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ご意見
 マスコミを含めた座談会にぜひご出席いただきたいと思っておりました、大学院法学研究科(刑事法)教授より、落語と偏見差別についてのご意見をいただいておりますので、ここに記載させていただきました。
 なお、この「ご意見」につきましては、事務局への連絡にかかわる書簡に感想として記されたものであり、公表を前提として書かれたものではありませんでしたが、ご本人の了承を得た上で、ここに掲載させていただくことになりました。
 先生は、「マスコミと人権」「反差別と人権」について造詣が深く、第5回落語会(名古屋市中区にて開催)にご参加されております。
 また、先生は、学生時代に落語研究会(落研)に所属、落語研究家の飯島友治氏、三遊亭小円朝師に師事され、1年間、落研会長を勤められました。
 
(1)小学生のときから50年間落語に親しみ、人格形成にも少なからぬ影響を受けてきたものから見ると、落語は「しょせん、人間、みな同じ」という人間観に裏打ちされた、「差別」からは最も遠い芸であると思われます。私はその底流をなしている精神は、「罪悪深重 煩悩具足の凡夫」「悪人正機」を説く親鸞の精神とも共通するものではないかと感じています。落語は大道芸の辻噺から始まったとも言われ、いわば社会の(最)底辺の民衆によって形成され、支えられてきた芸です。そこには反差別の視点こそあれ、差別を助長するものはないように思います。
 もっとも、「差別語」や障害者描写を不快とされる方があることをどのように考えるべきかは、困難な問題です。この問題に思い至らなかったのは不明の至りですが、法律家として「マスコミと人権」「反差別と人権」について考えてきた者として、これから一つの課題として取り組んでいきたいと思っています。
 落語は、歴史のある、奥の深い芸であり、「落語と差別語」について論じる場合にも、落語に造詣の深い人の参加が不可欠のように思います。(2002年1月7日)
 
(2)落語は、単に人を笑わせるための話ではなく、人間の真実を描き出すものでなければなりません。そこが、漫談・漫才と違うところです。人間は本質的に矛盾した存在で、その矛盾を暴露することは、人間、そして自分自身の矛盾を自覚させ、笑いを誘います。ですから、落語にはリアリズムが要求されます。しかし、100%リアリズムでは「矛盾の暴露」にならず、「1分のウソ」が必要です。まさに虚実皮膜」が落語の芸です。
 六代目(?)菊五郎が、一番易しい芸は何かと聞かれて「それは落語ですね」と答え、重ねて一番難しい芸は何かと聞かれて「それも落語ですね」と答えたという話があります。落語は極めて高度の芸術だと思います。
 それを分かっていない観客、分かっていない噺家が落語を危機に陥れているように思います。これは落語にとって、差別語問題以上の重大問題です。(2002年1月23日)
 
(3)差別問題を実感するようになったのは、報道被害者・部落解放同盟の方々などと出会い、又身障者の門下生の就職で某国立大からひどい就職差別を受けるという経験をしたからです。差別される側に立たないと、差別問題は分からないと痛感しました。
 「同情は差別だ」と言われますが、自分は人権意識・平等意識を持った「善人」だと思っている限り、無意識的に差別をしてしまい、自分だけを守って他者を踏み付けにしてしまいかねないと思うのです(今のアメリカのアフガニスタン・イラン・イラク・北朝鮮・パレスチナ・・・等に対する態度がまさにそうです。人間は本質的に差別的存在であり、その「煩悩」を自覚しなければならないのではないでしょうか)。
 噺家は「枕」で、「江戸時代には士農工商という身分があって、道の真中はサムライが通り、町人は隅を歩かなければならなかった。噺家なんぞはドブの板の上を歩いていた」と言ったりします。これは被差別者、下層民衆としての自覚です。最近は噺家もエラくなってしまいましたが、自分を最下層の被差別民衆に位置づけている限り、落語が差別的なものになることはないと思っています。しかし、人間の本質が差別的なものである以上、この自覚を失うと、落語にも差別が忍び込んでくるおそれがあります。差別問題は奥が深いです。気を付けないといけないと思います。(2002年2月25日)
大学院法学研究科(刑事法) 教授 H
 
課題
 今までの活動の中で、課題として残る部分を列記してみました。
<参加者について>
1 落語でとりあげられている、障害当事者の参加が少ない。
 軽度の知的障害者および視覚障害者で、保護的就労あるいは一般就労をしている方の参加が望まれる。(落語の中の登場人物も障害があってもある程度の年齢になったら皆働くことを意識した作品である)
 
2 座談会への女性の参加者が皆無であった。
 次の機会には、障害当事者および関係者等の参加が望まれる。
 (日常の生活観を伴った母親及び子育て・女性の立場からの意見を取り入れたい)
 
3 関西方面での上演会の実施。
 落語興隆の地であり、差別問題について長い歴史を持つ地域の方の参画。
 (同和問題[水平社宣言]より80年、時代の変遷と共に差別に関する問題を意識しないで生まれ育ってきた世代も多くなっている。現実的苦しみを抱えた歴史の街の方の言葉も聞き取りたい)
 
<上演作品について>
4 女性障害者が主人公の作品の上演がなされていない。
 実際的にあるのか。男性との違いは。
 
5 自主規制に対する落語協会等の意見および方向性の明確化。
 座談会の中でも、よく了解しにくい
 
6 落語上演後、各会とも検討会を行っているが、今回は紙面の都合もあり掲載はしていない。
 報告書NO.2の方で取り上げてみたい。
 
<偏見差別問題に関しての展開>
 
 助成事業終了後も、真の偏見差別を問い直していくことは大切である。全国各地で考える会が行われるようなパンフレット等の配布を考えたい。
 
2001.9.30(日)1:30〜
名古屋栄ガスビルホール
 
自己点検マニュアル
(拡大画面:46KB)







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