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運輸政策研究機構
2003.5 NO.3
研究調査報告書要旨
公共交通における緊急事態への対応に関する調査
1. 調査の目的
 
 本調査は、公共交通機関における信頼性のさらなる向上に資することを目的として、公共交通機関における犯罪・迷惑行為、自然災害への対応をはじめとする緊急事態への総合的な対応方策や、被害の未然防止及び発生時の対応についての交通利用者への周知方策の向上などについて検討するものである。
 
2. 調査対象の整理
 
 本調査では、対象とする交通機関と緊急事態の範囲を整理した。交通機関の種類や緊急事態の内容により当然その対応策が異なってくる。本調査では、利用者数や利用目的の観点から交通機関の対象を、また、利用者の安全、安心への影響の観点等から緊急事態の対象を絞りこんだ。
 対象となる交通機関としては、社会的な影響や発生頻度等を考慮し、鉄道とパスを対象とした。対象となる緊急事態としては、利用者にとって比較的身近に起こりやすいと考えられるものを対象とし、迷惑行為、犯罪行為、急病人・けが人の発生、事故、災害を対象とした。
 
3. 緊急時対応の実態及び意向の把握
 
 緊急事態の発生状況を既存統計等から把握するとともに、利用者アンケートによる意向の把握や事業者・関係機関ヒアリングによる現状把握を行った。
(1)利用者アンケートの概要
対象 鉄道利用者、バス利用者
実施場所 東京、大阪、札幌、福岡の各都市の鉄道駅(7地点)及びバスターミナル(5地点)
実施期間 平成14年11月〜12月の平日
実施方法 各実施場所にてアンケート票を配布し、郵送にて回収
主な質問 ・利用の際に不安や不満に感じる点
・特に迷惑に感じる行為
・効果的な抑止策
・高い安心を感じる対応策
・平常時や緊急時に欲しい情報
配布回収
状況
(鉄道)配布数 14,370票
回収数 2,591票(18.0%)
(バス)配布数 5,250票
回収数 645票(12.3%)
 
(2)事業者・関係機関ヒアリングの概要
対象 鉄道・バス事業者(5社) 関係機関(警察庁、消防庁)
実施期間 平成14年11月〜12月
主な質問 ・平常時の対応策
・緊急事態発生時の対応策
・事態収拾後の事後処理
・対応策の推進上で感じる課題
 
4. 現状における諸課題
 
(1)迷惑行為への対応について
(1)迷惑行為の増加と対応の欠如
 利用者アンケートでは、マナーの欠如や迷惑行為について不安や不満であるとする回答が多く(図−(1))、事業者に対して対応を要望している。公共交通分野でも早急に対応策を講じる必要性がある。
 
(2)利用者の要望と事業者の対応のギャップ
 交通事業者は、マナー向上や迷惑行為防止に向けて、例えば携帯電話について、ポスター掲示や車内放送などのほか、車輌ごとに利用可否の区分を行うなどの取組みを行なっているが、利用者アンケートでは特に迷惑と感じる行為として携帯電話の利用を挙げる者が最も多く(図−(2))、利用者の認識と事業者の対策との間にギャップが残っている。
 
(3)社会・個人の意識格差
 マナーの欠如や迷惑行為の定義は難しく、対応の方向性については、市民・利用者の意識を十分に把握した上で検討する必要がある。例えば、利用者アンケートにおいて携帯電話の利用を迷惑に感じると回答した人数の割合が高齢者層から若年層にかけて年代ごとに低下している(図−(3))など、社会的規範の変化に適切に対応していく必要がある。
 
(4)犯罪発生の抑止としての迷惑行為対策
 利用者アンケートでは、マナーの悪い利用者がいるときが最も犯罪がおきやすいと回答する者が最も多い(図−(4))。迷惑行為が多発し公共の秩序が損なわれる状況は、犯罪につながりやすい環境であり、犯罪の予防・抑止の観点から迷惑行為対策を講じることが必要である。







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