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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 火災事件一覧 >  事件





平成14年仙審第42号
件名

漁船第二十八天祐丸火災事件(簡易)

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年12月10日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:第二十八天祐丸通信長 海技免状:二級海技士(通信)

損害
無線室内を全焼し、通信機器等を焼損

原因
コンセントの修理不十分

裁決主文

 本件火災は、コンセントの修理が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月31日09時00分(ペルー共和国標準時)
 ペルー共和国沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八天祐丸
総トン数 307トン
全長 67.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第二十八天祐丸(以下「天祐丸」という。)は、平成元年10月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、例年、ペルー共和国カリヤオ港を主たる基地として、同共和国沖合の漁場で操業に従事していた。
 天祐丸は、上甲板上の中央付近に居住区を有し、その居住区には、船体中心線上の通路を挟んで両舷に無線室、船員室、食堂等が配置されていた。
 無線室は、居住区の左舷船首部に位置し、同室内の機器等の配置状況は、前壁沿いに送受信機等の格納棚、その格納棚の手前に机、左舷側前部に無線方位測定機等の格納棚(以下「左舷側格納棚」という。)、左舷側後部に通信長の寝台をそれぞれ据え置き、右舷壁後部寄りに入口ドアが設けられており、床にはじゅうたんが敷かれていた。
 A受審人は、平成9年12月天祐丸に通信長として乗り組み、その際無線室に電気ポットを持ち込んだが、室内のコンセントが通信機器等に使用され、残っているコンセントが左舷側格納棚下部の腰板に設けられたもののみで、その位置が机との間にあってプラグの差し込みに不便であったことから、右舷壁中ほどの下部に備え付けてあるテーブルタップにプラグを差し込んで電気ポットを使用することとした。
 そこで、A受審人は、テーブルタップに接続されているビニール被覆の延長コードをじゅうたんの下の床に這わせ、同コード端のプラグをコンセントに差し込んだところ、プラグには異状なかったものの、コンセント内部の受刃が固着していたものか、プラグが十分に差し込まれず、3ミリばかり浮いた状態となったが、少しぐらい隙間があっても通電されているので大丈夫と思い、コンセントを新替えするなどの修理を行わなかった。
 その後、コンセントとプラグの隙間には、じゅうたんや寝具などから出たほこりが溜まり、次第に堆積して綿ぼこりとなり、これに湿気が付着するとプラグのブレード間が短絡するおそれがあった。
 こうして天祐丸は、A受審人ほか16人が乗り組み、操業の目的で、船首3.20メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成12年8月12日14時00分(ペルー共和国標準時、以下同じ。)カリヤオ港を発し、ペルー共和国沖合の漁場に至って操業を繰り返し、同月31日06時ごろ当日の操業を終えたのち、船首を南に向けて漂泊した。
 A受審人は、風呂に入るため08時30分ごろから無線室を無人としていたところ、ついにプラグのブレード間が短絡し、延長コードのビニール被覆が過熱発火して燃え上がり、じゅうたんや付近に置かれていた古新聞や雑誌に燃え移って周囲の机などに延焼し、風呂から帰って無線室のドアを開けたところ、09時00分南緯04度04分西経082度10分の地点において、室内が煙で充満し、火災となっているのを認めた。
 当時、天候は曇で風力4の南風が吹き、海上には白波が立っていた。
 A受審人は、煙のため室内に入れないので直ちにドアを閉めるとともに他の乗組員に火災を知らせ、駆けつけた乗組員とともに無線室の丸窓を打ち破り、同窓より持運び式消火器のホースを差し込んで消火に当たったところ、09時30分鎮火した。
 火災の結果、天祐丸は、無線室内を全焼し、通信機器等を焼損したが、操舵室の通信機器が使用可能であったことからそのまま操業を続け、翌9月19日漁獲物転載のためカリヤオ港に入港し、のち無線室の内張り、寝台、机、通信機器、電気配線等が新替えされた。

(原因)
 本件火災は、無線室内のコンセントとテーブルタップ間を延長コードで接続した際、コンセントの修理が不十分で、コンセントに浮いた状態で差し込まれた同コードのプラグにほこりが堆積し、プラグのブレード間が短絡して、同コード被覆が過熱発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、無線室内のコンセントとテーブルタップ間を延長コードで接続した際、同コードのプラグがコンセントに十分に差し込めず、浮いた状態となっているのを認めた場合、コンセント内の受刃が固着などしているおそれがあったから、コンセントを新替えするなどして修理すべき注意義務があった。ところが、同人は、コンセントとプラグの間に少しぐらい隙間があっても通電されているので大丈夫と思い、コンセントを新替えするなどの修理を行わなかった職務上の過失により、プラグにほこりが堆積してプラグのブレード間が短絡し、同コード被覆が過熱発火して火災を招き、無線室内を全焼し、通信機器等を焼損させるに至った。





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