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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年門審第79号
件名

漁船第二吉勝丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年12月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(島 友二郎、長浜義昭、河本和夫)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第二吉勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船底外板に大破口、浸水し、のち全損

原因
水路調査不十分

主文

 本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月30日08時40分
 山口県特牛港港口付近

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二吉勝丸
総トン数 19トン
全長 26.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット

3 事実の経過
 第二吉勝丸(以下、吉勝丸という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、平成13年6月28日23時30分兵庫県浜坂港を出港し、翌29日17時00分山口県見島西北西沖合30海里ばかりの漁場に至って操業を行い、いか約100キログラムを漁獲し、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、翌々30日04時30分北緯34度59分東経130度40分の地点を発して、同県特牛港(こっといこう)でのいかの浜値が高かったことから、水揚げの目的で同港に向かった。
 ところで、特牛港は、その港口付近に水上岩や暗礁などの諸険礁が散在し、このため特牛灯台は、安全な水路の範囲(095度〜104度、真方位、以下同じ)を示す白色光及びそれを挟んで危険な険礁の範囲(035度〜095度及び104度〜170度)を示す南北2つの赤色分弧とに区別した灯光を照射しており、その灯質及び明弧の範囲は海図及び灯台表に記載されていた。また、同灯台の西方沖合約1,100メートルには左舷標識の要岩灯浮標が設置され、同港に入港する船舶は、同灯台及び同灯浮標を主要な目標として利用し、海図上に記載された安全な水路を示す白色光の範囲内を航行して、同港の防波堤入口に向かう進路をとっていた。
 A受審人は、兵庫県浜坂町漁業協同組合に属し、同県沖合から長崎県五島列島沖合を漁場として操業し、沿岸各県の発給する小型いかつり漁業許可証に記載された港で水揚げを行っていたところ、平成13年に初めて山口県の同許可証を得たことから、これまで特牛港への入港経験が無く、同港への安全な入港進路や港口付近にある平瀬の南東方約100メートルに暗礁が存在することを知らなかったが、携帯電話で僚船に同港への進入方法を聞けば入港できるものと思い、あらかじめ同港付近の海図等を備えるとともに、同海図等にあたるなどして水路調査を十分に行うことなく、発航したものであった。
 08時11分A受審人は、特牛灯台から274.5度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点で、針路を特牛港に向く096度に定め、機関を全速力前進に掛け、11.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 08時23分A受審人は、特牛灯台から272度1.6海里の地点に達し、速力を半速力前進の6.5ノットに減じ、携帯電話を使用して先に特牛港に入港していた僚船に同港への進入方法や針路目標などを聞いたものの十分に理解できなかったが、水上岩などがあれば目視して避けながら航行することにより、安全に入港できるものと判断して、同じ針路のまま続航した。
 こうして、A受審人は、特牛港港口付近にある平瀬の南東方約100メートルに存在する暗礁に向首する状況となったが、水路調査が不十分で、同暗礁の存在を知らなかったことから、このことに気付かず、08時32分半少し過ぎ特牛灯台から266度0.6海里の地点に至り、船首に見張りの甲板員を配し、速力を微速力前進の4.0ノットに減じて、針路を096度のまま進行した。
 08時40分少し前A受審人は、船首両舷前方にそれぞれ水上岩を認め、その間を続航中、08時40分特牛灯台から237度290メートルの地点において、吉勝丸は、平瀬の南東方約100メートルに存在する暗礁に、原針路、4.0ノットの速力で乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力6の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、船底外板に大破口を生じて浸水し、後日サルベージにより離礁したが、のち全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、港口付近に多数の険礁などが存在する山口県特牛港に入港する際、水路調査が不十分で、同港港口付近にある平瀬の南東方に存在する暗礁に、向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、港口付近に多数の険礁などが存在する特牛港に入港する場合、これらの険礁などに向首進行することのないように、あらかじめ同港付近の海図等を備えるとともに、同海図等にあたって険礁の存在や進入方法などについての水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、入港前に携帯電話で僚船から進入方法を聞けば安全に入港できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同港港口付近にある平瀬の南東方に存在する暗礁に向首進行してこれに乗り揚げ、船底外板に大破口を生じさせて浸水を招き、船体を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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