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平成14年広審第93号
件名

貨物船第十八妙見丸漁船海運丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年12月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、佐野映一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第十八妙見丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:海運丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
妙見丸・・・船首部に擦過傷
海運丸・・・船体中央部が前後に両断、廃船
船長の妻が右橈・尺骨骨折及び顔面打撲多発挫創

原因
海運丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
妙見丸・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、海運丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第十八妙見丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十八妙見丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月14日14時10分
 安芸灘北東部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八妙見丸 漁船海運丸
総トン数 199トン 4.2トン
全長 58.3メートル  
登録長   10.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第十八妙見丸(以下「妙見丸」という。)は、専ら瀬戸内海を航行する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉で、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成13年11月14日05時50分岡山県片上港を発し、広島県呉港に向かった。
 妙見丸は、A受審人の父親である甲板員が、出航操船に引き続き航海当直にあたり、小瀬居島北方で備讃瀬戸東航路に入り、その後、備讃瀬戸北航路を通航して備後灘に至った。
 11時30分A受審人は、六島南西方沖合で昇橋して船橋当直を引き継ぎ、宮ノ窪瀬戸を経て、広島県大崎下島南端の沖合にさしかかったところ、右舷船首方に反航船と漁船を認めたので、いつもより南方に進んでこれらを右舷側に替わすこととし、13時54分少し過ぎ鴨瀬灯台から104度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点に達したとき、針路を尾久比島南端の1.0海里沖合に向く270度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 A受審人は、舵輪後方に椅子を置いて腰掛け、右舷船首方の反航船や漁船の動静を監視しながら続航し、14時08分鴨瀬灯台から137度1.1海里の地点に達したとき、左舷船首33度980メートルに、前路を右方に横切る態勢で北上する海運丸を初認してその動静を監視し、その後、同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることを知り、針路及び速力を保持して進行した。
 14時09分A受審人は、海運丸との距離が490メートルになったとき、同船に避航を促すつもりで汽笛により長音1回を吹鳴して、引き続き同船を監視し、同船に避航動作をとる様子が認められなかったが、これまで小型漁船は間近に接近してから避航することがあったので、そのうちに同船が自船の進路を避けるものと思い、速やかに機関を使って行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し、同時10分少し前衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて右舵一杯をとり、機関を中立として、汽笛を連続吹鳴したが及ばず、14時10分妙見丸は、鴨瀬灯台から157度1,600メートルの地点において、315度に向首した船首が、ほぼ原速力で、海運丸の右舷中央部に、後方から61度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北北東風が吹き、視界は良好で、付近海域には微弱な西流があった。
 また、海運丸は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人とその妻が乗り組み、たちうお漁の目的で、平成13年11月14日03時50分広島県豊島漁港を発し、05時30分愛媛県野忽那島東方沖合の漁場に至り、操業を始めた。
 B受審人は、たちうお7箱を得たところで操業を終え、13時00分少し過ぎ漁場を発進して帰航の途につき、途中、小安居島東方で仲買船に漁獲物を渡し、再び北上を続けた。
 13時55分少し過ぎB受審人は、鴨瀬灯台から185度2.9海里の地点に達し、白石の西方沖合100メートルの地点を通過したとき、針路を尾久比島東部の山頂に向首する016度に定め、機関を回転数毎分1,500の半速力前進にかけ、9.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 その後、B受審人は、操舵室の舵輪後方に設けた両舷に渡した板に座って操舵にあたっていたところ、13時58分半鴨瀬灯台から183度2.4海里の地点に達したとき、右舷船首41度3.1海里に斎島(いつきしま)の島陰から現れた妙見丸を視認することができたが、右舷方をいちべつし、帆を揚げた釣り船を認めたものの、操舵室右舷前方角にある幅約10センチメートルの窓枠に重なった妙見丸に気付かないまま続航した。
 B受審人は、立ち上がって天井の開口部から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行うことなく、同じ位置に座ったまま首だけを振って操舵と見張りにあたり、14時08分鴨瀬灯台から166度1.1海里の地点に達したとき、右舷船首41度980メートルに妙見丸を認め得るようになり、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、帆を揚げた釣り船のほかに他船はいないものと思い、依然として立ち上がって天井の開口部から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行した。
 14時09分B受審人は、耳が少し遠かったことと機関音で、右舷船首41度490メートルに接近した妙見丸が発した汽笛に気付かないまま続航し、14時10分わずか前至近に迫った妙見丸が発した汽笛を聞いて同船に気付いたもののどうすることもできず、海運丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、妙見丸は船首部に擦過傷を生じただけであったが、海運丸は船体中央部が前後に両断されて廃船となり、B受審人の妻が右橈・尺骨骨折及び顔面打撲多発挫創を負った。

(原因)
 本件衝突は、安芸灘北東部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、海運丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る妙見丸の進路を避けなかったことによって発生したが、妙見丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、安芸灘北東部を豊島に帰航するため北上する際、操舵室の両舷に渡した板に座って見張りをしながら操舵にあたる場合、操舵室の窓枠に重なって接近する妙見丸を見落とすことのないよう、ときどき立ち上がって天井の開口部から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方をいちべつしただけで他船はいないものと思い、立ち上がって天井の開口部から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する妙見丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、妙見丸の船首部に擦過傷を生じさせ、海運丸の船体中央部を両断して廃船に至らせ、また、B受審人の妻に右橈・尺骨骨折及び顔面打撲多発挫創を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、安芸灘北東部を西行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢の海運丸が避航動作をとらないまま接近した場合、速やかに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型漁船は間近に接近してから避航することがあったので、そのうちに同船が自船の進路を避けるものと思い、速やかに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、また、海運丸乗組員を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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