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アイコウボウ USA?障害者とボランティア 13年のあゆみ

 事業名 国際交流活動に係る印刷物の配布及び講演会開催
 団体名 注目度注目度1


斎藤ドクター、来房
 一九九八年、暮れも押し迫った十二月二十九日、斎藤先生はアメリカ・オレゴン州・ポートランド空港に降り立った−青い顔で。
 斎藤先生がアイコウボウにやって来るということは、ずっと以前から聞いていた。先生は超多忙の人である。二子メンタルクリニックの院長にして藍工房の顧問医。その合間を縫って「アイコウボウ・USA評価委員会」の委員長を務めていただいている。その先生が日本財団の命を受けて、「アイコウボウ・USA評価委員会」委員長として、アイコウボウの視察に訪れたのである。滞在期間は六日間。年末のこの時期が選ばれたのは、ひとえに先生の多忙さゆえ。年末年始のこの時期にしか休みが取れなかったためである。
 この日の朝、私たちは先生を出迎えるため、ポートランド空港に向かった。いくらよく見知っている斎藤先生とはいえ、視察となればやはり緊張しないわけにはいかない。私たちはちょっぴりドキドキしながら、先生が空港のゲートから出てくるのを今か今かと待ち受けた。
 ところがどうしたことか、空港のゲートを出て来た斎藤先生は、私たちよりずっと緊張した面持ちである。出迎えに来ていたスタッフの前田さんを見るなり、「あぁ、よかった。前田さんの顔を見てホッとしましたよ」
 そう言って、安堵の表情を浮かべた。
 このとき私たちは、長年顧問医として精神医学の分野で専門的な指導をいただいている斎藤先生が、飛行機をことのほか苦手としているらしいということを初めて知った。
 日本から出たのは今回が初めてとのことであった。
 
 翌日、さっそく先生はアイコウボウと協力関係にある他施設の見学に出掛けた。
 まずは、ARC(アーク)。ARCはアメリカ全土にある知的障害者を対象とした施設である。ここでは、週五日、午前九時から午後二時までのデイケアプログラムを行なっていて、約四十名の利用者が通所している。アイコウボウとはゆるやかなつながりを持っていて、折り紙、書道など、共同プログラムの企画が進んでいる。
 次に、バグリー・コミュニティー・センター。ここはバンクーバー市が運営している施設で、主に知的障害者・身体障害者を対象としている。アイコウボウとのつながりも深く、これまでにも施設内で藍染め教室を開かせてもらったり、市が企画した一泊旅行や、ファッションショーにも毎年参加させてもらっている。
 この日先生は、この二施設以外にもアイコウボウ関係者宅を訪問し、いろいろな話を聞いて廻った。
 三十一日、滞在三日目にあたるこの日は、ブライトン・エンタープライズと、コロンビアリバー・メンタルヘルス・サービスを訪問した。
 ブライトン・エンタープライズは、障害者に住居と生活指導を提供している民間の団体。日本のグループホームとは違い、障害者を大家さんに仲介する、紹介所のような役割を果たしている。運営はワシントン州の補助金で行なわれているらしい。
 コロンビアリバー・メンタルヘルス・サービスは、主に精神障害者の外来診療を行なっている医療機関である。精神障害者のデイケアやカウンセリング、職業訓練も行なうほか、二十四時間、年中無休の救急対応もやっている。この救急は、二十四時間、日本語オペレーターが対応しているということで、アイコウボウにとっても心強い味方である。
 ところで、三十一日といえば日本では大晦日。そんな日に施設の見学なんか出来るのかな、と思うかもしれないが、アメリカではなんと、三十一日は休日ではないのである。年末年始で休みなのは、一月一日だけ。三十一日まではみんな普通に働いているし、一月も二日からもう働き始める。
 アメリカで生活していて驚いたことの一つに、「アメリカは休日が少ない」というのがある。アメリカより日本の方がよほど休みが多いのである。アメリカにはゴールデン・ウィークはないし、お盆休みも正月休みもない。夏休みがあるにはあるが、それも一週間程度で、年間で見ると日本人の方がずっと多く休んでいる。アメリカ人は意外に勤勉なのである。
 さて、大晦日といえば年越しそば。なんと、この日のために斎藤先生は、そばとそばつゆを日本から持参していた。なんでも、先生は無類のそば好きとか。若いころは、うまいそばを求めて全国を渡り歩き、北にうまいそばがあると聞けば北に行き、南のそばがうまいと聞けば南へと、一日三食そばばかりを食べて、栄養失調で病院に行ったことがあるというほどのそば好き。その、あまた食したそばの中でも、これこそが日本一のそば、という一品を私たちのために持って来てくれたのである。しかも、こだわりのそばつゆも一緒に。
 それを聞いて私たちは大喜び。まさかアメリカでそんなうまいそばにありつけるとは。その日は夕食を軽く済ませ、私たちは夜がふけるのを心待ちにした。
 いよいよ年越し。斎藤先生自らが台所に立つ。こういう姿はなかなか見れるものではない。先生はそばをゆでながら、「そばの命はこしと香り」と力説。私たちは食卓に座り、いまや遅しと待ち受ける。
「いただきます!」
 食卓に並んだそばを前に、みんな声をそろえて手を合わせる。そして、
「うまい!」
 みんな口々にそう叫んだ。
 やはり、全国を食べ歩いただけのことはあり、こしといい、のど越しといい、香りといい、どれをとっても絶品である。
 こんなにおいしいそばで年を越せるとは、斎藤先生様々であった。
 
 滞在六日目。翌日の帰国を前に、私たちは先生とポートランドのダウンタウンに出掛けた。アイコウボウのあるバトルグラウンドとは違い、ポートランドは大きな街である。碁盤の目に区切られた道路にビルが建ち並び、MAXという路面電車が走っている。
 お土産を買いたいということで、私たちはMAXに乗り、ロイドセンターというショッピングモールに行った。ロイドセンターの中はとても広く、様々なお店が並んでいる。一階にはスケートリンク、三階には映画館まである。私たちはフードコートでお昼を食べ、モール内をゆっくりと歩きながら、土産物をいろいろと見て廻った。
 先生は誰にどんなお土産を買われたのだろうか。
 こうして、斎藤先生のアイコウボウ滞在六日間は駆け足で終わった。
 
「おはようございます」
 いよいよ帰国。思ったとおり先生は、朝から緊張の面持ちである。これからまた飛行機に乗らなければならないことが、たまらなく嫌なようだ。だが、飛行機に乗らなければ日本には帰れないのだからしょうがない。
 というわけで、私たちは全員そろって先生の見送りに行った。
 一週間とはいえ斎藤先生と生活を共に出来たことは、私たちにとって実によい経験だった。台所に立つ斎藤先生、そばについて力説する斎藤先生、パジャマ姿の斎藤先生、飛行機を怖がる斎藤先生。こうした生身の人間らしさを共に共有出来ることが、アイコウボウの大きな魅力なんだろうなぁと、青ざめた顔で搭乗ゲートに消える先生を見送りながら、私たちは再確認した。







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更新日: 2009年1月3日

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