日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年函審第20号
件名

漁船第二十八大歓丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年9月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、古川隆一)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第二十八大歓丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給機のタービン入り口ケーシングの破孔、ピストン及びシリンダライナ等の損傷

原因
過給機内部の点検措置及び主機の運転再開時の始動準備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の排気が変色する状況下における過給機内部の点検措置及び航行中に主機の運転が再開される際の始動準備がいずれも不十分で、過給機の腐食による破孔から漏洩した冷却水が主機のピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月20日03時00分
 北海道釧路港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大歓丸
総トン数 194トン
全長 38.72メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
回転数 毎分325

3 事実の経過
 第二十八大歓丸(以下「大歓丸」という。)は、昭和54年7月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した6LUDA26G型と呼称するディーゼル機関を備え、主機の架構船尾側上部に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設し、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機は、船首側の左右方にそれぞれ直結ベルト駆動の冷却水ポンプを装備し、左方の冷却水ポンプが海水を専ら潤滑油冷却器に供給しており、右方の冷却水ポンプに機関室船底の海水吸入弁から吸引された海水が、空気冷却器、冷却水主管を経て各シリンダのシリンダジャケットやシリンダヘッド等を冷却したのち冷却水出口管で合流し、舷側の船外吐出弁から排出されていた。
 一方、過給機は、株式会社新潟鐵工所が製造したNHP180型で、軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸、タービン入口ケーシング、タービンケーシング及びブロワケーシング等から構成され、主機の1、2及び3番シリンダの排気が排気マニホルドを介しタービン入口ケーシングの上部排気入口に、4、5及び6番シリンダの排気が同様に下部排気入口に導かれてノズルリングに至り、ロータ軸を回転させた後、タービンケーシングを経て煙突から排出される構造になっていた。
 ところで、過給機の排気通路は、タービン入口ケーシング及びタービンケーシングに水ジャケットが設けられて主機の冷却水主管から分流した海水で冷却されており、また、タービン入口ケーシングが長期間使用され、同ケーシングの水ジャケット壁面に腐食が進行していた。
 A受審人は、長年にわたる漁船の機関長の経験があり、平成13年5月11日大歓丸の機関長として乗り組み、単独で主機の運転保守にあたり、過給機の整備来歴が分からないまま、海水で冷却されている排気通路が腐食しやすく破孔を生じることを懸念し、冷却水が漏洩して排気に触れ加熱される状況になると排気が白く変色することから、異常を早期に発見するため、排気の変色の有無に注意して煙突からの排出状態を観察したうえ平素、主機を1昼夜以上停止後に始動する際には、始動準備としてインジケータ弁を開いてターニングとエアランニングを行っていた。
 大歓丸は、同月11日北海道函館港を発し、青森県八戸港に寄せて同港東方沖合の漁場に至り、操業して漁獲物の水揚げを行い、主機の運転を続けているうち、過給機のタービン入口ケーシングが前示腐食の進行により微小な破孔を生じ、冷却水が排気通路に少しずつ漏洩し始めた。
 しかし、A受審人は、主機の低速運転中に排気が徐々に白さを増して変色する状況となり、10月10日操業の合間に排気の変色を認めたが、主機を全速力にかけて変色がなくなることから大丈夫と思い、入港時に整備業者を手配することを船長に申し入れるなど、過給機内部の点検措置をとらず、同月15日函館港に水揚げのために入港した後、主機を停止して海水吸入弁及び船外吐出弁を閉じ、越えて18日出港前に主機の始動準備をいつものとおり行ったものの、過給機のタービン入口ケーシングの破孔に気付かなかった。
 大歓丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、同月18日21時00分函館港を発し、北海道根室半島東方沖合の漁場に向け、主機を全速力にかけて航行中、翌々20日02時00分浮流物が船底に当たり衝撃音が発生したことから、同受審人が点検のために機関室に赴き、同時05分主機を停止したところ、過給機のタービン入口ケーシングの破孔が拡大していて、漏洩した冷却水が主機の排気マニホルドを伝わり排気弁の開いていた5番シリンダの燃焼室に浸入してピストン上に滞留した。
 A受審人は、機関室に浸水等の異状を認めないまま、主機の運転を再開する際、ターニングなどの始動準備を十分に行わず、いきなり始動操作をしたので、03時00分北緯42度30分東経145度00分の地点において、5番シリンダの燃焼室に浸入した冷却水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されて大音を発し、始動ができなくなった。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、海上はうねりがあった。
 A受審人は、主機のクランク室を点検したところ、5番シリンダの連接棒が曲損しシリンダライナに接触している状態を認め、運転を断念してその旨を船長に報告した。
 大歓丸は、付近を航行中の僚船により北海道釧路港に曳航された後、主機が精査された結果、過給機のタービン入口ケーシングの破孔や5番シリンダの連接棒のほか、ピストン及びシリンダライナ等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の排気が変色する状況下における過給機内部の点検措置が不十分で、排気通路に腐食による破孔が生じたままに運転が続けられたこと及び航行中に主機の運転が再開される際の始動準備が不十分で、破孔から漏洩して燃焼室に浸入した冷却水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の低速運転中に排気が徐々に白さを増して変色する状況となった場合、海水で冷却されている過給機の排気通路のタービン入口ケーシングが腐食による破孔を生じて漏水が排気に触れ加熱されていたから、破孔を見落とさないよう、入港時に整備業者を手配することを船長に申し入れるなど、過給機内部の点検措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、主機を全速力にかけて排気の変色がなくなることから大丈夫と思い、過給機内部の点検措置をとらなかった職務上の過失により、排気通路のタービン入口ケーシングの破孔に気付かないままに運転を続け、破孔が拡大する事態を招き、航行中に主機の運転を再開する際、破孔から漏洩して燃焼室に浸入した冷却水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃され、連接棒、ピストン及びシリンダライナ等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION