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平成13年那審第56号
件名

プレジャーボートサンダーバード2号運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成14年8月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、坂爪 靖)

理事官
濱本 宏、平良玄栄

受審人
A 職名:サンダーバード2号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機の運転音が低減、自停し、航行不能

原因
主機の整備・点検・取扱不良

主文

 本件運航阻害は、船外機の気化器の開放整備が十分でなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月13日14時30分
 鹿児島県奄美大島曽津高埼北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートサンダーバード2号
登録長 5.01メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 73キロワット

3 事実の経過
 サンダーバード2号(以下「サンダーバード」という。)は、昭和62年にアメリカ合衆国で製造されたFRP製プレジャーボートで、主機として同国アウトボード・マリーン・コーポレーション社が製造したE100WTLETD型と称する船外機を備え、燃料油としてガソリンと潤滑油とを25対1の割合で混合した混合油を使用していた。
 主機の燃料油系統は、燃料油タンクから燃料油こし器を経て気化器に至り、同器で燃料油が霧化されて空気との混合気となって燃焼室に至るようになっており、同こし器は透明で外部から汚損状況が容易に確認できるようになっていた。
 燃料油タンクは、A受審人が平成13年8月中古船として約6箇月間陸上で保管されていたサンダーバードを購入した際、錆びていた鉄製の燃料油タンクを新品のFRP製のタンクに取り替えたもので、燃料油取出管がタンク底から3センチメートル離れた位置に取り付けられていた。
 ところで、気化器は、燃料油を霧化するためのオリフィスとして内径約0.7ミリメートル(以下「ミリ」という。)の中間燃料オリフィス、内径約1ミリの停止回転オリフィス、内径約1.5ミリの高速オリフィスなど、負荷に応じて機能する複数のオリフィスが備えられ、同器内部に燃料油を残したまま長期間使用しない場合、燃料油中のガソリンが蒸発してできる不揮発性残留物及び潤滑油が酸化物と重合してできる重合物などで黒褐色のアスファルト状で軟質粒状の異物が生じ、主機を再使用したときに気化器のオリフィスが同異物で閉塞するおそれがあることから、主機を長期間使用しないときには燃料油弁を閉弁して主機を始動し、同器内部の燃料油を排除する対策が必要であった。また、サンダーバード購入時同器の整備来歴は不明であった。
 A受審人は、機関の運転及び保守管理にあたり、8月8日第1回目の定期検査を受検し、購入時から同検査時までに約4時間行った船外機の試運転が良好で異状を認めなかったことから大丈夫と思い、気化器の開放整備を十分に行わないまま、サンダーバードを運航することとした。
 こうして、サンダーバードは、A受審人が単独で乗り組み、燃料油量の確認、同油こし器の目視点検などを行ったのち、同月13日13時30分鹿児島県秋名漁港嘉渡地区を発し、回航の目的で同県大島郡瀬戸内町与路港に向った。
 サンダーバードは、主機を回転数毎分4,500にかけ、20.0ノットの対地速力で航行中、気化器の不調を示す予兆がないまま、購入後約10時間の運転時間で同器のオリフィスが前示軟質粒状の異物で閉塞し、14時30分曽津高埼灯台から真方位051度5.6海里の地点において、主機の運転音が低減するとともに自停し、航行不能となった。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、燃料油こし器、点火プラグの点検などを行ったものの異状が認められず、再始動を4回試みるも約10秒間で自停することから、再始動を断念し、サンダーバードを浅瀬まで泳いで押して行き、錨泊した。
 この結果、サンダーバードは、与路港への未着を不審に感じて捜索に赴いた友人の船に翌14日00時50分発見救助され、同県平田漁港に引き付けられ、のちA受審人が気化器の開放整備を行った。

(原因)
 本件運航阻害は、機関の運転及び保守管理にあたる際、中古船で購入した船外機の気化器の開放整備が不十分で、気化器のオリフィスが軟質粒状の異物で閉塞し、主機が始動不能になったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、機関の運転及び保守管理にあたる際、整備来歴が不明のまま中古船で購入した船外機の気化器の開放整備を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、以上のA受審人の所為は、購入時の船外機の試運転が良好で異状を認めず、気化器の不調を示す予兆がなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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