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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 浸水事件一覧 >  事件





平成14年函審第32号
件名

漁船第二十三日章丸浸水事件(簡易)

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成14年9月26日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第二十三日章丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
直流発電機、交流発電機及び変圧器の焼損等

原因
漏水箇所の調査及び機関室の見回り不十分

裁決主文

 本件浸水は、機関室のビルジが排出後に引続き滞留する状況下の漏水箇所の調査及び主機駆動発電機等を運転する際の機関室の見回りがいずれも不十分で、主機の冷却海水系統管の折損によりビルジ量が増加したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月10日12時30分
 北海道知円別漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十三日章丸
総トン数 19トン
全長 21.98メートル
4.50メートル
深さ 1.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,400

3 事実の経過
 第二十三日章丸(以下「日章丸」という。)は、平成元年9月に進水した、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、船体中央部に操舵室、上甲板下に前方から順に魚倉、長さ4.89メートルの機関室、船員室が配置されており、操舵室から主機の遠隔操縦ができるようになっていた。機関室には、間接冷却方式の主機、逆転減速機、主機の動力取出軸により駆動される容量3キロワットの直流発電機、容量100キロボルトアンペア及び容量45キロボルトアンペアの交流発電機のほか、変圧器、電動式の雑用ポンプ、ビルジポンプや燃料油移送ポンプ等がそれぞれ設置されていた。
 主機の冷却海水系統は、機関室船底の海水吸入弁から直結式冷却海水ポンプに吸引された海水が、架構右舷側に装備されている空気冷却器、清水冷却器を順次通過して熱交換した後、舷側の海面上に位置する排水口から船外に排出されていた。また、空気冷却器の冷却海水管には、水抜き管として、長さ100ミリメートル外径17.3ミリメートルの銅管の一端がねじ込まれて他端下部にコックが取り付けられ、コックに接続されている管が機関室船底上方に導かれていた。
 A受審人は、日章丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか機関の運転保守にあたり、北海道知円別漁港を根拠地とし、例年7月1日から12月末、翌年1月上旬から3月末までの漁期に日帰りの操業を繰り返し、4月から6月にかけ休漁していた。
 ところで、主機の冷却海水系統の水抜き管は、就航後長期間経過して銅管部で硬化したうえ振動の影響を受けたことから、コックの取付け部付近に微小な亀裂が生じて進行し、運転中に冷却海水が少しずつ漏洩していた。
 しかし、A受審人は、平成13年7月4日出港前に主機の始動準備のため、機関室に赴いた際、それまでほとんどなかったビルジの滞留を認めてビルジポンプにより排出した後、ビルジが引続き滞留する状況になったが、ビルジ量が少ないから大丈夫と思い、速やかに漏水箇所を調査しなかったので、主機の冷却海水系統の水抜き管に生じた亀裂が進行していることに気付かず、操業を繰り返した。
 日章丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、同月10日01時00分知円別漁港を発し、北海道知床岬北東方沖合の漁場に至って操業し、すけとうだら及びほっけ約3.3トンを獲たのち同漁港に帰港し、船首0.9メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、08時00分知円別港東防波堤灯台から真方位356度370メートルの岸壁に右舷付けで係留後、主機を停止回転数毎分650にかけクラッチを中立とし、発電機等を運転中、主機の冷却海水系統の水抜き管が亀裂箇所で折損したことにより機関室のビルジ量が増加し始めた。
 ところが、A受審人は、同日出港前の主機の始動準備以降、機関室に入室しないまま、知円別漁港岸壁に係留後、発電機等を運転する際、同室の見回りを適宜に行わなかったので、前示水抜き管の折損によりビルジ量が増加する状況に気付かず、上甲板で水揚げ作業等にあたった。
 こうして、日章丸は、機関室のビルジ量が次第に増加し、各発電機及び変圧器等が冠水して焼損し、船内電源が供給されなくなり、上甲板を洗浄するため、雑用ポンプの始動スイッチが操作されたものの、海水が出ず、12時30分前示係留地点において、A受審人が同室の浸水を発見した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、港内は穏やかであった。
 A受審人は、冷却海水系統の水抜き管の折損を認めて主機を停止した後、機関室の排水措置をとった。
 浸水の結果、日章丸は、直流発電機、交流発電機及び変圧器の焼損のほか、主機、逆転減速機、雑用ポンプ、ビルジポンプ及び燃料油移送ポンプ等が濡損したが、のち修理された。

(原因)
 本件浸水は、機関室のビルジが排出後に引続き滞留する状況下の漏水箇所の調査が不十分で、主機の冷却海水系統の水抜き管に生じた亀裂が進行したこと及び主機駆動発電機等を運転する際の機関室の見回りが不十分で、同管の折損によりビルジ量が増加したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転保守にあたり、機関室のビルジが排出後に引続き滞留する状況となった場合、それまでほとんどビルジの滞留がなかったから、主機の冷却海水の漏洩などを見落とさないよう、速やかに漏水箇所を調査すべき注意義務があった。しかるに、同人は、ビルジ量が少ないから大丈夫と思い、速やかに漏水箇所を調査しなかった職務上の過失により、主機の冷却海水系統の水抜き管に生じた亀裂が進行していることに気付かず、知円別漁港岸壁に係留したのち主機駆動発電機等を運転中、同管の亀裂箇所の折損により機関室のビルジ量が増加して浸水を招き、直流発電機、交流発電機及び変圧器の焼損のほか、主機、逆転減速機、雑用ポンプ、ビルジポンプ及び燃料油移送ポンプ等を濡損させるに至った。





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