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平成14年函審第28号
件名

漁船第二十六福吉丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年11月19日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、古川隆一)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第二十六福吉丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:第二十六福吉丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第二十六福吉丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
D 職名:第二十六福吉丸二等機関士 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
指定海難関係人
E 職名:第二十六福吉丸通信長
F 職名:第二十六福吉丸機関員

損害
2号補機の過給機、排気管、同管付近の照明器具、機器室及び賄室等の焼損等

原因
補機の燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手の点検不十分、停泊当直を適正に維持しなかったこと

主文

 本件火災は、発電機原動機の燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手の点検が不十分で、燃料噴射ポンプの噴射時期が過度に遅れ、燃焼不良になって燃料のガス化した未燃焼油が過給機の排気通路内部において着火したことと、発電機原動機の運転が異常になった際の措置が適切でなかったこととにより、過給機及び排気管が著しく過熱し、そのラギングが赤熱したことによって発生したものである。
 なお、火災が拡大したのは、港内の岸壁に停泊中、機関室の火災が発生した際の通報が適切でなかったことによるものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Dを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月13日22時05分
 北海道函館港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十六福吉丸
総トン数 349トン
全長 66.18メートル
10.60メートル
深さ 6.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
(1)第二十六福吉丸
 第二十六福吉丸(以下「福吉丸」という。)は、昭和62年8月に進水した二層甲板型鋼製漁船で、北海道函館港を基地として水産庁との用船契約による遠洋まぐろ漁船に対する漁業取締りなどの業務に従事し、A、B、C及びD各受審人、E及びF両指定海難関係人ほか9人が乗り組み、漁業監督官1人を乗せて北大西洋海域における業務を終え、帰航の途に就いてパナマ運河を通航し、平成14年2月24日アメリカ合衆国オアフ島ホノルル港に寄せ、船首2.7メートル船尾5.3メートルの喫水をもって、翌3月12日07時35分函館港に入港し、函館港北防波堤灯台から真方位116度2,500メートルの万代ふ頭北側岸壁に船首を東方に向けて右舷付けで係留され、越えて5月上旬まで停泊することになった。
 福吉丸は、中央部から船尾方に船楼が設けられていて、船楼甲板に操舵室、船長室、航海士室、無線室、空気調和装置室等が、船楼の上甲板に船員居住区がそれぞれ配置され、上甲板下が前方から順に作業所、凍結室、機関室、糧食庫等に、作業所及び凍結室下方が魚倉に区画されていた。
(2)船員居住区
 船員居住区は、長さ27.3メートル幅5.8メートル高さ2.1メートルで、上甲板の船縦方向中央に通路が、前方から順に、右舷側に機関長室、機関士室、操舵室に至る階段室、船員室、洗面所、監督官室、空気調和装置室、洗濯室、機関室に至る階段室等が、左舷側に船員室、食堂、賄室、分電盤を格納する機器室、浴室、機関室に至る階段室等がそれぞれ配置され、機器室後壁及び賄室右舷壁に隣接する区画が機関室開口部になっていて、同開口部には発電機原動機(以下「補機」という。)及び主機の排気管等が敷設されていた。
(3)機関室
 機関室は、長さ11.6メートル幅10.6メートル高さ6.0メートルで、上段に監視室が設けられ、同室内に主機監視盤や配電盤等があり、下段中央部に遠隔操縦装置を有するディーゼル機関の主機が、主機の左右両側に電圧225ボルト容量450キロボルトアンペアの船内電源用三相交流発電機、定格出力397キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダディーゼル機関の補機が据え付けられており、右側及び左側の補機が1号補機及び2号補機と呼称されていた。また、機関室の通風機は、電動式の4台が船楼甲板後部に装備されていた。
(4)補 機
 補機は、株式会社新潟鉄工所が製造した6NSBC-G型で、燃料をA重油とし、多筒形ボッシュ式の燃料噴射ポンプが装備され、調時歯車装置の歯車軸の回転が燃料噴射ポンプ駆動軸に伝えられていて、燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手に連結されている中継手部と歯車軸軸継手部たわみ板とがねじの呼び径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)の六角ボルト(以下「取付けボルト」という。)各2個により接合され、燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手部には鋼製カバーが装着され、保守点検の標準として、500時間の運転の経過ごと定期的に燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手を点検することが取扱説明書に記載されていた。
 また、1号補機及び2号補機は、いずれも呼び径200ミリの鋼管の排気管が架構後部の過給機から機関室上段床を経たのち上方の機関室開口部壁沿いに配管され、排気が煙突を経て船外に導かれており、各排気管にはアスベストでラギングのうえ外周にステンレス鋼製薄板が施されていたものの、ラギングが長期間使用され、その防熱機能が低下していた。そして、2号補機の排気管は、機器室後壁裏面及び賄室右舷壁裏面の機関室開口部壁沿い箇所にごく近接して立ち上がっていた。
(5)火災警報装置及び消防設備
 火災警報装置は、位置識別機能付火災探知装置の表示盤が操舵室に設置され、火災発生の際には、船楼甲板や船員居住区のほか機関室上段、監視室及び機関室下段等に取り付けられている熱探知器が作動し、火災警報ベルが鳴るものであったが、平成13年10月中間検査の受検の際に作動の確認がなされた後、経年劣化により同ベルが鳴らない状態になっていた。 
 消防設備は、消火装置として、消火ポンプ兼雑用ポンプが機関室下段にあり、所定数の消火栓及び消火ホース等が船楼甲板、上甲板や機関室下段に配置されていたほか、持運び式の泡消火器及び粉末消火器が船楼甲板、船員居住区や機関室等に置かれ、防火扉が船楼甲板及び船員居住区の通路等に設置され、また、燃料タンク非常遮断弁の遠隔操作装置が船員居住区右舷側の機関室に至る階段室付近に、空気調和装置室及び機関室の通風機の各遠隔停止装置が操舵室にそれぞれ装備されていた。
(6)A受審人
 A受審人は、平成11年12月福吉丸の船長として乗り組み、3ないし4箇月にわたる各航海の業務を終えて函館港に帰港する都度、それまでの停泊当直体制を踏襲のうえ1ないし2箇月間の停泊を利用して乗組員に休暇を付与し、船内に携帯電話を備えて近郊に在住する多数の乗組員の連絡体制を整え、甲板部及び機関部の停泊当直者として、海技免状の受有者だけではなく、原則的に2日交代で各部の1人を入直させ、同当直者には陸上の契約食堂で食事をとらせていた。
 ところで、A受審人は、同14年3月12日函館港内の岸壁に係留して停泊する際、停泊中には在船者数が限られるものの、異常の際に連絡を受けるから支障ないだろうと思い、消火作業指揮者に対し、停泊中における火災の対処についての教育に関する指示を徹底しなかった。
(7)B受審人
 B受審人は、平成11年1月福吉丸の二等航海士として乗り組み、翌12年4月一等航海士に昇進して安全担当者の職務を兼任し、同年10月消火作業指揮者に選任されてその業務に当たり、火災警報装置の保守を担当していたものの、同装置の作動の確認を定期的に行っていなかった。
 B受審人は、同14年3月12日函館港に帰港することになり、同港内の岸壁の停泊中における甲板部停泊当直日程表を作成して停泊当直者を指名する際、これまで火災を経験しなかったことから、まさか火災はあるまいと思い、E指定海難関係人に対し、火災状況を確認のうえ消防署に直ちに通報するなど、停泊中における火災の対処手順を指導しないまま、同人を甲板部の停泊当直に入直させることとした。
(8)E指定海難関係人
 E指定海難関係人は、昭和62年10月福吉丸の通信長として乗り組み、通信業務のほか出入港関係書類の作成や食料積込みの手配等を行い、また、補機の停止操作や燃料タンク非常遮断弁の遠隔操作装置等の装備箇所を知らないまま、以前から甲板部の停泊当直に就いており、函館港の停泊中、平成14年3月12日から同当直に入直することになった。
(9)C受審人
 C受審人は、昭和62年10月福吉丸の一等機関士として乗り組み、平成5年2月機関長に昇進して機関士及び機関部員の監督にあたり、航海中の機関当直をD受審人、一等機関士O及び自らと機関部員の6人による4時間交代の3直制とし、毎08時から12時及び20時から24時までの時間帯をF指定海難関係人とともに入直していた。そして、C受審人は、1号補機あるいは2号補機を常時運転し、停泊当直者に対して2時間ごと機関室を見回りのうえ4時間ごと機関日誌に記入することや食事等による外出の際には甲板部の停泊当直者に帰船時刻を連絡することを指示しており、同14年3月12日函館港に帰港することになり、同港内の岸壁の停泊中における機関部停泊当直日程表を作成して停泊当直者を指名する際、F指定海難関係人に対し、まさか長時間外出することはあるまいと思い、機関部の停泊当直の適正な維持に関して指導しないまま、停泊当初から同人を同当直に入直させることとした。
(10)F指定海難関係人
 F指定海難関係人は、平成13年9月福吉丸の機関員として乗り組み、翌10月函館港において機関部の停泊当直を経験し、補機の停止や燃料タンク非常遮断弁の遠隔操作の要領を心得ており、同港の停泊中、遠隔地に帰省する都合により翌14年3月12日から8日間の同当直に入直することになった。
(11)D受審人
 D受審人は、平成12年4月福吉丸の二等機関士として乗り組み、1号補機及び2号補機の保守点検を担当して約1,300時間の運転を経過するごと交互に切り替えて1台を予備機とし、潤滑油こし器や燃料油こし器の掃除等を行っていた。
 ところで、2号補機は、同13年10月中間検査を受検した際に燃料噴射ポンプ周りが整備され、その後、運転が続けられているうち燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手に連結されている歯車軸軸継手部たわみ板の取付けボルト2個が振動の影響等により徐々に緩む状況になっていた。
 しかし、D受審人は、翌14年2月中旬航海中に2号補機を切り替えて予備機とした際、同機の燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手部のカバーを容易に取り外すことができたが、運転には異状がないから大丈夫と思い、燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手を点検しなかったので、前示取付けボルトの緩む状況に気付かなかった。
(12)火災発生に至る経緯
 福吉丸は、平成14年3月12日08時30分以降、函館港内の岸壁で停泊当直体制をとり、E及びF両指定海難関係人が甲板部及び機関部の停泊当直に就き、2号補機が負荷電力20ないし25キロワットの状態の発電機を駆動し、また、空気調和装置室の電動式の通風機が送風で、機関室の通風機のうち2台が送風、1台が吸込みでそれぞれ運転されていた。
 翌13日福吉丸は、昼間、乗組員が主機の燃料噴射弁等を整備し、17時10分ごろE指定海難関係人が食事と理髪に行くことをF指定海難関係人に告げないまま、その伝言を他の乗組員に依頼して外出した。
 一方、F指定海難関係人は、19時00分機関室を見回り、特に異状を認めないまま、機関日誌の20時欄に2号補機各部の圧力や温度等を記入し、E指定海難関係人が外出していることを知っていたものの、同時15分契約食堂ではないところに外出した。
 19時40分E指定海難関係人は、外出先から無人状態の福吉丸に戻り、自室を兼ねる無線室で書類整理等を行ったのち就寝することとし、22時00分ごろ寝台に入った。
 そのころ2号補機は、運転中に燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手に連結されている歯車軸軸継手部たわみ板の取付けボルト1個が緩みで脱落し、燃料噴射ポンプの噴射時期が過度に遅れ、燃焼不良になって排気温度が急激に上昇し、回転が徐々に低下することに伴って調速機が作動し、燃料の噴射量が増加したことから、ガス化した未燃焼油が過給機の排気通路内部で高温の排気に触れて着火し、不安定な回転になる異常をきたして運転音が変化したが、機関部の停泊当直が適正に維持されていなかったので、非常停止などの適切な措置がとられなかった。
 こうして、福吉丸は、22時05分前示係留地点において、2号補機の運転の異常により船内が停電し、過給機及び排気管が著しく過熱し、そのラギングが赤熱して火花と煙を生じ、消火器による初期消火の措置がとられないまま、機関室の2号補機に火災が発生した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、港内は穏やかであった。
(13)火災発生後の状況
 E指定海難関係人は、22時05分機関室の運転音が変化し、寝台灯が消えると同時に操舵室の警報ブザー音を聞き、主機遠隔操縦装置の無電圧警報であることが分からないままに警報ブザー停止スイッチを操作して止めた後、煙突から多量の煙が噴出していることに気付いて異常を察知し、非常灯の照明のもと機関室上段に赴いたところ、同時14分ごろ2号補機付近の火花と煙の火災状況を認めたが、消防署に直ちに通報しないまま、同機を停止しようと監視室の配電盤のノーヒューズブレーカーを手当りしだいオフに操作しているうち危険を感じ、食堂に上がって携帯電話でA受審人、O一等機関士やC受審人等と連絡をとり、同時31分火災を消防署及び海上保安部に通報し、岸壁に移って消防車の到着を待った。
 福吉丸は、空気調和装置室及び機関室の通風機が停電により停止したものの、2号補機の排気管内で燃料のガス化した未燃焼油が燃え続け、排気管の著しい過熱箇所が上方に移って前示機関室開口部壁沿い箇所に達したことから、機器室後壁及び賄室右舷壁等に張られている木製合板が燃え上がり、火災が拡大する状況下、火災警報装置は作動しなかった。
 A受審人は、福吉丸に駆け付けて船員居住区に入ろうとし、機器室の炎を見て船外に退いた。
 22時42分ごろ福吉丸は、出動した最初の消防車が到着し、O一等機関士が火災の連絡を受けて駆け付けた後、消防員装具を着装のうえ消防士とともに船員居住区に入り、機関室上段に立ち上がっている排気管の赤熱状態を認め、燃料タンク非常遮断弁の遠隔操作を行ったものの、同弁から燃料噴射ポンプに至る配管の燃料油を消費するまでの間、依然2号補機が回転し続けた。
 福吉丸は、22時44分ごろ消防車の放水による消火活動が開始され、O一等機関士が消防士とともに機関室に入って2号補機を停止し、翌14日01時05分鎮火した。
(14)火災の結果
 福吉丸は、2号補機の過給機、排気管、同管付近の照明器具、機器室、賄室等の焼損及び放水による機関室の電気機器等の濡損が生じたほか、無線室の無線機器、操舵室の主機遠隔操縦装置、レーダー、GPS及び魚群探知器等が煙害により使用不能になったが、修理された。
 また、F指定海難関係人は、その後、機関部の停泊当直の実務全般に関する指導を受けた。

(原因)
 本件火災は、補機の燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手の点検が不十分で、同軸継手に連結されている歯車軸軸継手部たわみ板の取付けボルトが緩んだまま運転が続けられ、燃料噴射ポンプの噴射時期が過度に遅れ、燃焼不良になって燃料のガス化した未燃焼油が過給機の排気通路内部において着火したことと、補機の運転が異常になった際の措置が適切でなかったこととにより、過給機及び排気管が著しく過熱し、そのラギングが赤熱したことによって発生したものである。
 なお、火災が拡大したのは、港内の岸壁に停泊中、機関室の火災が発生した際の通報が適切でなかったことによるものである。
 補機の運転が異常になった際の措置が適切でなかったのは、機関長が機関部の停泊当直者に対し、停泊当直の適正な維持に関して指導しなかったことと、同当直者が停泊当直を適正に維持しなかったこととによるものである。また、機関室の火災が発生した際の通報が適切でなかったのは、港内の岸壁に停泊するにあたり、船長が消火作業指揮者に対し、停泊中における火災の対処についての教育に関する指示を徹底しなかったこと、同指揮者が甲板部の停泊当直者に対し、火災の対処手順を指導しなかったこと及び同当直者が火災を消防署に直ちに通報しなかったことによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、港内の岸壁に係留して停泊する場合、停泊中には乗組員に休暇を付与して在船者数が限られるから、火災の際に消火活動が行われるよう、消火作業指揮者に対し、停泊中における火災の対処についての教育に関する指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、異常の際に連絡を受けるから支障ないだろうと思い、消火作業指揮者に対し、停泊中における火災の対処についての教育に関する指示を徹底しなかった職務上の過失により、火災の対処手順が甲板部の停泊当直者に指導されず、機関室の火災が消防署に直ちに通報されないまま拡大する事態を招き、補機の過給機、排気管、同管付近の照明器具、機器室及び賄室等の焼損のほか、機関室の電気機器等の濡損が生じ、煙害により無線室及び操舵室の各機器等が使用不能になるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、消火作業指揮者の業務に当たり、港内の岸壁の停泊中における甲板部停泊当直日程表を作成し、E指定海難関係人を停泊当直者として指名する場合、火災の際に消火活動が行われるよう、同指定海難関係人に対し、火災状況を確認のうえ消防署に直ちに通報するなど、停泊中における火災の対処手順を指導すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、これまで火災を経験しなかったことから、まさか火災はあるまいと思い、同指定海難関係人に対し、停泊中における火災の対処手順を指導しなかった職務上の過失により、機関室の火災が消防署に直ちに通報されないまま拡大する事態を招き、前示焼損等が生じるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、港内の岸壁の停泊中における機関部停泊当直日程表を作成し、F指定海難関係人を停泊当直者として指名する場合、停泊中に補機を運転するから、同機が異常になったまま運転されないよう、同指定海難関係人に対し、機関部の停泊当直の適正な維持に関して指導すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか長時間外出することはあるまいと思い、同指定海難関係人に対し、機関部の停泊当直の適正な維持に関して指導しなかった職務上の過失により、同当直が適正に維持されず、補機の運転中に燃料のガス化した未燃焼油が過給機の排気通路内部において着火し、補機の運転が異常になった後、過給機及び排気管が著しく過熱してそのラギングが赤熱する事態を招き、機関室の火災が発生して前示焼損等が生じるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、補機の保守点検を担当して航海中に運転機を切り替えて予備機とした場合、燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手部のカバーを容易に取り外すことができたから、取付けボルトの緩みを見落とさないよう、燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手を点検すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、運転には異状がないから大丈夫と思い、燃料噴射ポンプ駆動軸軸継手を点検しなかった職務上の過失により、燃料噴射ポンプ駆動軸に連結されている歯車軸軸継手部たわみ板の取付けボルトの緩む状況に気付かず、運転が続けられているうち燃料噴射ポンプの噴射時期が過度に遅れ、燃焼不良になって燃料のガス化した未燃焼油が過給機の排気通路内部において着火し、同機及び排気管が著しく過熱する事態を招き、そのラギングが赤熱して機関室の火災が発生し、前示焼損等が生じるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 E指定海難関係人が、港内の岸壁に停泊中、甲板部の停泊当直に入直して機関室の補機付近の火災状況を認めた際、消防署に直ちに通報しなかったことは、火災拡大の原因となる。
 E指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
 F指定海難関係人が、港内の岸壁に停泊中、機関部の停泊当直者に指名された際、停泊当直を適正に維持しなかったことは、本件発生の原因となる。
 F指定海難関係人に対しては、本件について反省し、機関部の停泊当直の実務全般に関する指導を受け、同当直の適正な維持に努めている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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