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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第97号
件名

漁船第1多賀丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年8月7日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、千手末年、米原健一)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第1多賀丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機が運転不能、のち主機換装

原因
主機の冷却海水及び潤滑油各系統の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の冷却海水及び潤滑油各系統の整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月4日22時30分
 壱岐島北方

2 船舶の要目
船種船名 漁船第1多賀丸
総トン数 19トン
登録長 19.19メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダディーゼル機関
出力 481キロワット
回転数 毎分1,940

3 事実の経過
 第1多賀丸(以下「多賀丸」という。)は、昭和63年6月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、コマツディーゼル株式会社が製造したEM679A−A型機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置、警報装置、冷却清水温度計及び潤滑油圧力計を備えていた。
 主機は、清水2次冷却式で、密閉回路を循環する清水が主機本体及び潤滑油冷却器を冷却し、直結ゴムインペラ式の海水ポンプにより吸引・加圧された海水がアフタクーラー、減速機潤滑油冷却器及び清水冷却器を冷却したのち、右舷側水線上の吐出口から排出されるようになっており、清水温度は標準で82度(摂氏、以下同じ。)に、潤滑油温度は91度にそれぞれ温調弁で調整され、清水温度が101度に上昇したとき警報を発するようになっていた。
 ところで、主機は、潤滑油温度が上昇限度の120度以下であれば8時間以内の連続運転が可能であるとされ、主機冷却海水系統の閉塞や海水ポンプゴムインペラの欠損などで海水流量が極度に不足した場合、清水温度が上昇して警報を発した時点でも潤滑油温度は110度であり、損傷のおそれはないが、潤滑油系統の汚損が加わるときには、清水温度警報を発する前に潤滑油温度が上昇限度に達し、潤滑油の劣化・汚損が加速度的に進み、短時間で主機が損傷するおそれがあった。
 A受審人は、多賀丸新造時より船長として乗り組んで機関部の責任者も兼ね、主機を月間約300時間運転し、潤滑油の全量約120リットルを約1箇月ごとに新替えし、海水ポンプのゴムインペラを1年ごとに取り替えており、時折ゴムインペラが欠損していることがあって、同欠損片が冷却海水系統に留まることが予測できたが、冷却海水及び潤滑油各系統を整備することなく、2年ごとの検査でも主機は外観検査のみで開放整備しなかった。
 主機は、冷却海水系統においては、アフタクーラーにゴムインペラの破片など異物が詰まるとともに海洋生物の付着及び成長によって海水流量が次第に減少したが、清水冷却器の冷却能力の余裕範囲内であったので冷却清水の温度上昇はなく、一方、潤滑油系統においては、潤滑油管内の汚損が次第に進行し、潤滑油冷却器の冷却能力の余裕範囲を超えて潤滑油温度が上昇傾向となった。
 A受審人は、出港時、海水の排出を確認していたが、海水流量の減少傾向に気付かず、また、潤滑油温度計がなかったこともあって潤滑油温度の上昇傾向に気付かなかった。
 こうして、多賀丸は、A受審人が1人で乗り組み、平成13年5月4日16時00分長崎県勝本港を発し、壱岐島北方の漁場に至って操業中、清水温度上昇警報が発しないうちに潤滑油温度が上昇限度を超え、主軸受、クランクピン軸受、ピストンなどの潤滑が阻害され、22時30分若宮灯台から真方位005度8海里の地点において、主機が異音を発し、間もなく自停した。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、海上にはやや波があった。
 損傷の結果、多賀丸は、主機が運転不能となり、僚船に曳航されて勝本港に引き付けられ、主機が換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機冷却海水及び潤滑油各系統の整備が不十分で、アフタクーラーにゴムインペラの破片など異物が詰まるとともに、海洋生物の付着及び成長によって海水流量が極端に減少し、さらに、潤滑油冷却器の汚損が同時進行して潤滑油温度が著しく上昇し、主機の主軸受、ピストン、シリンダライナなどの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、主機の管理にあたる場合、冷却海水及び潤滑油各系統は長期間使用するうちに異物による閉塞や汚損が進行するから、定期的に整備すべき注意義務があった。しかるに同受審人は、冷却海水及び潤滑油各系統を長期間整備しなかった職務上の過失により、アフタクーラーの閉塞による海水流量の極端な減少及び潤滑油冷却器の汚損を招き、主機の主軸受、ピストン、シリンダライナ、過給機などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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