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平成14年長審第13号
件名

貨物船第五松寿丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成14年9月10日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(半間俊士、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第五松寿丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B 職名:Sドック協業組合業務部造機検査係長
C 職名:元Sドック協業組合業務部鉄工1班工員

損害
ポンプケーシング割損し、海水が機関室に噴出、主機がぬれ損、航行不能

原因
海水ポンプ吸入管の製作及び取付け不適切

主文

 本件浸水は、海水ポンプ吸入管の製作及び取付けが不適切で、ポンプのケーシングが割損して大量の海水が機関室に噴出したことによって発生したものである。
 造船所の担当技師が、作業員に対し、吸入管の製作及び取付けを適切に行うよう十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 造船所の作業員が、吸入管の製作及び取付けを適切に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月18日17時30分
 大王埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五松寿丸
総トン数 199トン
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第五松寿丸(以下「松寿丸」という。)は、平成6年2月に進水し、国内の鉄鋼会社に長期用船され、鋼材などの鉄鋼製品輸送に従事する鋼製貨物船で、一航海を5日間程度とし、茨城県鹿島港での積荷を中心に日本の太平洋側沿海を航行していた。
 主機の冷却海水系統は、電動機駆動の冷却海水ポンプ(以下「ポンプ」という。)によって吸引加圧された海水が、潤滑油、空気及び清水の各冷却器を経て船外に排出されるもので、他に船尾管軸シール、軸発電機及び主機逆転機クラッチの両潤滑油冷却器にも供給されていた。
 ポンプは、株式会社浪速ポンプ製作所製のCRD−100型と称する容量1時間あたり55立方メートル揚程20メートルの片吸込単段ボリュート式渦巻ポンプで、ポンプの吸入管は、呼び径100Aの配管用炭素鋼鋼管を用いて製作された長さ1.5メートルのS字形曲管で、ねじの呼びM16のボルト・ナット8本でポンプケーシングカバーに接続されており、他端がポンプの下方に設けられた海水こし器の出口フランジに接続されていた。
 A受審人は、松寿丸が平成13年7月第一種中間検査工事で長崎県のSドック協業組合(以下「ドック」という。)に入渠したとき、入渠直前から腐食破孔によって赤錆が浮き出ていたポンプ吸入管の新替えをドックに発注したが、工事の方法などについてはドック側に任せていた。
 前示検査工事の機関部担当技師であったB指定海難関係人は、受注したポンプ吸入管の新替え工事をC指定海難関係人に担当させたが、同人に対して、新しい吸入管のS字管と両端フランジを現場合わせして仮付けしたのちに工場内で本付け溶接し、また復旧にあたっては無理な力を加えずに取り付けるなど、同管の製作及び取付けを適切に行うよう十分に指示しなかった。
 C指定海難関係人は、同月19日機関室でポンプの吸入管を取り外し、その後旧管を見本にしてドック内の工場で吸入管の製作に取りかかったが、S字管及び両端フランジを現場で仮付けする作業を省略したまま工場内で最終的な本付け溶接までを行ったところ、管の寸法に最大16ミリメートル(以下「ミリ」という。)の誤差を生じることとなった。
 同月23日C指定海難関係人は、製作した吸入管を現場に持ち運んで取付作業を開始したが、寸法誤差のためにポンプケーシングカバーとの接合が容易に果たせず、スパイキを利用するなどして同管を無理に取り付け、ポンプケーシングが海水入口側の軸方向に過大な引張り応力を受ける状態で復旧した。
 こうして松寿丸は、翌24日ポンプの試運転及び船体も含めた所要の各検査を終えたのち出渠して通常の運航に復帰し、同年9月17日18時00分A受審人ほか2人が乗り組み、H型鋼563トンを満載して船首2.7メートル船尾3.3メートルの喫水をもって鹿島港を発し、香川県多度津港に向けて航行中、出渠以来吸入管側への過大な引張り応力を受け続けていたポンプケーシングが、円周方向に全周の4分の3に相当する58センチメートル(以下「センチ」という。)にわたって割損し、破口から大量の海水が機関室に噴出したことから、翌18日17時30分大王埼灯台から真方位099度10.6海里の地点において、同室が浸水してビルジの高位警報が作動した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 居室で休息していたA受審人は、操舵室の警報に気付き機関室に赴いて同室の浸水を認め、フライホィールが海水を巻き上げていた主機を停止し、海水系統の弁閉鎖及び救助依頼などの対応にあたった。
 機関室浸水の結果、松寿丸は、主機がぬれ損して航行不能となり、最寄りの造船所に引き付けられ、同造船所でポンプケーシングの新替え及び吸入管寸法手直しなどの修理を行った。

(原因)
 本件浸水は、主機冷却海水ポンプ吸入管の新替え工事において、吸入管の製作及び同管の取付けが不適切で、同管が寸法に誤差のあるまま無理に取り付けられてポンプケーシングに過大な引張り応力が作用し、航行中、同ケーシングが割損して大量の海水が機関室に噴出したことによって発生したものである。
 造船所の機関部担当技師が、主機冷却海水ポンプ吸入管の新替え工事において、吸入管を現場合わせで仮付けしたのちに本付け溶接し、また無理な力を加えずに取り付けるなど、同管の製作及び取付けを適切に行うよう作業員に対して十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 造船所の作業員が、主機冷却海水ポンプ吸入管の新替え工事において、吸入管を現場合わせで仮付けしないまま本付け溶接し、また無理な力を加えて取り付けるなど、同管の製作及び取付けを適切に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 B指定海難関係人が、主機冷却海水ポンプ吸入管の新替え工事において、吸入管はS字形曲管でポンプケーシングカバーに直接取り付けるものであり、寸法に誤差を生じた同管を無理に取り付けるとポンプケーシングに過大な応力が作用するから、作業員に対して、同管を現場合わせで仮付けしたのちに本付け溶接を行い、また無理な力を加えずに取り付けるなど、同管の製作及び取付けを適切に行うよう十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、同指定海難関係人に対しては、部下に平素から配管工事についての一般的な注意を伝えており、本件後も始業前の打ち合わせなどで一層の注意喚起を促していることに徴し、勧告するまでもない。
 C指定海難関係人が、主機冷却海水ポンプ吸入管の新替え工事において、吸入管を現場合わせで仮付けしないまま本付け溶接を行い、そのうえ無理な力を加えて取り付けるなど、同管の製作及び取付けを適切に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、同指定海難関係人に対しては、既に退職して今後配管工事などの作業に従事しないことに徴し、勧告するまでもない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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