日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1964/05/03 朝日新聞朝刊
憲法の普及徹底に努めよ(社説)
 
 日本国憲法が施行されてから満十七年を経過した。独立直後から、占領下に制定された憲法を再検討する機運が、主として保守陣営から起り、その結果設置せられた憲法調査会は、足かけ八年にわたって作業を継続してきた。その最終報告書も、この六月末には提出されるという。この報告書をめぐって、改憲、非改憲の論議がさらに一層高まることであろう。いずれにしても、今年は憲法の再検討について一応の区切りをつける年である。
 すでに憲法調査会で公にされた各委員の意見を、きわめて大ざっぱに分類すると、占領下のおしつけ憲法だから全面的に改正せよとの、いわゆる自主改憲論と、自民党委員の有志に学者らを加えた十七委員が提出した「憲法改正の方向」にもられた部分的な改憲論と、高柳会長らの解釈運用による改正不要論との三つに分けられる。いずれの議論にしても、その論拠如何を究明することが最も大切である。何が故に改憲か、何が故に非改憲かの論拠を十分に理解しなくては、憲法改正の是非に対する判断を下しえないからである。
 
規範に対する事実の背反
 憲法改正論の中心は、相変らず第九条におかれている。その代表的な十七委員の改正論の骨子は、第一項の戦争放棄の条項はそのまま存置しつつ、第二項の陸海空のその他の戦力の不保持、交戦権の否認を削除し、現在の自衛隊を自衛軍として公認し、これに文民統制の方途を講じようとするものである。自衛軍備を公認するとなると、将来は自衛のために核武装せざるをえない時期も来るだろうし、国連警察軍に参加するための海外派兵も要請されるだろうが、その際は国民の多数決できめるほかはないといっている。
 これに対し高柳会長らの解釈運用派によれば、日本の安全を保障する世界平和機構が成立していない現状では、自衛のために必要な部隊をもつことはやむをえない。第九条をもって、直ちに日本の一方的完全非武装を規定したものとの解釈をとることは、今日の国際政治的良識に反する。しかし第九条第二項は、核兵器時代における世界各国の進むべき道を示すものだから、この理想的な規範はあくまで存置しておくべきだという。
 日本の現在の自衛隊は、世界各国の軍隊と比較してみても、いわば中戦力程度に成長してきたことは、否定できない事実である。近代兵器を装備した陸海空三軍の防衛力は二十余万に達し、年間の防衛予算も二千数百億円に上っている。このような既成事実の進展と、戦力不保持の条項との矛盾を歴代の保守党政府は、法の拡張解釈で切抜けようとしてきたが、その間に冷戦の論理はますます自己展開の運動を開始し、さらに安保体制という国際的要請が、その加速度を倍加するにいたったのである。
 憲法学者の間には、今なお自衛隊違憲論を強く主張するものが少なくない。文理解釈に基づく法律論を推し進めてゆけば、違憲論に到達するのも少しも不思議ではない。これらの論者は、高柳会長の目的論的、社会学的解釈は、結局は現状維持論であり、“なしくずし改憲論”にすぎないとして非難している。憲法の番人ともいうべきわが最高裁は、安保条約を合憲と判定した砂川判決の際に、国家自衛権の存在を認めたが、自衛隊そのものの合憲、違憲が裁判の直接の対象にならなかったため、その裁断はまだ下してはいない。しかし近い将来、最高裁が自衛隊違憲の判決を下すような可能性はまずないとみてよいであろう。
 
防衛力の統制が先決問題
 一方、社会党は今なお自衛隊違憲の解釈を捨てていない。しかし朝鮮戦乱後に生れた七万五千の警察予備隊はこれを是認した。つまり警察目的ならば、ある程度の国土防衛隊は認める方針のように受取れる。民社党の主流派は、独立国家に自衛権ありとの建前から、好戦的ではない最小限度の自衛力は認めるとの立場をとっているようだ。革新政党があくまで自衛隊違憲論を主張するならば、もし政権を取った場合に、今日の自衛隊をどうするか、という難関に直面せざるをえまい。しかし、安保体制の打破や自衛隊の縮減についての具体的なプログラムは、不幸にして聞くことをえないのである。
 われわれは、現下の世界情勢の下においては、独立国家に固有の自衛権の存在を承認し、この自衛権に基づく必要最小限度の自衛力を是認せざるをえない。むしろ今日の問題は、止め度もなく膨張の一途をたどる防衛力を、いかにして国民的立場から抑制すべきかにある。そのためには、自衛隊に対し完全な文民統制を行うため、与、野党の代表から成る機関を国会内に設置して、国際情勢の変遷に対応しつつ、国力に応じた防衛力の限界を策定することが先決問題であると考える。自衛隊違憲論を強調することは、逆に第九条第二項を改正する方向に拍車をかける結果を招くことを恐れるものである。このように、現状に即した具体的な手を打ちつつ、一方において、核時代を乗切るために緊急の要請となった世界平和機構の樹立を目標として、憲法第九条の理想を大きく生かす方向に、一歩一歩前進してゆくべきである。
 
重要な基本的人権の保障
 憲法問題といえば、なにも第九条だけに止まらない。日常の国民生活に深い関係をもつものは、むしろ国民の権利義務を規定したき本的人権の条章であろう。当面のILO問題にしても、国家ならびに地方公務員の団結権や団体交渉権を今後どうすべきか、違法スト騒ぎまで引起した公共企業体の職員の争議権をどうすべきか、というような勤労者の労働基本権の源は、第二十八条に発している。またいわゆる公安条例に基づき地方的に集会の規制をおこなったり、自治体条例によって出版の規制をおこなったりすることが、言論、出版その他表現の自由を保障する第二十一条に抵触するかどうか。すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を第二十五条は保障しているが、国ははたして社会保障政策を十分に遂行しているか、どうか。
 一々列挙すれば限りはないが、これらの憲法に保障されている基本的人権が、往々にして「公共の福祉」の名の下に制約されるとの理由により、革新政党は、憲法の改正よりも何よりも、まず憲法の条項を文字通り完全に実施せよと主張し、護憲の旗印を掲げている。これに対し政府当局の解釈や裁判所の判決などには、基本的人権といえども第十二条、第十三条によって、「公共の福祉」のためにはその乱用を戒められているから、ある程度の制約はやむをえないとしている。
 思想、信教、集会、結社、言論、出版、学問の自由など、国家権力からの自由を保障するいわゆる自由権的基本権に対しては、一般的にいって「公共の福祉」による制約を否定すべきであり、一方、国民が生存するために必要ないわゆる生存権的基本権については、「公共の福祉」の名の下に積極的に社会福祉政策を進めてゆくことが、近代国家の要請である。このような観点からすれば、憲法の完全実施に政府はもっともっと努力すべき義務があるといわねばならない。
 憲法施行後すでに十七年になるが、憲法に対する国民全体の理解はまだまだ十分とはいえない。きょうの憲法記念日に当って、政府も、各政党も、現行憲法の普及徹底に一層の力を注ぐことを要望しておきたい。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
25位
(28,901成果物中)

成果物アクセス数
273,031

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年6月10日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から