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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1957/05/03 朝日新聞朝刊
憲法十年の歩み(社説)
 
 きょう、日本国憲法施行十年の記念日を迎える。われわれ日本国民の過去十年にわたる国家生活は、すべてこの憲法を土台として営まれてきた。憲法のような一国の基礎法を根底からゆり動かす大事業が、容易になされうるものではないことを考えると、われわれはなお、この日本国憲法にもとづく国家生活を続けてゆくことであろう。
 「外国軍隊の占領下に制定された日本国憲法を全面的に改正」しようとする動きは、主として保守政党の中から起ってきた。さきに自由党の憲法調査会では「自主憲法」を目標として、全面的改正に着手したことがあるし、最近では緑風会の広瀬氏が、全文百五十六条に及ぶ膨大な改正試案を発表した。その間、学者の間からも「自主憲法試案」が作成された。これらの改正案がひとしく目指すところは、占領治下におしつけれた現行憲法を、自主独立の立場から作りなおす、ということである。従ってそれは勢い、全面的改正にならざるをえず、新しい憲法の制定を意味するものにほかならぬのである。
 それならば、憲法改正の機は熟しつつあるかといえば、決してそうとはいえない。鳩山内閣の下で行われた衆、参両院の選挙を通じてみても、保守党はそれぞれ圧倒的多数を制したにもかかわらず、憲法改正の発議に必要な三分の二以上の多数を確保することができなかった。殊に昨年の参院選挙で、社会党より左の陣営が、憲法改正を阻止するに足る三分の一以上の議席を占めてからは、少なくとも向う三年間は、憲法改正の発議を行うことが不可能となった。このような情勢は、一時高まった憲法改正運動に冷水を浴せた結果となっている。現に、憲法改正を暗々のふくみとした憲法調査会も、その法律が成立後一年にもなるのに、いまだに正式に発足できない有様である。
 また、この二月下旬、内閣総理大臣官房審議室が、満二十歳以上の男女一万六千余人について行った世論調査でさえも、改正論二四%、改正反対論二四%と、それぞれ同数なのに対し、「一概にいえない」が一一%、「わからない」が四一%、この両者合せて過半数が、この問題に積極的態度を示していないという結果を示している。憲法改正の時機は、まだまだ熟していないと断定せざるをえない。
 憲法改正論者がねらうところは、大体において同じ方向をとっているように思われるが、最近の広瀬試案は、参議院重視の特徴をもちながらも、同一方向の改正案を集大成した感がある。天皇の地位を高め、「日本国の首位にあり 日本国を代表する」として、元首的性格をもたせ、国民の基本的人権については、「一定の条件の下では法律をもってする規制に服する義務がある」として、その一般的限界を明示し、「婚姻または血縁に基礎をおく生活協同体」を「家」とし、国に家を保護する責務を負わせている。これらを見ても分る通り、天皇の元首化、基本的人権の法的制限、家族制度の尊重、というようなことが、憲法改正の共通目標となっている感がある。
 問題の再軍備条項については、「国策遂行のために戦争その他の武力行使または武力的威嚇の手段に訴えることを永久に放棄する」と規定して、現行憲法第九条、戦争放棄の第一項だけは温存しながら、第二項の再軍備禁止の規定を廃除し、試案第八章に特に「防衛」の項目を設け、自衛軍について七カ条の規定を並べている。自衛軍の保持、その職能、最高指揮命令権、出動命令に対する国会の関与などを規定したのち、「自衛軍は、国際組織による協力義務の履行のため必要な場合、および予め特に国会の承認をえた場合のほかは、外国の領域に出動させることができない」としている。
 これはつまり、ある条件の下で自衛軍の海外出動を認めたことにほかならず、公然たる再軍備が、「戦争の放棄」規定を乗り越えて、世界の戦乱の渦中に自らを投ぜざるをえなくなる方向を明示しているのである。
 これは、現行憲法と改正憲法案との本質的な相違を語るものである。日米安保体制に根ざす防衛力の増強要請にもとづき、陸、海、空の自衛隊の組織、機構は、次第に増大し、現行憲法第九条第二項の再軍備禁止条項は、今やようやく骨抜きになろうとしている。それにしても、この自衛隊は、あくまで国家自衛のためのものであり、海外にまで出動して、諸外国との間の戦乱にまきこまれてはならない、という最低の一線だけは、現行憲法の建前では、大きく引かれているのである。ある程度の自衛力増強をやむなく認めるものも、海外派兵に対しては強い反対の態度をとっており、現に国会で、海外派兵禁止決議が特に議決せられている。もし憲法において公然と再軍備を認めるならば、その必然的帰結として、海外派兵はどうしても容認せざるをえなくなるであろう。
 さきに、われわれは日米安保体制の再検討を唱えたが、それがいかに不平等な体制から、対等の体制に切換えられても、現行憲法の戦争放棄の規定によって、公然たる再軍備が禁止されている以上は、日本の自衛隊が、アメリカを援助するために、海外に出動することはできないのである。ここに、日米安保体制に対する、日本の憲法上の限界がある。われわれは、このような「日本国憲法」の根本原則にもとづいて、日米安保体制に可能なる一定の寄与をする立場にあるのである。それは同時に、日本の防衛力に対する経済的限界とも適合するものであると信ずる。
 日本国憲法十年の歩みは、少なくともその根本原理である平和主義、民主主義の一線だけは守り抜いてきたことを、否定することはできない。現行憲法の諸条項に対し、その不備、その欠陥を指摘して、改正を提唱することはともかく、それらの改正論が、民主主義、平和主義の根底をゆり動かす結果を来すならば、それはむしろ改悪であり、危険ともいえよう。憲法十年の歩みを静かにふりかえりつつ、今後十年、世界にとっても、日本にとっても、最も重大な時期を前にして、過去の誤りを再びくり返すことのないよう、深く自省しなければならない。


 
 
 
 
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