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平成14年広審第72号
件名

プレジャーボート大島丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年10月24日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、勝又三郎、西田克史)

理事官
吉川 進

受審人
A 職名:大島丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
インペラなどの損傷、海水が機関室に侵入、沈没

原因
主機冷却海水ポンプの整備及び冷却海水吐出状況の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機冷却海水ポンプの整備及び冷却海水吐出状況の点検がいずれも十分でなかったばかりか、航行中、冷却清水温度警報が作動して冷却海水が途絶していることを認めた際、運転を取り止めなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月4日12時00分
 香川県 高見島北端沖

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート大島丸
全長 7.88メートル
機関の種類 過給機付4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関
出力 58キロワット
回転数 毎分3,000

3 事実の経過
 大島丸は、平成9年6月に製造された、海水混合船尾排気方式の船内外機を装備する、幅2.07メートル深さ0.61メートルのFRP製プレジャーボートで、一層甲板の船体中央部にキャビンを配置し、甲板下には船首から順に、前部物入れ、活魚倉、キャビン、後部物入れ及び機関室が配置され、キャビン後部外壁右舷側に操縦スタンドが設けられていた。
 主機は、ヤンマー株式会社が製造した4LM-DTZ型ディーゼル機関で、同社製のSZ160型アウトドライブを連結しており、操縦スタンドに設けられた計器盤にキースイッチが備えられ、始動はセルモータで行われていた。
 主機の冷却は、直結の冷却清水ポンプによる間接冷却で密閉加圧循環するようになっており、清水温度が設定値以上に上昇すると計器盤に組み込まれた警報装置が作動し、警報音を発するとともに計器盤の警報ランプが点灯するようになっていた。一方、冷却海水系統は、左舷船底の海水吸入口から、海水吸入弁及びこし器を介して直結の冷却海水ポンプによって吸引された海水が、清水タンク兼冷却器及び潤滑油冷却器を冷却したのち、過給機排気出口に設けられたミキシングエルボで排気と混合され、排気管内を冷却して船外に排出されるようになっていた。
 ところで、冷却海水ポンプは、吐出容量が毎時5立方メートルのヤブスコポンプと称するゴム製インペラの回転式で、一体に成型された8枚羽根のインペラが海水とともに吸引した砂泥などの異物により先端の摩耗が急速に進行したり、ケーシング内で屈曲を繰り返しながら回転するうち、繰返し曲げ応力を受けて欠損するおそれがあることから、主機取扱説明書には、始動後は冷却海水の吐出状況に注意するとともに、半年又は1,000時間ごとに開放点検するよう、1年又は2,000時間ごとにインペラを取り替えるように記載していた。
 また、主機の排気管は、内側が耐熱性合成ゴム製の、外側が難燃性の高いクロロピレンゴム製の二重管で、合成繊維及びガラス繊維で補強された、長さ640ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径91ミリ肉厚6ミリのL字状をしたゴムホースで、通常使用温度が摂氏60度、最高温度が摂氏100度の仕様で製造されており、前端がミキシングエルボへ上向きに、後端が船尾外板の左舷寄りで水線上約30ミリの位置に設けられたプラスチック製の排出口にそれぞれ接続し、両端がクリップバンドで固定されていた。
 A受審人は、岡山県水島港玉島乙島西地区の小型船舶係留施設を定係地とし、日帰りの釣りなどに出かける目的で大島丸を使用していたもので、建造時にボート販売業者から機関の一般的な取扱いや点検箇所について説明を受け、冷却海水ポンプのインペラや排気管がゴム製であることを知っていた。
 ところで、A受審人は、前示係留場所が干出するところで海底から細かい砂泥を吸うことが多く、ときには砂浜に船首部分を乗り揚げて停留することもあったものの、主機の運転時間が年間180時間ばかりであったことから、同ポンプの開放、整備を行うことなく運転を続けた。そして、建造後4年を経過したころから、同ポンプのインペラ先端部が摩耗し、やがて羽根が欠損し始め、海水吐出量が減少していたが、運転時間が短いから冷却海水ポンプが異状を起こすことはあるまいと思い、平素から主機始動後に排出口からの海水吐出状況を十分に点検していなかったので、このことに気付かなかった。
 大島丸は、A受審人が1人で乗り組み、同乗者5人を乗せ、船首尾とも0.3メートルの喫水をもって、同13年8月4日08時00分水島港を発し、塩飽諸島周辺の3箇所で釣りのために漂泊している間も主機のアイドリング運転を続けていたところ、冷却海水量が著しく減少してきたが、同受審人が依然として海水吐出状況を確認せず、11時20分過ぎ主機を回転数毎分3,500近くまで上げ、香川県二面島沖から同県高見島の北側に向けて航行を開始したところ、冷却海水ポンプインペラの羽根がすべて欠損して海水の供給が途絶え、冷却不良を起こした主機が過熱するとともに排気管内面が焼損剥離し始め、同時30分ごろ冷却清水の温度上昇警報が吹鳴した。
 警報音を聞いたA受審人は、直ちに主機を停止して機関室上部のヒンジ式ハッチを開けて内部を見たものの、異常箇所が見つからないので再び主機を始動し、海水こし器のアクリル製外筒を見たところ海水が流れていないことを認め、主機を停止して海水吸入口を確認するため船底に潜った。ところが、海水吸入口は異物などで塞がれておらず、海水が供給されない理由が分からなかったものの、運転を取り止めることなく、点検のための時間経過で冷却清水温度が低下し警報ランプも消えたので、とりあえず近くの高見島まで走ることにして、11時50分ごろ改めて主機を始動した。
 こうして、大島丸は、主機を回転数毎分3,000まで増速して高見島の北端に向けて航行を再開したところ、海水の供給が途絶えたままの主機が更に過熱し、排気管のミキシングエルボ付近の曲がり部に亀裂を生じ、排出口が溶損、変形して排気管が外れ、12時00分板持鼻灯台から真方位021度320メートルの地点において、再び警報音を聞いたA受審人が操縦ハンドルを中立に戻したところで、主機が自停した。
 当時、天候は曇で風力2の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 大島丸は、A受審人が機関室上部ハッチを開けて排気管と排出口が焼損しているのを認めたものの、錨を入れて食事を摂りながらしばらく休むことにし同ハッチ付近に同乗者全員を集めたことから、排気管の外れた排出口が海面に没して海水が機関室に浸入し始め、13時05分浮力を喪失して沈没した。
 A受審人と同乗者は、付近で釣りをしていたプレジャーボートに救助された。一方、大島丸は、浮揚されたうえ定係地に引き付けられ、のち、過熱、濡損した主機が開放整備されてピストン及び冷却海水ポンプのインペラなどの損傷部品を新替えし、焼損した排気管及び排出口を取り替えたほか、濡損した電気機器などが修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機冷却海水ポンプの整備及び冷却海水の吐出状況の点検がいずれも不十分で、インペラの摩滅が進行して同水量が減少するまま運転が続けられたばかりか、香川県高見島付近を航行中、冷却清水温度警報が作動して冷却海水が途絶していることを認めた際、運転を取り止めず、再度増速された主機が過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、海水混合船尾排気方式の主機を始動した場合、冷却海水ポンプのゴム製インペラが急速に摩滅するおそれがあったから、冷却不良により主機が過熱することのないよう、排出口からの冷却海水吐出状況を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、運転時間が短いので冷却海水ポンプが異常を起こすことはあるまいと思い、排出口からの冷却海水吐出状況を十分に点検しなかった職務上の過失により、運転を続けるうち同ポンプインペラの羽根がすべて欠損し、冷却海水が途絶した主機を過熱させたばかりか、その後同水の途絶を認めたにもかかわらず運転を継続し、ゴムホース製排気管の破損及び排出口の溶損を招いたうえ、排出口から機関室に浸水して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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