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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第119号
件名

漁船再来丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、上野延之、橋本 學)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:再来丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
3番及び8番ピストンなどが焼き付、のち廃船

原因
主機冷却清水漏洩箇所の調査不十分

主文

 本件機関損傷は、主機冷却清水漏洩箇所の調査が不十分であったことにより発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月7日11時00分
 長崎県対馬東岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船再来丸
総トン数 14.62トン
登録長 14.98メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 349キロワット(定格出力)
回転数 毎分2,100

3 事実の経過
 再来丸は、昭和55年5月に進水した、いか1本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、アメリカ合衆国のキャタピラー社が製造した3408NA-S型ディーゼル機関を装備し、各シリンダには右舷列船首側から1、3、5、7番、左舷列船首側から2、4、6、8番と番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室底部に入れられた約50リットルの潤滑油が直結駆動の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油主管で約4キログラム毎平方センチメートル(以下、「キロ」という。)に調整されて主軸受、クランク軸受、カム軸受などを潤滑するとともにピストンを冷却し、クランク室底部に戻って循環するようになっており、また、冷却清水系統は、容量約48リットルの冷却清水タンクが開封圧約0.5キロの逃がし弁付きのキャップで密封された密閉回路となっていて、同タンクから直結駆動の冷却清水ポンプに吸引・加圧された冷却清水が潤滑油冷却器、シリンダブロック、シリンダヘッド、排気マニホールドなどを循環し、逃がし弁に取り付けられたオーバーフロー管からオーバーフローした冷却清水は直接ビルジに落ちるようになっていた。
 A受審人は、平成11年9月再来丸を購入後単独で乗り組み、年間を通じて対馬周辺において、天候が良いときはほぼ毎日16時ごろ出港して翌日05時ごろ帰港しており、航海中は、主機を回転数毎分約1,500(以下、回転数は毎分のものとする。)、集魚灯点灯中は回転数約1,800で運転し、潤滑油管理については、2箇月ごとに新替えするほか出港前に油量を点検して1箇月当り約20リットルを補給し、冷却清水管理については、防錆剤を約25パーセントの濃度とし、冷却清水タンクを満杯状態として出港前にキャップを外して冷却清水タンクの水位を確認していた。
 主機は、同12年6月末ごろ潤滑油冷却器の1本の冷却管に破口が生じ、潤滑油と冷却清水の圧力差によって運転中は潤滑油が冷却清水に混入し、混入した潤滑油と同量の冷却清水がタンクからオーバーフローし、停止中は冷却清水が潤滑油に混入して冷却清水タンクの水位が減少する状況となった。
 そのころA受審人は、主機潤滑油を新替えしたが、潤滑油の性状を点検しなかったので、冷却清水の混入に気付かず、その後、10日間で約3リットルの割合で冷却清水が異状に減少し始めたことに気付いたとき、直ちに鉄工所に依頼するなどして漏洩箇所を十分に調査することなく、操業を優先し、同12年8月28日出港前の点検において、4、5日前より約3リットル減少していて減少の割合が急増したことに気付いたものの、依然、漏洩箇所を確認せず、その都度冷却清水を補給しながらその後3日間操業し、翌9月7日に至ってようやく同漏洩修理のため鉄工所に回航することとした。
 こうして再来丸は、主機潤滑油に多量の冷却清水が混入した状態で、A受審人が単独で乗り組み、平成12年9月7日10時00分豊玉町位之端を発して長崎県厳原港の鉄工所に向け、主機回転数毎分約1,400として対馬東岸を航行中、3番及び4番クランクピン軸受、3番及び8番ピストンなどが焼き付き、同日11時00分大船越港沖防波堤東灯台から真方位179度1,000メートルの地点において、主機が自停した。
 当時、天候は晴で、風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 船首甲板で入港準備作業中のA受審人は、僚船に救助を求めて、再来丸は前示鉄工所に引き付けられたが、のち廃船処理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機冷却清水が異常に減少したのを認めた際、漏洩箇所の調査が不十分で、潤滑油に多量の冷却清水が混入したまま運転が続けられ、主機各部の潤滑が阻害されたことにより発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機冷却清水が異常に減少したのを認めた場合、直ちに漏洩箇所を十分に調査すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、操業を優先し、直ちに漏洩箇所を十分に調査しなかった職務上の過失により、潤滑油に多量の冷却清水が混入したまま運転を続け、クランク軸、クランクピン軸受、ピストンなどの損傷を招き、運航不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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