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小型船舶操縦士制度の見直しについて
●船舶職員法の一部改正● 国土交通省海事局
船舶職員法の一部改正に至る経緯と背景
 近年における国民の水上レジャー活動に対する関心の高まりや余暇活動の多様化、水上オートバイなどさまざまなタイプの船舶の増加等に伴い、小型船舶を利用した水上レジャー活動は活発化しており、今後とも、その健全な発展を図っていくことが大きな課題となっています。
 現行の船舶職員法に基づく小型船舶操縦士制度の基本的枠組みは、昭和四十九年の法改正で創設されたものですが、制度創設当時、約三七万人であった免許取得者は、平成十二年度末には二七〇万人を超えるまでに増加してきています。また、制度創設当時の免許取得者の多くは漁業者の方々が中心でしたが、現在ではプレジャーボートの利用者が約七割を占める状況となっており、免許取得者の実態は量的にも質的にも大きく変化しています。このため、利用者ニーズを的確に踏まえた本制度の簡素・合理化を図ることが強く求められています。
 他方、利用者の裾野が拡大する中で、小型船舶による海難は増加傾向となっています。平成十二年度には海難件数が二、三〇〇件を超え、その内訳をみると、プレジャーボートが五割、漁船が四割となっており、さらに死傷者数も約七〇〇人に達しています。今後、小型船舶の安全で健全な利用を促進していくためには、プレジャーボート、漁船のいずれにおいても、その安全対策の充実を図っていくことが喫緊の課題となっています。
 こうした状況を踏まえ、国土交通省においては、「プレジャーボート利用改善に向けた総合施策に関する懇談会」の下に「小型船舶操縦士制度等検討小委員会」を設け、プレジャーボート、漁船、遊漁船など幅広い関係者の方々からのご議論を通じて、小型船舶操縦士制度の抜本的な見直しに向けた検討を行い、昨年十二月に取りまとめが行われました。
 これらを踏まえ、小型船舶に係る利用者ニーズの変化に的確に応えるとともに、小型船舶の航行の安全を一層図るため、小型船舶操縦士制度の抜本的な見直しを内容とする「船舶職員法の一部を改正する法律」が、平成十四年六月七日に公布されました。
 
改正の概要
 新しい法律名は「船舶職員及び小型船舶操縦者法」となり、平成十五年六月から施行を予定しています。以下に今回の改正内容の概略を説明します。
(1)小型船舶操縦者と船舶職員の資格体系の分離
 現行の法体系においては、小型船舶の船長は、大型船舶の船長・機関長・通信長等と同様に「船舶職員」として位置付けていますが、この「職員」という用語は、組織による船舶運航を前提としたものでありました。
 小型船舶は資格を持った船長一名で運航可能であるため、この「職員」という用語は、必ずしも適当とはいえず、プレジャーボートの利用者等にとって違和感がありました。
 そこで、今般、小型船舶の船長を「小型船舶操縦者」として位置付けるとともに、船舶職員の資格体系から小型船舶操縦者の資格体系を分離することとし、法律の名称も「船舶職員及び小型船舶操縦者法」と改めることになりました。
(2)小型船舶操縦士の資格区分の再編成等
 (1) 資格区分の簡素・合理化
 (5区分から3区分へ)
 現在の資格区分は、一級小型船舶操縦士から五級小型船舶操縦士の5区分に細分化されている上、航行区域と船舶のトン数という二つの基準によって資格を分けているため、利用者にとって複雑でわかりづらいといった声が多く寄せられています。免許交付の実態をみても、大半が一級又は四級であり、あまり利用されていない資格区分も存在します。
 このため、資格区分の簡素・合理化という観点から、航行区域5海里を基準として資格を大きく2区分とし、外洋まで航行する利用者に対する(新)一級小型船舶操縦士と、沿岸付近のみを航行する利用者に対する(新)二級小型船舶操縦士に再編成することとし、後述する水上オートバイ専用の特殊小型船舶操縦士とあわせ、全体として3区分に簡素化することとしました。
 また、(新)一級小型船舶操縦士と(新)二級小型船舶操縦士については、利用する船舶のトン数を5トン未満とする限定免許制度を設けるとともに、従来の湖川小馬力限定の制度も引き続き維持することとし、利用する船舶に応じた利用者のニーズにも細かく対応することとしています。
 さらに、こうした資格区分の簡素・合理化に併せ、試験内容についても、例えば機関理論に関する知識の簡素化や六分儀の取扱いの禁止など、安全に配慮しつつできる限り簡素なものとすることとしています。
 一方、旅客を扱う小型船舶操縦士については、一般の試験に加えて、人命救助等に関する知識や能力を内容とする講習の受講を義務づけることとし、安全対策の充実を図ることとしています。
 (2)水上オートバイ専用資格の創設
 (特殊小型船舶操縦士の創設)
 現在の資格区分においては、水上オートバイ専用の資格区分が存在しないため、水上オートバイの利用者も一般の小型船舶と同様に、五級以上の免許を取得する必要があります。しかしながら、水上オートバイの操縦方法や運動特性は、一般の小型船舶と大きく異なることから、水上オートバイと一般の小型船舶の利用者に同じ資格を求めることは、双方の利用者にとって過大な負担も生じるうえ、近年における水上オートバイの特性に見合った教育が必要となっています。
 このため、今回の資格区分の再編成に当たって、免許取得に当たっての利用者の負担軽減と水上オートバイの安全向上の観点から、水上オートバイ専用の資格区分を設け、水上オートバイに特化した知識や能力を重点的かつ効率的に習得していただくこととしました。
(3)小型船舶操縦者が遵守すべき事項の明確化
 酒酔い操縦の禁止やライフジャケットの着用といった小型船舶の安全な航行を確保するために小型船舶操縦者が当然に遵守すべき事項については、従来、マナーやシーマンシップに期待されていました。しかしながら、小型船舶による海難は増加傾向にあるとともに、免許取得者の増加に伴い、経験も浅く、必ずしもマナーやシーマンシップを身に付けていない方も少なくないという実態となっています。
 このため、今般の改正においては、小型船舶操縦者に対する遵守事項として次の事項を法令上で明確化しました。
 (1)酒酔い等操縦の禁止
 船舶を安全に運航し、海難・事故を防止するためには、操縦者は正常な判断能力を有する状態で操縦することが必要です。
 このため、事故につながる危険性が極めて高い、飲酒、過労その他の影響により正常な判断ができない状態における操縦を禁止することとしました。
 (2)有資格者による自己操縦
 小型船舶は運動性能が高いため、一瞬の操作により状況変化が生じやすい場面があります。
 このため、交通のふくそう度が高く衝突等の危険性が高い、港内や航路内を航行するときは有資格者が自らその小型船舶を操縦しなければならないこととするとともに、水上オートバイについては常時有資格者自らが操縦しなければならないこととしています。ただし、漁船等の事業用船舶、ヨット、試験・教習艇等、自己操縦を義務付けることが適当でない船舶は例外として除くこととしています。
 (3)遊泳者等に対する危険操縦の禁止
 小型船舶は、大型船舶に比べて運動性能も高く、喫水も浅いことから、遊泳者等への不用意な接近を招きやすく、遊泳妨害や遊泳者との接触等によるトラブルや事故の事例が後を絶たない状況となっています。
 このため、遊泳者等に対し危険を及ぼすおそれのある操縦を禁止することとしています。
 (4)救命胴衣等の着用
 小型船舶は、大型船舶に比べて、風浪等の自然条件の影響や船体動揺等が大きいため、落水の危険性が高く、落水事故への適切な対応が重要となっています。落水者の生存率は、救命胴衣着用者は八割、未着用者は二割となっており、救命胴衣を着用することは極めて有効です。
 このため、水上オートバイの乗船者や子供など落水の可能性が高い場合には、救命胴衣の着用を義務付けることとしています。
(詳細は22ページ「ライフジャケットを取り巻く最近の状況」をご参考ください。)
 その他、船舶の航行の安全をより一層確保するため、発航前の点検や適切な見張りの実施について、明確化することとしています。
 また、これらの遵守事項の違反者に対しては、安全意識の向上を図る観点から、初心に返って海のルールを身に付けてもらう教育的措置が有効であるため、一定の違反者に対する再教育講習制度を設けることとしました。
 
現行の免許受有者の移行
 現行の小型船舶操縦士の免許受有者の方々につきましては、現在の免許で利用することができる小型船舶は引き続き利用することができるように措置することとしています。
 具体的な免許の移行は下の表のとおりとすることとしており、例えば、現在の四級小型船舶操縦士の免許については、(新)二級小型船舶操縦士の総トン数5トン未満限定免許及び特殊小型船舶操縦士の免許とみなされ、従来どおり、航行区域5海里以内、総トン数5トン未満の小型船舶(水上オートバイを含む。)を利用することができるよう措置することとしています。
 また、小型船舶操縦士の資格に係る海技免状については、小型船舶操縦免許証に名称を変更し、免許証の様式も一新されたものとすることとしています。
 なお、現行の海技免状については、当該免状の有効期限の間は続き続き有効であり、施行日以降特に新たな免許証に引き換える必要はありません(更新時に引き換えることになります。)。
 
新制度の施行
 新制度は平成十五年六月からの施行を予定しており、現在、新制度を円滑に実施するために必要な、関係政省令等の改正や新たな免許登録システムの構築等の所要の準備を進めているところです。
 
ボート免許の制度が変わります。
どこが変わるの?
新しい免許制度<平成15年6月施行(予定)>
1 資格区分を再編成
2 水上オートバイ専用の免許を新設 New
3 操縦者が守らなければならない事項が明確に
 
<現在のボート免許>
  船の大きさ(総トン数) 航行区域
1級 20トン未満 外洋
2級 20トン未満 20海里(約37km)
3級 20トン未満 平水区域+海岸から5海里以内(約9km)
4級 5トン未満 平水区域+海岸から5海里以内(約9km)
5級 5トン未満 湖・川+海岸から1海里以内(約1.8km)
 
<改正後のボート免許>
  船の大きさ(総トン数) 航行区域
新1級 20トン未満 外洋
5トン未満 外洋
新2級 20トン未満 平水区域+海岸から5海里以内(約9km)
5トン未満 平水区域+海岸から5海里以内(約9km)
 
New  特殊小型船舶操縦士 水上オートバイ 2海里(約3.7km)
 
ボランティア救助員大活躍、529人の人名救助
沿岸救助即応体制の強化
 
 不幸にしてマリンレジャー事故が発生した場合、死亡・行方不明者の根絶のためには、民間の救助機関の協力が特に重要であります。
 現在、我が国の沿岸部において、海難救助活動を行う民間ボランティア団体として中心的な役割を果たしているものに(社)日本水難救済会があり、臨海全都道府県に整備されている地方水難救済会傘下の1,054ヶ所の救難所及び救難支所において、局地的な地形や気象・海象を熟知している45,510人のボランティア救助員が地元海難の救助活動を行っています。平成13年の海難等への出動回数は467件であり、529人の人命、228隻の船舶を救助しています。
 また、我が国におけるマリンレジャーの健全な発展に寄与することを目的として設立された(財)日本海洋レジャー安全・振興協会では、東京湾、伊勢湾及び大阪湾並びにその周辺海域において、プレジャーボート等を対象とした会員制救助サービス(BAN:Boat Assistance Network)を運営しているほか、全国規模のスキューバダイバーを対象とした会員制応急援助事業(DAN JAPAN:Divers Alert Network of Japan)を運営しています。
 海上保安庁では、これらの活動を積極的に支援しています。
 
▲水難救助会の訓練風景
 
(拡大画面:42KB)
▲BANサービス概念図
 
平成14年 海上安全トピックス
レーザー技術利用航路標識の開発整備すすむ
視認性の向上がキーワード
 
 陸上で車、人などが安全に通行できるよう道路交通標識が設置されていますが、海上にも船が安全に航行できるように航路標識が設置されています。
 陸上に道路があるように海上にも航路(船の通る道)があります。陸上では白線を引いたり、舗装することで道路だと一目でわかりますが、海上には白線はありません。航行船舶がこの航路からはみ出すことにより、浅瀬に乗り上げるなどの重大な事故につながることがあります。
 このため航路側端を明示している航路標識を「見える」から「見やすい・わかりやすい」へと高機能化を図るため、同期点滅、光力増大等の視認性の向上、航路を道路のようにラインで明示できるようにレーザー技術を利用した航路標識の開発整備を行っています。
 
▲レーザー技術を利用した航路標識







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