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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年長審第39号
件名

引船第六十三明神丸被引作業船たいよう三十六号転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年10月10日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、半間俊士、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第六十三明神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:被引船団責任者

損害
沈没

原因
荒天時における船団曳航の安全措置不十分

主文

 本件転覆は、荒天時における船団曳航の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月7日17時15分
 野母埼南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 引船第六十三明神丸  
総トン数 198.99トン  
全長 29.60メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  
船種船名 作業船たいよう三十六号 起重機船第八たいかい
総トン数 19トン  
登録長 11.96メートル  
全長 65メートル  
25メートル  
深さ 5メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

3 事実の経過
 第六十三明神丸(以下「明神丸」という。)は、鋼製引船で、A受審人ほか2人が乗り組み、1.8メートルの等喫水の起重機船第八たいかいとその付属作業船で船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水のたいよう三十六号(以下「たいよう」という。)ほか1隻を曳航し、船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年1月7日08時00分長崎県生月港を発し、同県脇岬港に向かった。
 ところで、起重機船は、消波堤築造工事を行うため、作業区域移動時の曳航、アンカーの投揚錨作業、作業員の輸送などに従事するたいようほか1隻の作業船と船団(以下「起重機船団」という。)を編成して脇岬港へ回航するもので、B指定海難関係人は、この起重機船団の責任者として、作業全般の指揮をとるとともに船団の曳航索のとり方などの指示も行っており、2隻の作業船が接触しないように起重機船の船尾中央に50センチメートルほど離してたいよう、右舷側に30メートルばかり離して他の作業船の曳索をとり、起重機船に自らのほか各作業船の船長、クレーン士など6人が乗船していた。
 B指定海難関係人は、起重機船とたいようの連結について、いつものように直径80ミリメートルの化繊製の曳索を船首索として起重機船の船尾中央のビットにとり、船尾の振れ止めとして両舷船尾から起重機船の右舷側及び左舷側のビットに同じ太さの索をとり、これらはいずれもたいようから出して各ビットに2回回したのち索端を取り込んで二巻とし、また、右舷側の作業船についても、同様の化繊索を使用し、船首部から曳索を二巻にしてとっていた。
 A受審人は、明神丸から起重機船に直径90ミリメートルの化繊索200メートルと34ミリメートルのワイヤー10メートルを連結した曳索をとって出航し、生月瀬戸を通過後、機関を曳航時の全速力前進に掛け、6.5ノットの対地速力で南下した。
 A受審人は、起重機船団を曳航するときには、これまでB指定海難関係人と航海全般について相談をしながら決めており、朝、テレビの天気予報を見たとき、長崎県下には強風と波浪の注意報が発表されていて、当日午後からは季節風が強まる予報であったことから、同人と相談し、途中、荒天模様になるようであれば避難することとしていたところ、比較的平穏な状況のうちに航海を続け、15時過ぎ伊王島西方5海里ばかりに至ったころ、南西の風が北西に変わって強まり、2メートルばかりであった波高がその後4メートルばかりになったことから、B指定海難関係人に連絡をとって航海の継続について相談した。
 B指定海難関係人は、たいようの船首は起重機船の船尾より1メートルばかり低く、段差があり、今後天候が悪化して波高が高くなり、波長が長くなると両船の動揺周期が異なるので、曳索に予想を越える大きな張力がかかるおそれがあったから、予備索を使用して右舷側の作業船と同様な曳索のとり方なり、たいようを自力航行させるなど安全な措置を講ずるべき状況にあった。ところが、航海中、自ら巡回して海上模様や被曳航状況を点検し、各作業船の船長も自船の被曳航状況などを30分ないし1時間ごとに確認していたところ、作業船や曳索に特に異状はなく、太い曳索をとっており、2時間ばかりで目的港に至ることから大丈夫と思い、野母埼沖では波浪が更に高起することに思いが至らず、この旨をA受審人に連絡し、予定どおり曳航を続けることとしたが、同人から進言がなかったこともあって、何らの安全措置もとらなかった。
 こうして、明神丸は、16時20分野母埼灯台から270度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点において、針路を111度に転じ、波高が5ないし6メートルとなった潮波を右舷後方から受け、対地速力が4.8ノットとなって続航中、17時ころB指定海難関係人は、曳航索の発するピシッ、ピシッという音を聞き、後部に駆けつけたところ、船首部の曳索が2メートルばかりに伸び、たいようが上下左右に大きく振れ回っているのを認め、A受審人にこの旨を連絡して速力を減じさせたが、危険すぎて何らの措置を講ずることができないでいるうち、船首部、右舷後部の曳索が切断し、左舷後部の曳索に横引きされる状態となり、たいようは、17時15分樺島灯台から180度1,120メートルの地点において左舷側に転覆した。
 当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近の波高は6メートルであった。
 A受審人は、左舷後部の曳索も切断したたいようを残し、起重機船と他の作業船を脇岬港に曳航したのち現場に戻ったとき、たいようは、すでに沈没していた。

(原因)
 本件転覆は、荒天下、潮波が高起する野母埼沖合を起重機船と作業船とで編成した船団を曳航中、作業船に対する安全措置が不十分で、機重機船からとったたいようの船首索及び右舷索が切断し、同船が左舷索に横引きされたことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは、B指定海難関係人が船団曳航について曳索を伸ばすなどの安全措置をとらなかったことと、A受審人が船団曳航の安全措置について進言をしなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、起重機船と作業船とで編成された船団を曳航中、波浪が大きくなって船団の責任者と相談して航海の継続を決めた場合、潮波が高起する野母埼沖合を航行するのであるから、作業船の曳索を伸ばすなど安全措置をとるように進言すべき注意義務があった。しかるに、同人は、安全措置を進言しなかった職務上の過失により、B指定海難関係人の過失と相まって安全措置がとられないまま曳航中、曳索の一部が切断し、作業船が横引きされて転覆するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、起重機船団の責任者として、荒天下、潮波が高起する中、引船の船長から相談を受け、航海の継続を決めた場合、作業船の曳索を伸ばすなど安全措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、事故後、安全運航を確保するために設置した対策委員会に会社役員とともに委員として参加し、運航中止基準などの安全対策を講じたことに徴し、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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