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平成13年函審第60号
件名

漁船大栄丸浸水事件

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成14年7月10日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、古川隆一)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:大栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
指定海難関係人
北海道Y株式会社函館支店舶用販売部販売グループ 業種名:機関販売業

損害
岩礁に乗り揚げ、のち転覆、廃船

原因
主機の点検措置及び出航前における機関室のビルジ量の点検不十分

主文

 本件浸水は、出漁準備における主機の点検措置及び出港前における機関室のビルジ量の点検がいずれも不十分で、冷却海水管系統の管継手の亀裂が進行し、ビルジ量が増加するまま操業が行われたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月13日00時20分
 北海道松前港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船大栄丸
総トン数 4.9トン
全長 14.25メートル
3.06メートル
深さ 1.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 180キロワット
回転数 毎分2,500

3 事実の経過
 大栄丸は、平成2年6月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板のほぼ中央に操舵室、上甲板下部の船首方から順に漁具庫、氷庫、活魚倉、機関室及び操舵機室を配置し、上甲板の左右両舷側にいか釣り機、上方に集魚灯を装備していた。機関室は、操舵室下方に位置し、長さ3.1メートル幅2.8メートル高さ1.5メートルで、同室後部床に出入口があり、中央部に同元年7月ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6CH−ST型と呼称する減速逆転機付主機、左舷側に主機ベルト駆動の集魚灯用交流発電機、操舵機用油圧ポンプ、右舷側に船内電源用交流発電機や充電用直流発電機等をそれぞれ備え、船尾に直流電動式ビルジポンプを装備していた。
 主機は、同11年5月換装されて中古機関を据え付けたものであり、また、間接冷却方式で、機関室船底の船体付弁から直結回転式冷却海水ポンプに吸引された冷却海水が、清水冷却器、空気冷却器、潤滑油冷却器、減速逆転機用潤滑油冷却器を順次通過して熱交換した後、左舷側の排出口から船外に至るようになっていた。冷却海水管系統は、各冷却器入口管及び出口管にいずれも合成ゴム製管継手(以下「ゴム管継手」という。)を装着し、機関室後部の減速逆転機用潤滑油冷却器入口管には、2箇所に90度の曲がりがある長さ270ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径50ミリ厚さ5ミリのゴム管継手がステンレス鋼製ホースバンドで取り付けてあった。
 A受審人は、大栄丸に就航以来船長として乗り組み、操船や主機の運転保守等にあたり、毎年6月初めから12月末にかけ、いか漁の漁期に北海道函館漁港を根拠地として操業を行っているうち、船速を上げるため、主機をそれまでのものより高出力の中古機関と換装することとし、同11年5月指定海難関係人北海道Y株式会社函館支店舶用販売部販売グループ(以下「北海道Y函館支店販売グループ」という。)に同機関の据付け工事を注文した。
 北海道Y函館支店販売グループは、ヤンマーディーゼル株式会社製造の舶用機関等を販売し、その整備や据付工事等の業務を行っており、販売グループ課長中村一男が責任者として前示注文を担当し、同月中旬下請業者による当該機関の開放点検、全シリンダのピストン、シリンダライナや冷却海水ポンプインペラ等を新替えする整備及び据付工事等を終え、試運転を行って異状がないことを確認した。
 主機の換装後、A受審人は、翌6月以降漁期中に年間ごと2,000時間を順調に運転して操業を繰り返し、休漁期には根拠地に大栄丸を係船しており、専門業者による定期的な点検措置をとらないまま、自ら冷却海水管系統の防食亜鉛、潤滑油や同油こし器エレメント等を適宜に交換していた。
 ところで、主機は、冷却海水管系統のゴム管継手の耐用年数が5年程度とされており、換装時の開放点検及び試運転の際に外観や漏水等の異状がなかったことから各ゴム管継手が交換されないまま、減速逆転機用潤滑油冷却器入口管のゴム管継手が長期間使用されているうちホースバンド付近表面に経年劣化による亀裂を生じ、これが次第に進行していた。
 しかし、A受審人は、同13年5月上旬例年どおり出漁準備を行った際、これまで順調に運転しているから大丈夫と思い、専門業者に依頼するなどして主機の点検措置をとらなかったので、減速逆転機用潤滑油冷却器入口管のゴム管継手表面に生じた亀裂に気付かず、翌6月初め操業を開始した。その後、大栄丸は、主機を運転中、同亀裂が貫通して冷却海水が漏洩したことにより、機関室のビルジ量が増加し始めた。
 ところが、A受審人は、同月初め以降連日、北海道松前郡松前町字小島周辺の漁場で操業を繰り返していたものの、出港前にはその都度、機関室のビルジ量の点検を行わないまま、同ビルジ量が増加する状況に気付かなかった。
 こうして、大栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月12日11時30分函館漁港を発し、同漁場に至って操業を行い、活魚倉に海水を入れて漁獲物を満載し、翌13日00時10分小島北西方沖合漁場から帰港の途に就き、主機を回転数毎分2,000にかけ航行中、減速逆転機用潤滑油冷却器入口管のゴム管継手の亀裂が拡大して冷却海水が噴出し、00時20分松前小島灯台から真方位306度2海里の地点において、機関室が浸水して船内電源用交流発電機駆動ベルトの回転により水しぶきが飛び散る事態となった。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、上甲板で活魚倉に収まらない漁獲物を箱に詰めていたところ、運転音の変化に気付いて機関室出入口上方に急行し、水しぶきと浸水を認め、ビルジポンプが小型のもので排水が間に合わないことから沈没のおそれを感じて帰港を断念し、針路を小島に向け主機を回転数毎分2,400に増速して全速力で進行した。
 浸水の結果、大栄丸は、小島西側海岸の岩礁に乗り揚げ、のち転覆して船体等が損傷し、廃船処分された。また、A受審人は、同海岸に避難した後、携帯電話で海上保安部に救助を求め、出動したヘリコプターに救出された。

(原因)
 本件浸水は、出漁準備における主機の点検措置が不十分で、冷却海水管系統のゴム管継手の経年劣化による亀裂が進行したまま運転が続けられたこと及び出港前における機関室のビルジ量の点検が不十分で、冷却海水の漏洩によりビルジ量が増加する状況のまま操業が行われたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、漁期前に出漁準備を行った場合、長期間運転を続けるうち経年劣化等により異状を生じる部品があるから、異状を見落とさないよう、専門業者に依頼するなどして主機の点検措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、これまで順調に運転しているから大丈夫と思い、主機の点検措置をとらなかった職務上の過失により、冷却海水管系統の減速逆転機用潤滑油冷却器入口管のゴム管継手に生じた亀裂に気付かず、運転中に同亀裂が進行して冷却海水が漏洩したことにより、機関室のビルジ量が増加する状況のまま操業を行って機関室の浸水を招き、排水が間に合わないことから小島西側海岸の岩礁に乗り揚げ、のち転覆して船体等が損傷し、廃船処分に至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 北海道Y函館支店販売グループの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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