子どもたちの名前にも投影されていった。期待ばかりではない。制定過程へのこだわりも、中にはあった。例えば、今年9月に40歳になる山口県下松市の県議・橋本憲二さん。父・橋本正之さん(故人)は、山口県知事も務めた。憲二さんが生まれた当時は県教育部長だった。「新憲法はアメリカの押しつけだ。もう一度、国民の手で2つ目の日本国憲法を作るべきだ」と考え、長男に「憲二」と名付けたという。
 
○9条わかれる意見
 日本国憲法を名前にもらい、不惑を迎えた子どもたちは、いま憲法について何を考えているか。
 山口文憲さん。かつてベ平連や安保問題で憲法と深くかかわった。「ここのところアジアを歩くのですが、外からみると、日本は軍事大国で、経済侵略もすさまじい。9条の精神や理想なんて、アジアの人はとても信じないだろう」
 浜松北高の同期生・原憲男さんは日本楽器に勤める。憲法施行日の生まれだ。「ほとんど意識しないなあ。技術系のサラリーマンとしては、経済摩擦が最大の関心事です。まあ、9条ぐらいかなあ。自衛隊も一種の必要悪で、なけりゃ不安でしょ。この程度の戦力なら、他国の脅威にならないでしょう」
 群馬県安中市の信越化学研究所に勤める磯部憲一さんも同期生。5月23日生まれ。「戦前を知らない世代だから、憲法で生活が変わったという実感はない。男女同権、民主主義、みんな物心ついた時にはあったんですから。意識しないですむのが、いい時代の証明じゃないですか」
 山口県議2期目の橋本さんは自民党。「父の思いは、よく気になる。民主教育ということですべて否定した戦前の教育にも、見習うべき点があるんじゃないか」
 この振幅は憲法が掲げた理想の風化なのか、日常化なのか。文憲さんらの母校・浜松北高の今年の新入生472人のうち「憲」の字を名前に持つのは1人だけだ。(四ノ原恒憲記者)


 
 
 
 
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