日本財団 図書館


日・韓・中結核研究所学術会議
9月12日〜14日/御殿場
結核研究所対策支援部副部長
宍戸 眞司
 
概要
 日・韓・中結核研究所学術会議は年1回各国が順番に主催し、第1回が北京、第2回がソウル、今回は3回目で9月12日〜14日の間、御殿場の経団連会館にて開催された。韓国結核研究所から5名、北京結核・胸部腫瘍研究所から8名、日本は結核研究所と結核予防会本部から14名の参加があった。
 12日夜は結核予防会会長招宴があり、青木会長が、この学術会議が互いの結核対策、研究向上の場となることを期待すると共に、各国が抱えている多くの結核に関する難題を解決すべくさらなる努力が必要であることを力説され、島尾顧問の乾杯の音頭で始まった。本部からは羽入専務の出席もあり、各国代表の挨拶、参加者紹介なども含めてなごやかに進み、本番の学術会議への良好なスタートとなった。
 学術会議は、13日から14日の午前中まで行われた(内容後述)。同会議場にて、当結核研究所の活動ビデオの日本版、英語版の上映があり好評であった。
 14日午後は、芦ノ湖、箱根の関所等の観光を行った。夜は、雄大な太鼓のアトラクションがあり、参加者も太鼓打ちの飛び入りに参加し、大いに盛り上がった。引き続き森所長招宴に入ったが、学術会議も無事に終わったこともあり、終始なごやかなムードであった。宴の中程で中国のFu所長が、来年は中国においてこの学術会議を行う予定であるとの力強い挨拶があった。
 
開会挨拶をされている会議議長の森所長
 
学術会議
 まず、各国から贈り物の交換が行われた。会議に先立ち森所長から学術会議参加・準備へのお礼が述べられ、発表テーマの内容を技術支援、疫学研究、基礎研究、臨床研究の4つのセッションに分けたことが説明され、討議は参加者全体で行う形式とした。
セッション1:研修と技術支援
 石川副所長の座長挨拶で始まり、韓国と中国における結核研修についてそれぞれの国から報告された。日本側の対策支援部からは、企画科の中西氏が対策支援部活動の全容を紹介し、星野企画科長は主として医師、放射線技師、検査技師、行政担当者研修について述べ、小林保健看護科長は保健師の研修と保健師の役割等について発表した。討論では特に日本の保健師活動について興味が示され、●韓国では患者と面接ができないが、保健師の具体的な役割について、●保健師と看護師との関連、●保健師は結核の仕事以外も兼ねているか、●保健師の実数、●医師・看護師の在学中及び卒後結核教育等についての活発な質疑が行われた。
 韓国では、医師と共に看護師にツベルクリンの訓練を行っていたり、中国では、village doctorが医師、看護師、その他の役をなし、病院内に保健所機能が含まれているという点など、日本と異なったシステムが報告された。
セッション2:疫学とサーベイランス
 中国からは、西暦2000年の全結核罹患率(人口10万対367)等が示され、中国の結核対策は依然として遅れていて地域格差があり、疫学状況改善鈍化が問題であると報告された。
 韓国からは、2000年1月からインターネットウェブサイトを利用して新しく導入された「韓国の結核サーベイランス方式」について報告された。「一般病院や開業医からの結核新発生情報提供の低さについてどう対処するか」との質問に対して、「健康保険の請求時に指摘する」との興味ある解答があった。森所長は、大都市が抱えている結核対策の諸問題を具体的に取り上げ、特に経済的社会的弱者に対する対策を重点的に強化する必要性を述べた。
セッション3:基礎研究
 ツベルクリン反応測定国際有資格者でもある韓国のChan氏は、硬結の測定に際し、繰り返して測定しても測定誤差のないように、常に一定の正確な基準で測定できるような訓練の必要性について解説した。
 中国の抗結核薬耐性研究発表によると、初回耐性、獲得耐性ともに明らかに高率で、各県により大きな差が見られた。これらの原因は何かとの質問に対して、各県による貧富の差があること、抗結核薬が薬局で購入できること、喀痰塗抹陽性者の治療薬は無料で陰性者は有料であること等の問題点があるとの答であった。
 菅原基礎研究部分子病理学科長は、結核感染におけるサイトカイン、転写因子の役割を、動物モデルを利用して解説し、結核菌感染に最も影響を及ぼすのはINF−gamma、TNF−alphaであり、これらの詳細な感染機序の解明が新しい治療・診断に結びつくであろうと示唆した。
セッション4:臨床研究
 原田基礎研究部免疫学科長は、ツベルクリン反応は結核感染によるものか、BCGまたは環境在中抗酸菌によるものかの鑑別ができないが、結核菌の特異抗原測定キットにより、これらの鑑別が可能であることを臨床データで示し、近い将来にツベルクリン反応に代わり実用化される貴重な結果を示した。
 
会議場における韓国の参加者
 
参加者全員の記念写真
 
 中国のGao医師は、60歳以上の喀痰塗抹陽性肺結核患者を、2HRE+LVFX/7HRE群と2HRE+PZA/7HRE群に分けて治療し、治療結果に差はなく副作用はむしろ前者の方に少ない傾向があり、60歳以上にはPZAの代わりにLVFXが有用であることを提唱した。しかし、この治療法はWHOも全く勧めていない治療であり、どうかと思われた。
 外科側からは、172例に行った肺結核・気管支結核手術例の概要の紹介があった。中国の結核研究所は胸部腫瘍研究所も兼ねており、肺がんの病理学診断を主体とした診断根拠、非小細胞肺がん術後放射線補助療法、空胴を呈した40例の肺がん症例の画像分析という内容の、肺がんに関する3題の報告があった。
 
終わりに
 今回の会議では、研修、疫学、臨床、基礎と幅広い分野からの発表があり、それらに対する質疑応答を通じて、各国の研究所にてどのような最新の研究あるいは結核対策活動がなされているかの概要が分かったという点において有意義であった。また、経団連会館内で参加者全員が一緒に過ごすことにより、互いの親交を深め合えたことも大きな収穫であったのではと感じた。
 最後に、森議長はもとより、会議の事前準備から本番の会議を支えられた事務局の山下対策支援部長、宮坂事務部長に敬意を表し、かつ結研参加スタッフのチームワークの下に成功裏に終わったことを報告する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION