日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年函審第40号
件名

漁船第1日進丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年12月12日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第1日進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
全シリンダのピストンとシリンダライナのほか主軸受等損傷

原因
主機潤滑油系統の漏油箇所及び油受の潤滑油量の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油系統の漏油箇所及び油受の潤滑油量の点検がいずれも不十分で、同油量が著しく不足して潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月21日13時30分
 北海道瀬棚港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第1日進丸
総トン数 18.66トン
全長 19.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 353キロワット
回転数 毎分2,100

3 事実の経過
 第1日進丸(以下「日進丸」という。)は、昭和53年4月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてアメリカ合衆国キャタピラートラクター社が製造した3408DI-TA型と呼称するディーゼル機関を備え、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び計器盤を装備していた。
 主機は、交流発電機及び操舵機用油圧ポンプをベルト駆動し、また、クランク室底部に位置する容量44.5リットルの油受から直結式潤滑油ポンプに吸引された潤滑油が、潤滑油冷却器を経て潤滑油こし器の複式フィルタエレメントを通過し、約4.0キログラム毎平方センチメートルの圧力で潤滑油主管に入り、主軸受を経てクランクピン軸受やピストンピン、ピストン冷却油、カム軸、弁腕注油、調時歯車装置及び過給機等の系統にそれぞれ分岐し、各部を潤滑あるいは冷却したのち油受に戻って循環しており、油受の検油棒がクランク室下方に差し込まれていた。そして、操舵室の計器盤には、潤滑油圧力低下警報装置が組み込まれていて、潤滑油主管の油圧が0.6キログラム毎平方センチメートル以下に低下すると同装置が作動し、警報灯が点灯して警報ブザーが鳴るようになっていた。
 日進丸は、北海道瀬棚港を根拠地とし、例年1月船体等を整備した後、山口県沖に南下して操業を開始し、日本海を北上する魚群を追いながら漁場を北海道沖に移動して操業を続けていた。
 A受審人は、平成4年12月日進丸に船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたっており、同12年10月末瀬棚港沖合の漁場における操業の合間に潤滑油及び潤滑油こし器のフィルタエレメントを交換した後、フィルタエレメント取付部から同油が漏洩し、12月上旬潤滑油の消費量が徐々に増加したものの、潤滑油系統の漏油箇所を点検しなかったので、その漏洩に気付かず、運転を続けた。
 日進丸は、12月27日06時00分瀬棚港に入港し、船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、瀬棚港南外防波堤灯台から真方位044度490メートルの中央ふ頭東側岸壁に船首を北東方に向け左舷付けで係留して漁期を終え、翌13年1月25日操業開始までの間、A受審人が単独で蓄電池の充電等のため、2日置きに3時間ばかり停止回転数毎分750にかけて主機の運転を繰り返し、操業開始前に潤滑油の交換等を予定していたところ、前示漏洩により油受の潤滑油量が不足する状況になった。
 しかし、A受審人は、1月21日10時30分操舵室から主機を遠隔で始動する際、無難に運転できると思い、始動前に油受の潤滑油量を点検しなかったので、その状況に気付かず、潤滑油を補給しないで始動し、いつものとおり停止回転数にかけた。
 こうして、日進丸は、主機の運転中、油受の潤滑油量が著しく不足して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、潤滑油圧力低下警報装置が作動したものの、A受審人が機関室で整備作業をしていて、操舵室の警報ブザー音を聞き取れないまま、各部の潤滑が阻害され、13時30分前示係留地点において、各シリンダのシリンダライナとピストンが焼き付き始め、運転音の変化に気付いて主機を停止した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、港内は穏やかであった。
 日進丸は、主機が業者により精査された結果、全シリンダのピストンとシリンダライナのほか主軸受、クランクピン軸受、クランクピン、連接棒及び過給機等の損傷が判明し、各損傷部品等が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機潤滑油系統の漏油箇所の点検が不十分で、潤滑油こし器のフィルタエレメント取付部から潤滑油が漏洩するまま運転が続けられたこと及び油受の潤滑油量の点検が不十分で、同油が補給されず、同油量が著しく不足して潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、漁期を終えて係留中に蓄電池の充電等のために主機を始動する場合、潤滑油系統から漏油することがあるから、油受の潤滑油量が不足しないよう、始動前に同油量を点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、無難に運転できると思い、始動前に油受の潤滑油量を点検しなかった職務上の過失により、潤滑油を補給せず、運転中に同油量が著しく不足して各部の潤滑が阻害される事態を招き、ピストン、シリンダライナ、主軸受、クランクピン軸受、クランクピン、連接棒及び過給機等を損傷させるに至った。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION