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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1985/08/10 朝日新聞朝刊
なし崩しの“解釈改憲” 公式参拝容認の靖国懇報告書 《解説》
 
 首相らの靖国公式参拝を認めた9日の靖国懇報告書は、合憲か違憲かをめぐり、憲法に最も詳しいはずの憲法学者の反対を、いわば数の力で押し切ってまとめる形になった。報告書の中身を決める際には「憲法学者だけが憲法解釈の権限を持っているのではない」という声も出たほど。靖国懇が結論を急ぎ、「決着」にこだわった背景には、公式参拝実現で「靖国」という国家的きずなを確立したい、という中曽根首相の思い入れの深さがある。それが大詰めになって懇談会を一気に走らせたようだ。
 三木元首相以来、歴代内閣は、公職名の記帳など公式参拝への既成事実を積み重ねてきたが、「公人としての参拝」という最後の一線を越えるのは踏みとどまってきた。ところが中曽根首相は58年7月、自民党に「参拝のたびに違憲騒ぎになるのは困る。内閣でも検討させるが、党の方で違憲ではないという法的根拠を明確に打ち出してほしい」と指示。そこで自民党が昨年4月、合憲論を党議で決め、政府側がそれを受けて8月にスタートさせたのが靖国懇だ。
 憲法をめぐる論議だけに、初めは懇談会も慎重だった。林座長も「1年で結論を出すよう言われているが、それ以上かかってもいい」としていた。ところが座長は今年7月に入ると、それまで月1―2回ペースの会合を、7月末からは小刻みに開くと言い出した。関係者によると、今年の終戦記念日の靖国参拝に何とか間に合わせたいという強い要請が、首相周辺から寄せられたためだという。
 しかも大詰めで、公式参拝容認論に一本化しようとしたため、憲法学者らが強く反発したが、結局は違憲論を付記させるのが精いっぱいだった。
 そのせいか報告書は、肝心の憲法問題での検討は不徹底に終わった感が否めない。例えば、歴代首相が憲法に触れる恐れが強いとして最後まで手をつけなかった玉ぐし料の公費支出に、報告書は何も触れていない。宗教色を薄めるなど条件付きで公式参拝を認めながら、具体的な条件の検討は政府にゲタを預けている。「公式参拝は可能」という点だけが浮き立つ形だ。
 首相は運輸相当時の43年に「国家がある以上、外国の元首や首相が来た時に、天皇と一緒に正式参拝する厳粛な場所がなければ、動物園の猿が島と同じだ」と講演した。いま、公式参拝に反対する宗教団体などの間には「天皇在位60年記念式典と東京サミット(主要先進国首脳会議)が行われる来年に、どうしても間に合わせたかったのでは」という見方もある。
 また、国会が靖国神社の国家護持法案で揺れていた47年3月に、当時、自民党総務会長だった首相は強行策をやめて法案を見直すよう演説し、遺族会などのヤジを浴びたこともある。「英霊は、社会党なども含めた国全体の英霊として祭られるべきだ」という自説からだが、それだけに靖国法案をあきらめる代わりの「う回作戦」として登場した公式参拝実現を、「戦後政治の総決算」を看板に、自分の手で決着させておきたいという思いがあるのでは、とみる人もいる。
 しかし、野党が最も警戒しているのは防衛との絡み。首相は7月末の自民党セミナーで「国のために殉じた人に国民が感謝をささげなければ、だれが国に命をささげるか」と講演した。この点、自民党で合憲論取りまとめの中心になった奥野誠亮氏は「自衛隊の戦死者が靖国にまつられることになっても、憲法は公務員の慰霊参拝を許さないとの説は理解しにくい」と、靖国と防衛との絡みをはっきり意識した意見を公表している。
 首相らが公式参拝に踏み切れば、野党の反発は必至。私的諮問機関を足場に次々と政策変更を進める首相の政治手法がまず問題となろう。そして「靖国でも自衛隊と同じように、憲法改正しなくても解釈で切り抜ける方法があるなら」(奥野氏)という、政府・自民党の本音とみられる“解釈改憲”のやり方が、改めて追及のマトとなりそうだ。一方、各地の地方自治体でも、首長の護国神社公式参拝の動きを促すのは避けられそうにない。
 だが、憲法の重要問題として、公式参拝が是か非かの争いは、私的諮問機関を踏み台に首相らが公式参拝に踏み切ったあとも、消えるわけではない。宗教団体の中には、家族を無断で靖国にまつったことを信教の自由の侵害として訴える合祀(ごうし)訴訟などの形で、公式参拝違憲の判決を引き出そうという動きもある。
 報告書はそれを見越し、津地鎮祭訴訟をめぐる52年の最高裁判決と「国民感情」をよりどころに、理論武装を試みた形になっている。しかし、その地鎮祭判決でも裁判長を含む5人の裁判官が反対意見を表明するなど、きわどい判断だった。公式参拝については「地鎮祭のような世俗的行事とは違う」として、憲法学会では違憲論が強いのが実情だ。「国民感情」にしても、靖国がかつて戦争犠牲者を駆り立てる道具となった歴史を忘れまいとしている遺族が少なからずいることも確かだ。


 
 
 
 
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