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平成14年横審第70号
件名

漁船第十八長宝丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年11月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第十八長宝丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)

損害
入力、出力及びクラッチ各軸等減速機一式を損傷

原因
逆転減速機の潤滑油量の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、逆転減速機の潤滑油量の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月10日09時15分
 静岡県内浦漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八長宝丸
総トン数 143.49トン
全長 36.8メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット
回転数 毎分900

3 事実の経過
 第十八長宝丸(以下「長宝丸」という。)は、昭和56年1月に進水し、平成12年2月に有限会社T漁業が購入した、中型まき網漁業船団に運搬船として所属する鋼製漁船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が製造した6DSM-22FS型と呼称するディーゼル機関を装備し、同社が製造したDRB-14D型と呼称する逆転減速機(以下「減速機」という。)を介してプロペラ軸を駆動し、操舵室から遠隔操縦装置により主機及び減速機の運転操作が行えるようになっていた。
 減速機は、1段前進歯車が取り付けられた入力軸、同歯車と噛み合う1段後進歯車が取り付けられた後進側クラッチ軸(以下「クラッチ軸」という。)並びに入力軸の船尾側に取り付けられた2段前進小歯車及びクラッチ軸の船尾側に取り付けられた2段後進小歯車と噛み合う大歯車が取り付けられた出力軸とによって構成されていた。また、入力軸及びクラッチ軸には、スチールプレート、摩擦板及び油圧ピストンなどが組み込まれた油圧湿式多板型の前進側及び後進側各クラッチがそれぞれ取り付けられ、主機クランク軸からたわみ継手を介して入力軸が駆動され、出力軸が中間軸を介してプロペラ軸に連結されていた。
 減速機の潤滑油系統は、クラッチ軸船尾側軸端に取り付けられた直結の潤滑油ポンプによってケーシング底部の油だめから吸引及び加圧された潤滑油が、作動油圧力調整弁で13キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)ないし15キロの範囲に調圧され、前後進切換弁を経て前進または後進側各クラッチの作動油として供給されるとともに、同調整弁の逃し孔を経由した潤滑油が潤滑油こし器を経て潤滑油冷却器で冷却されたのち、各軸受、各歯車及びクラッチ内部の摩擦板などの潤滑を行うようになっていた。
 ところで、減速機の潤滑油量は、ケーシング底部の船尾側に取り付けられた検油管に長さ535ミリメートル(以下「ミリ」という。)の検油棒を差し込んで計測できるようになっており、同棒の下端から30ミリの位置に同油量の下限を示す刻印が、また、その上方50ミリの位置にその上限を示す刻印がそれぞれ印されており、トリム0のときのそれぞれの容量が、前者が74.3リットル、後者が95.0リットルに相当し、運転中、この範囲に同油量を維持するよう減速機取扱説明書に記載されていた。そして、主機を停止すると、配管等を循環していた潤滑油が油だめに戻ってくることから、油面が運転時に比べて50ミリないし100ミリ上昇するので、同油量を点検するに当たり、運転時の油面位置を基準にして同油量を適正に保つ必要があった。
 一方、前示検油棒の下限を示す刻印の位置から潤滑油ポンプの吸入口までの高さが128ミリで、潤滑油面がこれ以下に低下するようであれば、同ポンプが空気を吸引するようになり、潤滑油圧力が低下して潤滑が阻害されるおそれがあった。
 長宝丸は、静岡県内浦漁港を基地として僚船5隻とともに船団を構成し、専ら駿河湾を漁場とし、午後に出航して翌日の午前中に水揚げを行った後に基地に戻る航海を周年繰り返し、操業中、主機は連続運転され、主機の1箇月の運転時間が約320時間であった。
 A受審人は、船主が長宝丸を購入して以来、機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たっていたが、以前、別の機種の減速機を取り扱い、検油棒で潤滑油量を計測したときに、停止時における油面位置が同棒の上限及び下限各位置の間になるように管理していたことから、本船でも同様に取り扱い、主機始動前に減速機の潤滑油量を確認するようにしていたところ、いつも検油棒の上限位置を超えていたことから、補油や更油を行っていなかった。
 長宝丸は、平成13年1月減速機作動油系統の配管に亀裂が生じ、潤滑油が漏洩したことから、A受審人が、整備業者に修理を依頼し、このときの潤滑油の漏洩(ろうえい)で、油だめの潤滑油面が、主機停止時において、検油棒の上限と下限の範囲になるまでに低下し、運転時には、同油面が同棒の下限位置を超えて低下するようになった。
 ところが、A受審人は、減速機の潤滑油量は、ほとんど減少することはないものと思い、運転中の減速機油だめの同油量を検油棒で測深して確認するなど、同油量の点検を十分に行うことなく、主機の運転に支障が生じたことがなかったことから、そのうち、主機始動前に行っていた同油量の確認もほとんど行わなくなり、運転中、同油だめの潤滑油面が検油棒の下限位置を超えて低下し、同油量が著しく減少していたことに気付かず、同油の補給を行わないまま主機の運転を続けていた。
 長宝丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、操業に備えて砕氷を積み込む目的で、空倉のまま、平成13年6月10日08時00分静岡県内浦漁港の係留地を発し、伊豆内浦港小海1号防波堤灯台の南西方約150メートルの地点で、クラッチを中立として主機を回転数毎分400の停止回転数にかけて漂泊し、全員で砕氷を積み込むための準備作業を行っていたところ、潤滑油温度が十分に上昇していなかったことから、後進側クラッチが中立位置にあったにもかかわらず、同クラッチが摩擦板及びスチールプレート面の潤滑油の粘性により連れ回り、プロペラがゆっくり後進側に回転し始めた。しかし、依然として減速機の潤滑油量が点検されず、同油量が著しく減少したまま、主機の運転が続けられるうち、船体の動揺によって潤滑油面が変動し、潤滑油ポンプが空気を吸引するようになり、潤滑油圧力が変動しながら徐々に低下し始めた。
 こうして、長宝丸は、後進側クラッチが連れ回るうち、減速機潤滑油圧力が著しく低下し、同油圧力低下警報が操舵室で発せられるとともに、減速機の潤滑が阻害され、09時15分伊豆内浦港小海1号防波堤灯台から真方位213度140メートルの地点において、後進側クラッチの摩擦板とスチールプレートとが焼き付き、減速機が異音を発するとともに同クラッチの連れ回りが著しくなり、後進側に進行し始めた。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、甲板上で、船体が後方の養殖筏(いかだ)に向かって進行していたことに気付き、機関室に急行して直ちに主機を停止した。
 損傷の結果、長宝丸は、僚船に曳航(えいこう)され、内浦漁港に引き付けられたのち、減速機を精査し、入力、出力及びクラッチ各軸、1段前進及び1段後進各歯車、2段前進及び2段後進各小歯車並びに大歯車などに損傷がそれぞれ生じていることが判明し、減速機一式が中古品に取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、機関の運転管理に当たる際、減速機の潤滑油量の点検が不十分で、同油量が著しく減少したまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転管理に当たる場合、減速機の潤滑油量が減少すると、潤滑油ポンプが空気を吸引して潤滑が阻害されるおそれがあるから、主機を運転中、潤滑油量が適正な範囲にあることが分かるよう、同油量を検油棒で測深して確認するなど、同油量の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、減速機の潤滑油量は、ほとんど減少することはないものと思い、同油量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同油量が著しく減少していることに気付かず、潤滑油ポンプが空気を吸引したまま主機の運転を続け、減速機の潤滑が阻害される事態を招き、入力、出力及びクラッチ各軸並びに後進側クラッチなどを損傷させるに至った。





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