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平成14年広審第64号
件名

漁船第八浦郷丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年8月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞)

理事官
吉川 進

受審人
A 職名:第八浦郷丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
過給機の両軸受、回転部等の損傷

原因
主機過給機軸受室の潤滑油量と油漏れの有無との点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機過給機軸受室の潤滑油量と油漏れの有無との点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月8日06時00分
 島根県 島後水道

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八浦郷丸
総トン数 189トン
登録長 36.58メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分680

3 事実の経過
 第八浦郷丸(以下「浦郷丸」という。)は、昭和55年3月に進水した、大中型まき網船団に所属する鋼製運搬船で、島根県浦郷港を基地として通年にわたり隠岐諸島周辺での操業に従事しており、主機として、株式会社新潟鐵工所が同年に製造した6MG25BX型と称するディーゼル機関を装備し、主機架構の船尾側上部に同社製のNHP25AL形と称する排気ガスタービン過給機を付設していた。
 過給機は、排気入口囲、空気吸込囲、タービン車室及びブロワ車室などで構成され、軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸をタービン側軸受室の単列玉軸受と、ブロワ側軸受室の複列玉軸受によって支持する構造で、タービン側では、軸受室油だめに約0.4リットルの潤滑油が入れられ、ロータ軸端に取り付られた円板ポンプで同油をかき上げて軸受を潤滑する自己給油式となっており、潤滑油量を油面計で点検できるようになっていた。
 また、油面計は、各軸受室エンドカバーの中央やや下方に設けられた開口部に、ゴム製パッキン、ポリカーボネード製窓板、同パッキン及び当金を順次挿入し、外側からリングナットで締め付けて油密にする構造になっているもので、窓板には常用油面範囲を示す上限線と下限線とが刻印されていた。
 A受審人は、平成11年8月から機関長として浦郷丸に乗り組み、機関の運転と保守管理に当たり、過給機については約2箇月ごとに潤滑油を新替えするようにしていた。
 ところで、過給機は、浦郷丸が同13年7月28日から翌8月7日の間、第一種中間検査工事のために入渠した際、陸揚げのうえ開放整備が行われ、軸受などを取り替えるなどして主要部の検査を終え、潤滑油が新替えされたものの、油面計については、船側からの指示がなかったこともあって開放掃除が行われず、パッキンの硬化が進行した状態でリングナットの緩みの有無が確認された程度であった。
 出渠後、浦郷丸は、1週間ばかり休漁したのち操業を再開し、漁場から鳥取県境港などへの漁獲物輸送に従事しているうち、過給機タービン側軸受室において、パッキンの硬化によって隙間が生じたために油面計から潤滑油が徐々に漏れ始め、やがて油面の低下によって円板ポンプによる循環量が減少し、同側玉軸受が異状摩耗し始めるとともに、同油の汚損が進行した。
 ところが、A受審人は、操業の合間や航海中に定期的に機関室の見回りを行っていたものの、過給機タービン側軸受室の油面計から潤滑油がわずかに漏洩(ろうえい)していることに気付かずにいたところ、越えて9月に入ったころ、同室の潤滑油の色が黒くなってきたを認めたにもかかわらず、油面計窓板の上限線と下限線との間に付着した汚れの線を油面と見間違え、油量には変化がないものと思い、同室の潤滑油量と油漏れの有無とを十分に点検しなかったので、同油が減少して軸受の異状摩耗が進行していることに気付かないまま運転を続けた。
 こうして、浦郷丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、同月7日18時ごろ水揚げを終えて境港を発し、隠岐諸島島後沖合の漁場に至って船団の操業に加わったのち、約2トンの漁獲物を積み、翌8日05時10分漁場を発して境港に向かい、主機を回転数毎分630の全速力前進にかけて航行中、潤滑阻害された過給機タービン側軸受が摩滅してロータ軸が振れ回り、06時00分那久埼灯台から真方位292度3.4海里の地点において、煙突から黒煙を発するとともに主機の回転数が低下した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 魚倉の周囲で作業をしていたA受審人は、船長から主機の回転数が低下したと告げられて機関室に急行し、主機の給気圧力計の示度がゼロになっているのを認め、回転数を上げると黒煙を発して排気温度が過高することから、正常運転が不能となった旨を船団の漁労長に報告した。
 浦郷丸は、漁獲物輸送を断念して低速運転で浦郷港に一旦戻ったのち、僚船に曳航されて境港に入港し、修理業者による過給機の点検が行われた結果、両軸受のほか、回転部とこれに隣接する固定部の部品とが接触損傷していることが判明し、のち過給機は中古品と取替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機過給機軸受室の潤滑油量と油漏れの有無との点検が不十分で、パッキンの硬化によって隙間が生じたタービン側軸受室の油面計から潤滑油が漏洩するまま運転が続けられ、同側軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、自己給油式の主機過給機の運転管理に当たる場合、潤滑油量が減少して軸受の潤滑が阻害されることのないよう、軸受室の潤滑油量と油漏れの有無とを十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、タービン側軸受室の潤滑油の色が黒くなってきたのを認めたにもかかわらず、油面計窓板の上限線と下限線との間に付着していた汚れの線を油面と見間違え、油量には変化がないものと思い、軸受室の潤滑油量と油漏れの有無とを十分に点検しなかった職務上の過失により、パッキンの硬化によって隙間が生じた同室の油面計から潤滑油が漏洩していることに気付かないまま運転を続け、同側軸受の潤滑阻害を招き、回転部とこれに隣接する固定部の部品などを損傷させるに至った。





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